「利回り4%以上」を厳守 桐谷流・優待投資のルール

日経マネー

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食事から服、日用品、家電、レジャーなどまで、株主優待で得た品物や金券で生活の大半を賄っている桐谷広人さん。テレビ番組や雑誌などにも数多く登場し、今や「日本で最も顔の知られた個人投資家」といっても過言ではない。投資には興味がなくても、自転車をこいで優待が使える店へと疾走する姿に見覚えのある人はきっと多いだろう。今回はスペシャル版として、桐谷さんの優待投資の歴史とノウハウを公開する。

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桐谷さんが年間に取得する優待は実に約800銘柄分。「講演などの際、『日本一、優待株を持っている個人投資家です』と言い続けられるように、現在も保有銘柄を増やし続けています」という。

桐谷広人(きりたに・ひろと) 67歳。元プロ棋士(七段)。1984年の失恋を機に株式投資を始める。現在800以上の優待銘柄を持ち、その優待品で日々の生活をほぼ賄っている。癒やされる人柄も人気の理由

優待をとことんまで使い込むライフスタイルが注目され、人気者となった桐谷さん。しかし、最初から“優待族”だったわけではない。ここにたどり着くまでには、ジェットコースターのような株式投資の道のりがあった。かつての資産額のピークは3億円。それが一時5000万円に減り、そして今、“優待投資パワー”で2億5000万円まで回復してきたのだ。

3億円からの急降下で眠れず

将棋のプロ棋士だった桐谷さんが株を始めたのは1984年。その数年前から、仕事として毎月1回、証券マンに将棋を指導していたことがきっかけだった。

「その縁で、住まいの近くにあった証券会社の営業所に顔を出すようになり、付き合いで株を少し買うことにしました。最初は二十数万円ほどでしたが、1カ月で5万円も儲かりました。そのうち、将棋を教えていた証券マンの間に、私が株を始めたことが広まっちゃいまして(笑)。それで投資額を次第に増やしていったんです」

程なく、日本はバブル景気に突入。買った株は軒並み値上がりしていく。5年後の89年末には日経平均株価が4万円に迫る高値を付け、桐谷さんも大波に乗って約1億円の利益を得た。「これはいいなと思い、信用取引も始めました。ところが、そこが相場のピーク。バブル崩壊で株価が下がる中でもどんどん買った結果、大損です。利益の大半が吹っ飛びました」

90年9月には、信用取引を全て手じまった直後に相場が急反発し、悔しい思いもした。「その時の経験が、『損切りはしない』という今の投資スタイルの原点なんです」

その後は、棋士としての収入を投資に回しながら資産をこつこつと回復。しかし今度は、山一証券の倒産(97年)で約2000万円の損失を出す。株の評価額が増えたり減ったりの中、転機となったのは2000年頃からの証券取引のネット化。安い手数料を武器に株の売買を積極的に行い、資産額を伸ばしていく。「小泉郵政相場」にうまく乗り、05年後半~06年初めには資産が3億円に到達した。

(イラスト:伊野孝行)

07年春には57歳で棋士を引退。「そこで株をより一生懸命やろうと、信用取引も拡大したのですが……」。待ち受けていたのはサブプライムローン問題、そして08年のリーマン・ショックだった。

「信用取引の追い証で、毎日何百万円と用立てなくてはいけない。とにかく値がさ株をどんどん売って充てました。もう夜も眠れないし、まさに死ぬような思いですね」

資産は5000万円を切るまでに急減。それでも、全て投げることはしなかった。「その時に手元に残した、金額の安い株の優待品や優待券で何とか食いつなぐことができたんです。お米とか食事券、買い物券などですね。優待はありがたいものだ、と強く感じました」

こうして桐谷さんは、優待投資へとかじを切り始める。運用は次第に持ち直し、12年のアベノミクス相場開始後は信用取引もやめて、投資戦略を「優待&配当」中心に完全に切り替えた。「猛獣狩りをやめ、農業型の投資にしたわけです。投資を33年間やってきて痛感しているのは、儲かったところで調子に乗ると必ず痛い目に遭うということ。でも優待投資なら、もうそんなことはありません」

この頃から愉快なキャラクターで人気者になり、講演の仕事も次々と舞い込むように。資産は現在、かつてのピークにあと一歩まで回復している。こうした“歴史”を知ると、桐谷さんを見る目もまた違ったものになるだろう。

買う基準は利回り4%以上

銘柄選びで重視するのは、利回り面での割安度。必ず安い状態を買い、割高にならない限りは売らない。「大底で投げたら取り返しがつきませんからね。上がらない時は塩漬け。でも、持ち続けていれば優待品は来るわけです(笑)」

注:2017年5月9日時点。配は配当利回り、優は優待利回り(優待を得られる最少株数ベース)。同内容の優待が年2回ある場合、1回分の内容を表記

投資の判断基準は「優待+配当利回りが4%」。1年間に優待でもらえる品物をざっと金額換算し、配当と足した金額の利回りが4%以上なら買う。買った株が値上がりし、利回り面で割高になったと判断したら利食い売りもする。その銘柄が再び安くなり、利回り4%基準に達したら買い戻す。

この基本は、優待投資を始めてから今まで変わらない。自分で決めたルールを着実に守り、ここまで資産を回復してきたのだ。

「優待の新設や変更・廃止でも株価が結構動くので、取引所の適時開示情報を日々チェックしてノートに付けています」。利回りと値動きを細かく見る一方で、企業の業態や業績動向はそれほど気にしないのが桐谷流だ。

こうして桐谷さんは、魅力ある優待株を次々と手に入れる。そして優待券が期限切れにならないよう、自転車で走り回る。

6月の権利確定銘柄

では最後に、株主優待ブログ「毎日優待三昧」が人気の個人投資家rika氏が厳選した「2017年6月に入手できるお得銘柄」を紹介しよう。2017年6月中に割当基準日を迎える銘柄だ(なお、2017年6月末が割当基準日の場合、優待を得るための最終売買日は、6月27日になる)。銘柄選択の際の参考にしてほしい。

注:データは2017年5月8日時点。同内容の優待が年2回ある場合、1回分の内容を表記。利回りの――は算出不能を示す

(日経マネー 小谷真幸)

[日経マネー2017年7月号の記事を再構成]

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