アート&レビュー

エンタウオッチング

「本屋大賞」に新たな役割 恩田陸の受賞に2つの意味

2017/6/3

 4月11日に「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2017年本屋大賞」の発表会が都内の明治記念館で開かれ、恩田陸の『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)の大賞受賞が発表された。14回目となる今回、恩田陸の大賞受賞は2度目で、直木賞の受賞作が本屋大賞に選ばれるのは初めてだ。

2017年本屋大賞を受賞した恩田陸。「12年前に受賞したときは、92年にデビューして10年ほど文学賞に落選し続けていたときでした。再び賞をいただけたことで、自分が頑張ってきたことが間違いではなかったと実感しています」

 受賞作は、国際ピアノコンクールの参加者それぞれの事情と音色を丁寧に追った長編小説。投票した書店員からは「するすると乾いた土に水が染み込むように言葉が体に入り込んでくる」(星裕子・西沢書店大町店)、「私はクラシックに詳しくもないしピアノも弾けない。しかし、読めば頭の中で楽器が鳴り出し奏でだす」(内山はるか・SHIBUYA TSUTAYA)などの推薦コメントが寄せられた。

 14回目となる今回は、1次投票に全国446店の書店から564人、二次投票に全国288書店から346人が参加し、ともに昨年比で微増だ。

 今回の受賞作は、2つの意味で本屋大賞の文学賞としての質を問う結果となった。1つは直木賞との関係、そしてもう1つは同一著者による複数回受賞だ。

 第1回の発表会で、本屋大賞実行委員会理事長の浜本茂氏は「打倒!直木賞」を明言している。だが今回は直木賞受賞作『蜜蜂と遠雷』が大賞に選ばれており、初のW受賞となる。第1回から本屋大賞を見守り続けているライターの永江朗氏は「参加する書店員数が増えると、自然と賞を創設した当初の意図を知らない層が厚くなる。文学賞受賞作など、世間の注目が高い作品に票が集まるのは仕方がない」と分析する。

 一方、浜本氏は「古くから投票している書店員にも今回は恩田さんに投票した人たちがいる。14年という時の経過とともに“本当に売りたい”本を選ぶ方向に賞の質が変化したのだと思う」との見解を示す。

 直木賞など日本の文学賞のほとんどが同一著者による複数回受賞を認めないなか、今回の本屋大賞では第2回(05年)の『夜のピクニック』に続き恩田陸が再び選ばれた。浜本氏は「本屋大賞でなければありえない出来事。毎年毎年新鮮な気持ちで作品と接するからこそ得られた結果」と胸を張る。永江氏も「英ブッカー賞など、世界には同じ作家が何度も受賞できる文学賞はある。日本の文学界で本屋大賞が担う役割が、ひとつ明らかになった」と本屋大賞の今後に期待を寄せる。

 アンチ直木賞からスタートした本屋大賞だが、今回の直木賞とのW受賞、同一著者の2回目受賞によって、既存の日本の文学賞とは一線を画した新たなフェーズに入ったといえそうだ。

 (「日経エンタテインメント!」6月号の記事を再構成。敬称略、文/土田みき 写真/加藤康)

[日経MJ2017年5月26日付]

アート&レビュー

ALL CHANNEL