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日の丸弁当の厳格な法則 松坂大輔と不思議な相関関係

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

毎週日曜更新、談笑一門でのまくら投げ。今週のお題は「お弁当」ということで、今週も次の師匠まで無事にまくらを届けたい。

25歳を過ぎるまで、僕は日の丸弁当しか食べたことがなかった。

というか、物心ついてからそれまでずっと、日の丸弁当以外のお弁当を見たことがなかったから、お弁当=日の丸弁当であって、のり弁だとか幕の内弁当だとか、世の中にはそんなにたくさんのおかずが詰まった夢のようなお弁当があること自体を知らなかった。

主にお弁当を食べていたのは中学生のころで、もちろん3年間日の丸弁当だけを食べ続けた。正しくは、日の丸弁当と、日の丸弁当の失敗作とを食べ続けた。

今思えば、クラスメートたちは色とりどりのおかずが詰まったお弁当を食べていたのだろうと想像できるけど、当時の僕は自分のお弁当だけに焦点を合わせて、周囲はボヤケるような視界の使い方でもってお弁当を食べていたから、みんながどんな弁当を食べているのか知らなかった。

そう言えば隣の席から「シャキシャキ」という音(いま考えたらサンドイッチのレタスの音だろう)や、「バリバリ」という音(いま考えたら豚バラとレンコンの甘酢炒めに違いない)が聞こえてきて、不思議に感じたことが何度もあった。

例外はあれども、基本的に白いご飯と梅干しだけで構成されている日の丸弁当では、どんなふうに食べても「シャキシャキ」とか「バリバリ」という咀嚼(そしゃく)音を生み出すことはできない。梅干しの種をうまく使いこなせば、ともすれば可能かもしれないけど、当時の僕にそんな技術はなかった。

とにかく僕は中学3年間ひたすらに日の丸弁当と、日の丸弁当の失敗作を食べ続けた。

いや、これだと自分に都合良く表記しすぎで、正しくは中学3年間で日の丸弁当を食べられたのは2回だけ。それ以外は日の丸弁当の失敗作を食べ続けた。

と言うのも、日の丸弁当を作るのはとても難しくて、基本的にはどうやっても失敗してしまうのだ。

専門的な話になるから簡単に説明すると、正しい日の丸弁当を作るには、まず白ご飯を「縦の辺が横の辺の3分の2」になるようにお弁当箱につめる必要がある。これが第一の関門で、なかなかこのサイズぴったりのお弁当箱が売っていないのだ。だからお弁当箱いっぱいに白ご飯をつめた時点ですでに、日の丸弁当の失敗作となってしまう。

中学2年のとき、お年玉の全てを費やして特注のお弁当箱を業者さんに作ってもらうまではただただ失敗を重ねるしかなかった。

白いご飯の縦横比をクリアしたとしても、日の丸弁当作りの難しさはまだある。それは梅干しの配置だ。しかるべき場所にしかるべき数量の梅干しを配置しなくてはいけないけど、実際にやってみると、これがとても難しいのだ。

 梅干しを真ん丸に成形することも難しいし、真ん丸に成形した梅干しを所定の位置に配置することも難しい。ついつい梅干しの位置がズレてしまうのだ。

白いご飯に対する梅干しの大きさは法律で決まっていて、具体的に示すと「梅干し部分の直径はお弁当箱の縦の辺の5分の3」で、円の中心がお弁当箱の中心になるように配するのが正しい位置である。日の丸弁当を船などで、国旗代わりに掲げる場合は縦横比を7対10にしたり、梅干し部分の位置を、お弁当箱の中心から旗ざお側に横幅の100分の1ほど偏した位置にしたりもするけど、基本的にお弁当箱を船で掲げるつもりはなかったから、僕は円の中心がお弁当箱の中心になるように配することにしていた。

それにしても、梅干しの位置がズレるズレる。

もともと細かい作業が苦手で、紙を半分に折る時もどうしてもズレてしまうような人間だから、中心に配置しようとした梅干しが、梅干し1個分右上に外れたり、左下の枠内ギリギリにズレてしまったり……連日ズレ続けた。調子が悪いと梅干しが枠内に納まらず、お弁当箱の外にはみ出てしまう日もあった。

せっかく梅干しが良い位置に納まってくれたのに、その日に限ってご飯が青のりをまぶした緑色の混ぜご飯になっていて、バングラデシュ弁当になってしまったこともあった。

また、どういうわけか梅干しが枠内に2つ入っている変な日もあった。もし太陽が2つ昇る日本があったら、そこでの日の丸弁当はこんな具合なのかもしれないな。太陽が2つ昇るということは、僕の影が2つになるということで、時間によってはその2つの影が1つに重なる瞬間もあるのだろうか。だとしたらなにか特別に感じるその瞬間は、きっと俳句に詠まれるんだろうなぁなどと考えながら、今いる世界では失敗作の日の丸弁当を食べた。

何度作っても、梅干しが真ん中に配置されることはなく、いつも左下にズレたり、右上にズレたり、お弁当箱の枠外に出たりが続いた。

ある時から、僕は梅干しがどうズレたかデータを取るようになった。「右下」「梅干し1つ分左下の枠外」「右上すみ」「左下」……と毎日毎日データを取るうちに、僕はどこかでこの配置を見たことのある気がした。「左下」の次は何となく「右上すみ」がくる気がするし、現に思ったとおりの配置になることも多々あった。

なぜ何となく次の梅干しの配置が分かるのだろうかと考え続けているうちに、あることに気がついた。僕の日の丸弁当の梅干しの位置と、当時横浜高校の松坂大輔投手のピッチングとが完全に一致していたのだ。県大会の準々決勝での松坂投手のピッチング。初球はインコース低めのストレート、1ストライク。続いてアウトコース低めにカーブ、1ストライク1ボール。胸元をえぐるようなインハイへのストレート、2ストライク1ボール。アウトコース低めにスライダー、2ストライク2ボール。決め球は147キロのストレートをインコース高めにズドンっと投げて三振。

という見事なピッチングに呼応するかの如く、僕の日の丸弁当の梅干しも、「右下」「梅干し1つ分左下の枠外」「右上すみ」「左下の枠外」「右上すみ」とズレ続けた。

僕の梅干しが先か、松坂投手のピッチングが先かは分からないけど、とにかく僕の梅干しと松坂投手のピッチングには、相関関係があったのだ。世界は不思議に満ちている。

先に書いたように、僕は中学の3年間で2回だけ正しい日の丸弁当を食べられた。2回だけ真ん中に梅干しを配置することができたのだ。そして、県大会の準々決勝。松坂投手は相手チームに2本のヒットを許した。そのどちらもど真ん中への失投だった。

(次回6月4日は立川談笑さんの予定です)

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。

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