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カルロス・ゴーンの経営論

日産ゴーン氏「中期と短期、どちらを無視してもダメ」 カルロス・ゴーン熱血教室(5)

2017/5/30

写真:酒井宏樹 保坂真弓 Hollyhock Inc.

 カルロス・ゴーン氏を主役に据え、2015年から開かれている「逆風下のリーダーシップ養成講座」(日産財団主催)。その成果をまとめた本「カルロス・ゴーンの経営論」(日本経済新聞出版社)が出版されました。本書の中からグローバル・リーダーシップをめぐるゴーン氏との質疑の一部を連載していきます。5回目は中長期の目標と短期的課題に矛盾が生じたときどう対処すべきか、ゴーン氏が答えます。

中長期の目標と短期的課題

リーダーは中長期的な目標を示すとともに短期的な問題解決をしなければならない

Q 中長期的な目標と、短期的な課題との間に矛盾が生じた時、リーダーはどのように対処すればよいでしょうか。

 どんなリーダーも、「北はどの方角か、つまり、我々が目指すところはどこであるか」を常に考えて、それをメンバーに示していかなければなりません。つまり、中長期的な目標は何かを明確にしておき、それを何度もメンバーに説明しなければならないのです。毎日ではなくてもよいでしょうが、少なくとも1年に一度は、ちゃんと「北はこっちだ」と、目指すべき方向を示さなければなりません。そして、北を目指すにしてもどこまで進まなければならないか、何を達成すればよいのかも説明しなければなりません。同時に、なぜそこまで達成しなければならないかも説明する必要があります。

 日産自動車は、中長期的な計画を定期的に策定し、それを従業員に伝えることを繰り返しています。そうすることで、従業員達に「これから6年間、自分達は何をすべきか」ということを事前に理解してもらえるからです。誰もが、目指すべき最終目標を認識しています。

 ただし同時に、毎月や四半期ごとといった、より短期的な目標を立てて、それに対する結果も出していかなければなりません。なぜなら、市場や株主に見られているからです。

 長期的な目標と短期的な目標の両方を持っていると、時にこの2つが矛盾するようなことも起こります。具体的に言うと、2008年に金融危機が起きる直前の5月、私どもは新中期経営計画を発表しました。この中期経営計画では、力強い事業の成長や、多くの商品開発や技術開発を目指して、これらに向けて大規模に投資する予定でいました。

 果たしてこの中期経営計画を発表した1年後、どうなっていたか。金融機能はマヒし、世界のあらゆる会社が危機的状況に陥っていました。もちろんルノー・日産アライアンスも例外ではありません。

 この時、力強い成長を目標に掲げていた中期経営計画に対し、短期的に会社を破綻させないことが最優先課題になりました。長期的に成長を目指すことと、短期的に会社を破綻させないことはかなり矛盾しますが、会社が破綻しては身も蓋もありません。

 そこで実行したことは、中期経営計画の一時中断でした。利益を上げる以前の話として、とにかくキャッシュを確保することに集中しました。従業員には、危機的な状況への緊急的な措置であることを理解してもらうよう、説明しました。そして、この緊急の危機的状況を脱したのちは、すみやかに従来の中期経営計画の目標達成に視点を移しました。

「北はこっちだ。ここまで進もう」と言って、組織を推進しているなかで、時にその中断を迫られる場面もありえます。その時は、今起きている例外的な状況に対処しなければなりません。しかし、それははじめに言っていた「ここまで進もう」という計画を捨ててしまうことでは、決してありません。どうして中断が必要なのかをメンバーに説明する。そして、中断時の状況対処が終わったらすぐにまた従来の計画に戻って従来の目標を目指すようにする。これが必要なのです。

 市場(株主、投資家)というものは、はっきり言って6年間の計画なんて無視しています。そんな長い先にある目標達成など信じてくれないからです。「6年後の目標なんかより、3カ月後の実績を見せてくれよ」と言われます。つまり、市場は短期思考なのです。そんな市場に対しては、きちんと短期の成果を出していかなければならない。その一方で、会社の人材に対しては長期的な方向性と目標を示して、みんなを参画させなければならない。従業員を注視して市場を無視しても、市場を注視して従業員を無視しても、どちらもだめなのです。短期的な視野と長期的な視野と、どちらも必要です。

「会社にこれが必要」と信じることを計画にして実行する

Q ゴーンさんは、結果を出すことがリーダーであることの条件だと言いますが、では、結果を出すための計画をどうやって立てたのでしょうか。

 1999年当時、社会は、そして日産の社員達は「この日産自動車という会社は、これまでの計画がすべて失敗しているのに、果たして変革を遂げられるのだろうか」といった疑念を持っていました。銀行は、もはや日産にお金を貸してくれなくなり、資金繰りは逼迫していました。とはいえ、誰かが出資してくれないかぎり、会社の存続はありえません。過去と同じような計画を立てて実行していては明らかにだめだったわけです。過去と同じことをしても、過去と同じ結果にしかなりません。

 では、私がどのように会社を変革するための計画を立てたか。これは重要なことですが、成功する姿を描いて計画を立てることはありませんでした。なぜなら、成功するかどうかは、その時点では予測できないからです。そうではなくて、リスクの存在をきちんと認識したうえで、「この会社にとって、これは絶対に必要なことだ」という思いをもって、計画を立てたのです。

 資金を投入しても、それが確実に利益に変わる保証はどこにもありません。幸運な結果になるかもしれないし、不運な結果になるかもしれない。リーダーたるものは、このリスクをとることを明確に認識しておかなければなりません。リスクをとりたくない人は、リーダーになんてなれませんからね。

 そして、心の底から「この会社にとって、これが必要なのだ」と信じられることについて、それを実行していく決断を下さなければなりません。そこでは、人が「むずかしいだろう」と思っていることや、「やったことがないからできない」と思っていることをお願いしてやってもらうことも必要になります。また、これまでの結果以上に良い結果を出すことも必要になります。未来のことですから、それを実現できるかどうかは分かりません。それでも、失敗も受け入れる覚悟をしたうえで、「この会社にとって、これは絶対に必要だ」と思うことを実行する決定を下していかなければならないのです。

※「カルロス・ゴーンの経営論」(日産財団監修、太田正孝・池上重輔編著、日本経済新聞出版社)より転載

※隔週火曜更新です。次回は6月6日(火)の予定です。

カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座

著者 : 日産財団(監修)、太田正孝・池上重輔(編著)
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)


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