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芸術家の内奥と表層 ドワイヨンとアザナヴィシウス

カンヌ国際映画祭リポート2017(5)

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NIKKEI STYLE

いきなり吹き出しそうになった。黒みの画面に白、赤、青の文字が表れる。モーツァルトのコンチェルトがかかる。ルイ・ガレル演じるジャン=リュック・ゴダールが登場する。若はげに、無精ひげ。茶色のサングラスをかけ、猫背で、ぼそぼそとしゃべる。あまりにゴダールになりきっていて、そっくりショーかと思ってしまう。

『中国女』(1967年)の撮影現場だ。室内も白、赤、青の原色で構成され、ほぼ正面からゴダールをとらえる。ステイシー・マーティン演じるアンヌ・ヴィアゼムスキーがゴダールを紹介する語りがかぶさる。カメラが切り替わって今度はヴィアゼムスキーを正面からとらえたショット。ゴダールの語りでヴィアゼムスキーを紹介する。そんな撮り方もまるでゴダールのコピーだ。

21日にコンペで上映されたフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督『ルドゥターブル』。『中国女』のヒロインで、当時のゴダールのミューズだったアンヌ・ヴィアゼムスキーの小説「1年後」が原作だ。その前作で邦訳もある「彼女のひたむきな12カ月」のエピソードも一部入っている。どちらもヴィアゼムスキー自身が当時を振り返り、人物を実名で登場させ、恋愛、結婚、幻滅をつづる。

2人が結婚したのは『中国女』の完成直後で、ゴダール36歳、ヴィアゼムスキー20歳。アンナ・カリーナに去られた後、マリナ・ブラディを追いかけていたゴダールが新たに目を付けたのは、まだ19歳でパリ大学の哲学科を目指して受験勉強にいそしむ少女だった。祖父はノーベル文学賞作家フランソワ・モーリアック、父はロシアの亡命貴族。そんなインテリのブルジョワ娘に、毛沢東主義に心酔し政治的に先鋭化していくゴダールがほれてしまったのだから面白い。

映画は結婚前後からの2人の生活や会話を赤裸々に描き出す。ゴダールは朝、新聞を読みながらいきなり「結婚してくれ」とつぶやく。うれしいときはおどけて、部屋を後ろ向きで歩き回る。

『中国女』が中国大使館の人々に受けなかったと言って、救いようのないほど落胆する。本気で中国に招かれると思っていたのだ。アビニョン演劇祭でも新聞でも不評で、さらに落ち込む。

「ブルジョワを楽しませる映画はもう作らない」と商業主義との決別を宣言し、デモに参加。ところが学生集会では学生からは徹底的に批判される。デモ隊の人々に『勝手にしやがれ』のような映画をまた作ってくれと言われ、困惑する。警察に追われ、友人に殴られ、何度もメガネを割る。

そんなぐあいにゴダールの俗物性が丸出しになっている。極め付きはその異常な嫉妬深さ。ゴダールがチェコで、ヴィアゼムスキーがイタリアで撮影し、久しぶりに再会した時、やきもちから、ねちねちと若妻をののしり、泣かせてしまう。そして……。

ゴダールの美学や思想はほとんど語られない。そんなものが簡単に語れるとは思っていないのだろう。アザナヴィシウスはひたすら表層的に俗物としてのゴダールを描く。それは映画のスタイルも同じだ。人物がカメラに向かって語りかけるショットや、さまざまなスローガンと原色の乱舞。こちらもひたすら表層的なものまねである。

猿まねもここまで徹底すると、それはそれで楽しい。映画の中のゴダールが語るように、ゴダール自身もゴダールを演じていたのだろう。ウォーホルがウォーホルを演じていたように。アザナヴィシウスは案外、分をわきまえている。

創作するロダンを凝視する

 アザナヴィシウス作品とは対照的に、ジャック・ドワイヨン監督『ロダン』は、近代彫刻の父であるオーギュスト・ロダンが制作する姿を徹底的に凝視することで、その内面の奥深くに迫ろうとする。24日のコンペに登場した。

映画はロダン(ヴァンサン・ランドン)が「地獄の門」の制作を依頼された40歳のころから始まる。信頼する弟子であり、愛人でもあるカミーユ・クローデルに助言を求めながら、額や唇のちょっとした形を修正していく。

「見たものは忘れない。記憶で仕事をしている」というロダンの集中力はすごい。常に何かを凝視し、手で触れて、凹凸を感じている。バルザック像のモデルに骨格が似た男を探して、その故郷を訪ねるほど研究熱心でもある。若いセザンヌには「他人の意見は聞かず作り続けろ」と助言する。

その一方で猛烈な女好きだ。カミーユとは至る所で愛し合う。狂おしいほどの愛だ。2人でろうそくをともしてギリシャ彫刻を見ながら「愛撫(あいぶ)とキスで作ったようだ」と感嘆するシーンはこの上なく美しい。内縁関係の女ローズがいるにもかかわらず、カミーユと結婚の契約書をつくる。

しかし彫刻家としてのカミーユは壁にぶつかる。女であるがゆえに裸像の展示が拒否される。ロダンの付属物としてしか見られない。ヒステリックなカミーユがロダンには重荷になっていく。

