「日本肝臓学会が10年ほど前に、民間薬や健康食品など“病院でもらった薬ではない”ものによる薬物性肝障害の調査を実施しました。薬物性肝障害とは、文字通りクスリなどを摂取したことにより肝臓がダメージを受けることです。この調査の結果では、多種多様な原因があったのですが、原因の中で一番多かったのがウコンだったのです。ウコンによる薬物性肝障害は全体の24.8%と断トツで高い結果となりました[注2]。これを受けて、肝臓専門医の間で、ウコンに気をつけたほうがいいという認識が定着したのです」(浅部さん)
[注2]民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査、恩地森一ら 肝臓 2005;46(3):142-148.
「この調査では、死亡例も3件報告されています。そのうちの1つが、ウコンによる急性肝炎から多臓器不全になり死亡した例です」(浅部さん)
なお、この日本肝臓学会の調査によると、薬物性肝障害を発症した人の中で、民間薬や健康食品を定期的に使用していた人は91%で、そのほとんどが毎日使用していたという。また、発症するまでの使用期間は平均で約160日となったが、30日以内というケースも23.6%あった。
原因不明の肝障害、その原因はウコンかも
また、2013年に発表された「健康食品・サプリメントによる健康被害の現状と患者背景の特徴」(Jpn. J. Drug Inform. 2013;14(4):134-143.)でも、健康食品などに含まれる個々の成分での健康被害報告の中で、ウコンの報告数は3位にランクインしている。
「肝機能を高める」と信じて飲んだはずのウコンが薬物性肝障害の原因の一つに!? こ、これは左党としては聞き捨てならない。
実際、浅部さんは、このデータを実証するような患者に接したことがあるという。
「私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターは、他の病院で原因を特定できなかった患者さんが訪れることが多くあります。肝機能障害を起こし、γ-GTPなどの肝機能値に大きな異常がある患者は、薬物性肝障害である可能性を常に頭に入れて診察します。実際、原因不明の肝障害の方を診察する際、私は患者に必ず3つのことを聞きます。それは『どんな処方薬を飲んでいるか』『サプリ、漢方薬を飲んでいるか』、そして『ウコンを飲んでいるか』です」(浅部さん)
先日も、外来で来た50代の男性で、ウコンが原因で肝障害を起こし、摂取を中断したところ数値が改善したケースがあったそうだ。
「この男性は入院することになるほど、肝機能の数値が悪化していました。この方は、ウコンの成分が入ったサプリを飲むという方法ではなく、ウコンの根の部分そのものを通販で購入して、自分で煮出して抽出して飲むという“ハード”な摂取方法をされていました。ヒアリングでウコンを大量に摂取していたことがわかったため、摂取を中断していただきました。その後、数値が改善したため退院されました」(浅部さん)
では、誰もがこうしたウコンによる薬物性肝障害を危惧しなくてはいけないのだろうか?
「薬物性肝障害は、肝臓に何らかの問題がある人に起こりやすいことがわかっています。ですから、注意が必要なのは、脂肪肝など肝機能に問題がある人、アルコールを常飲する習慣がある人などです。私はそうした方にはウコンは勧めていません」(浅部さん)
ウコンに含まれる「鉄」が肝臓に悪い?
また、脂肪肝などの人にウコンを勧めないもう一つの理由が、ウコンに含まれる「鉄」にあると浅部さんは話す。