都内タクシー、なぜ初乗り410円・80円刻みに?編集委員 小林明

410円が良いか? それとも490円か?

消去法で残った80円刻みの2案、利便性とインパクトで410円に

最後に決め手になったのは(1)近距離利用者への利便性の大きさ(2)初乗り運賃引き下げの社会的なインパクトの大きさ――だったとされる。これに加えて、都内のバスの普通運賃が210円なので「タクシーの初乗り運賃の方が2人分のバス運賃の420円よりも10円安いとPRできる」こともプラス材料になったようだ。

こうして運賃の国際比較、利用者の経済心理、旧運賃との兼ね合い、社会的なインパクトなどを考慮しながら、新運賃が決まっていった(シミュレーションでは初乗り距離は1055メートルだったが、認可された新運賃では1052メートルになった)。

検討の過程で各事業者の頭をよぎったのは「340円タクシー」の教訓だったという。

1997年に東京都内の2000台ほどのタクシーが初乗り運賃を1キロ340円に設定したことがあったが、結局、浸透せずに終わってしまったからだ。「一部の利用者には好評だったが、都内のタクシー台数の1割未満しか導入しなかったので結局、世の中に浸透しなかった」(東京ハイヤー・タクシー協会)

初乗り運賃の引き下げはある程度、大規模に導入しないとやはり定着しない。

ただ現行の「公定幅運賃制」では当時のように運賃が大きく乖離(かいり)してしまう二重運賃問題は発生しにくいので、同じ失敗をおかす恐れはないと判断したとみられる。

340円タクシーの教訓、「中小に不利」懸念も業界足並み

「大手企業よりも中小企業に不利ではないか」――。

業界ではこんな懸念もくすぶっていた。都心を流す大手会社のタクシーよりも、住宅地などを拠点とする中小会社のタクシーの方が初乗り運賃低下のあおりを受け、深刻な売り上げ減少に苦しむのではないかというのだ。

たしかに地域別、時間帯別でタクシーの利用状況を比べると「初乗り運賃で下車する利用者の割合(初乗り割合)は『都心』よりも『住宅地』、『深夜』よりも『朝から昼』の方が明らかに高い傾向がある」(東京ハイヤー・タクシー協会)。

「住宅地」の方が「都心」よりも初乗り割合が4~7ポイントほど高く、22~5時以外の時間帯なら「住宅地」は初乗り割合が3割台半ばなのに、22~5時の「都心」では初乗り割合が14.7%とかなり低い。

利用状況が変わらなければ、「住宅地」で「深夜」以外に営業しているタクシーの売り上げがそのまま減る計算になる。

とはいえ「そうした懸念よりも業界全体の低迷状態の方が深刻だった」と多くの業界関係者は振り返る。むしろ初乗り運賃の引き下げで『ちょい乗り』需要の喚起に期待しようという業界としての機運の方が急速に強まっていった。

このような様々な経緯を経て、「初乗り410円・80円刻み」という新運賃体系が最終的に形成されたのだ。

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