ロダンはロダンで、バルザック像の酷評に落胆しながらも「引き取って私の所に置く。一生愛し続ける」と宣言する。弟子やモデルと寝まくり、ローズやその子供には冷たい。この芸術家にとって人生は、作り続けることでしかない。

この映画ではカミーユとの悲恋もスキャンダルも、すべてロダンの創作欲を浮き彫りにする補助線にすぎない。ドワイヨンのまなざしはその一点に集中している。ランドンの大きな目が粘土や石こう、自然の造形や女体をじっと見つめるように、ドワイヨンもロダンをじっと見つめ、その魂に触れようとする。ポスト・ヌーベルバーグ世代の73歳。凝視する映画作家の面目躍如である。

愚かしさが愛らしいホン・サンス

 審査員を務めているパク・チャヌクやコンペに出品しているポン・ジュノなど韓国の1960年代生まれの監督は個性派ぞろいだが、中でもホン・サンスの個性は突出している。低予算、短時間、登場人物も少なく、どこにでもいるごく普通の人たちのスケッチのような作品ばかりなのに、誰の映画にもまったく似ていない。22日のコンペで上映された『ザ・デイ・アフター』もそうだ。

文芸評論家で小さな出版社を営んでいる男は、妻から浮気を疑われている。実際に部下の女性とつきあっていたのだが、ちょっと前に別れたところだ。辞めた部下の代わりに若いアルムが雇われる。今日はアルムの最初の出勤日だ。

さっそくお昼を食べに行き、酒を飲みながら、男とアルムは話し込む。作家志望のアルムは利発でよく話す。両親が離婚したこと、父と姉が死んだこと、男を尊敬していること。「若く見える」と言われて、男はいい気分だ。酒が進む。「あなたはなぜ生きてるの」とアルム。「君は何を信じているの」と男。2人はいい気分になって、人生について深く話し込む。

事務所に戻ると、男の妻がいきり立ってやってくる。男が女にあてた手紙を自宅で見つけたのだ。妻はアルムが愛人なのだと勘違いし、いきなり殴る。男はつきあっていたのは元部下で、もう別れたと弁解するが、妻の怒りは収まらない。アルムは「私も辞めた方がいいですね」と身を引こうとする。男は懸命に引き留める。

男とアルムは再び飲みにいく。すると今度は別れた元部下がひょっこり現れる。彼女はまだ男を愛していると言い、また一緒に働きたいという。男は一転して、アルムに辞めてほしいという。アルムはあきれる……。

このなんとも優柔不断で、身勝手で、飲んだくれで、だらしない男こそ、ホン・サンス映画に頻出する、ホン・サンス的人物なのだ。今回も女たちを振り回しながら、まったく懲りていない。そんな男の身勝手やバカっぷりを辛辣に描き出しながら、追い詰めはしない。人間なんていいかげんなもんだという諦念があって、その愚かしさが愛らしさにみえてくる。

人間の悪意をえぐり出し、告発する作品が目立つコンペで、この融通無碍(ゆうずうむげ)なまなざしは異彩を放つ。ほっとした、と言ったら怒られるだろうか。

『BPM』の闘う若者たち

前半のコンペ作品ではフランスのロバン・カンピヨ監督『BPM(ビーツ・パー・ミニット)』に好感をもった。1990年代初頭のエイズウイルス(HIV)感染者たちの人権を守るために闘ったパリの若者たちの物語。まだエイズが死の病であると信じられていた時代である。

活動家グループは大学で講義を乗っ取り、エイズの啓蒙パンフレットやコンドームを配る。無理解な製薬会社に乗り込み、血のりを入れた袋を投げつける。死と隣り合わせの若者たちは、世間の偏見にあらがうように、闘争の合間にも愛し合う。清潔でリアルな描写から、ピュアな感情が伝わってくる。いつの時代も闘う若者たちは美しい。

河瀬作品に手厳しい新聞評

河瀬直美監督『光』上映から一夜明けた24日、さっそくフランスの新聞各紙に批評が出た。これが、かなり手厳しい。

ルモンドは「彼女の紋切り型の映像美や物事の非永続性の自明の理の繰り返し」を指摘し、「甘ったるさと紙一重のなめらかさは彼女の知性と才能を覆い隠す」と批判した。リベラシオンは「ある視点(UN CERTAIN REGARD)」をもじった「不確かな視点(UNCERTAIN REGARD)」という見出しを掲げ、「彼女が『沙羅双樹』や『2つ目の窓』を作った時、その霊媒師的な気質の良い波長を見つけたように見えた。しかしより商業的な映画の基準に答えようとした途端、曖昧なアプローチとショットの手応えのなさが、ニューエージのフォトロマンかインテリのテレビ小説の境界へと彼女を導いた」と辛辣だ。

一方、黒沢清監督『散歩する侵略者』は好評だった。

ルモンドは「黒沢清は最も文明化した世界で、常にえたいの知れない恐怖を呼び起こし、大災害と混沌が迫ってくる感情を描き、社会全体に根ざした隠然たる死への願望を浮かび上がらせることに成功した」と称賛。リベラシオンは「賢明で残酷な黒沢にとって、人間になることは『仕事』『所有』『自己』を学ぶことではない。それらの本質的な根拠の不在、抽象的概念、つまりそれらをより上手に追い払い、全てを取り戻すためにそれらを理解することである」と評した。

(編集委員 古賀重樹)

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