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ワープロ、日付なしはNG 遺言が無効になるケースは 弁護士 志賀剛一

2017/6/8

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Case:11 先日、父が亡くなり、遺品を整理していたら封筒が出てきました。封を切って中を見ると便箋が入っており、「自宅の土地建物と横浜の土地は、長男である○○(私の名前)に相続させる」と父の字で書いてありました。母はすでに他界しているので、相続人は私と弟の2人。弟とはあまり仲がよくありませんが、連絡をとって遺言を見せたところ、「遺言書を勝手に開封している。それだけで無効だ。それ以外にもおかしな点がある」と言い出しました。父は自宅の東京の土地や建物のほか、横浜に土地を持っており、生前から「あれは将来、兄のお前にやる」と言っていました。弟はたぶんそれがねたましいのです。この遺言は無効なのでしょうか。

■自筆の証書遺言は「検認」が必要

 遺言書の保管者は相続の開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出し、その「検認」を請求しなければなりません。封印のある遺言書は家裁で相続人またはその代理人の立ち会いがなければ、開封できないことになっています。家裁での検認手続きでは、出席した相続人と裁判官、書記官が立ち会い、遺言書を開封。日付、筆跡、署名、本文を確認します。確認後、検認調書が作られます。

 今回相談のケースは、検認手続きを経ないで遺言書を開封してしまったようですが、この場合、5万円以下の過料が科せられます。しかし検認は遺言の有効か無効かを判断する手続きではないので、検認前に開封したというだけで遺言が無効になることはありません(ただし、遺言内容の真実性の判断に影響を与える可能性はあります)。開封後であっても家裁に検認の申し立てをすることは可能ですので、直ちに申し立てをすべきでしょう。

■無効な自筆証書遺言の例

 民法は「自筆の証書で遺言を残すには、遺言者が、その全文や日付、氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と規定しています。自筆証書遺言は「要式性」といって、法律で厳しい方式が決められています。しかし残念なことに、我々弁護士のもとへ持ち込まれる自筆証書遺言の何割かは遺言書としての効力に疑問があるものです。

 無効な遺言の例としては、(1)ワープロなどパソコンの文書ソフトを使っていて自筆で書かれていない(2)遺言作成の日付がない(3)遺言の文言になっていない、などです。Wordなどパソコンの文書ソフト全盛の時代ではありますが、民法は「全文や日付、氏名を自書」せよと定めています。遺産がたくさんある方などは、Excelなどで表にして物件目録を作成し、添付したほうが間違いも少ないし、楽ですよね。しかし、これも考えもの。本文は手書きなのに目録がタイプ打ち、という遺言を無効とした判例があります。

 次に、案外多いのが日付のない遺言であり、これも無効です。しかも年月日がきちんと書かれていないとダメです。「昭和41年7月吉日」と書かれた遺言を無効と判断した判例があります。日付ぐらい多少あいまいでも構わないではないか、と思う人もいるかもしれません。しかし遺言は、複数ある場合には後に作成されたものが効力的には優先します。また、遺言作成能力があったのかどうかが争われた場合、作成の日付が重要になります。このため日付がない遺言書は無効とせざるをえないのです。

 遺言の文言にも問題があることが少なくありません。相談のケースは「相続させる」と書いてあり、相続人に財産を残す遺言であるならば、これが一番正しい書き方です。相続権のない者、たとえば内縁の妻に対して財産を残したい場合は「遺贈する」と書きます。実務でしばしば目にするのは「与える」「譲る」「まかせる」などの表現です。

 最高裁は遺言の解釈について次のような考え方を示しています。「遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたっても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである」。せっかくの故人の遺志をなるべく尊重しようという趣旨です。「与える」「譲る」などはおおむね「相続させる」と同じ意味に解釈されていますが、「まかせる」と書かれたケースでは結論を異にする複数の判例が出ています。

■あいまいな物件特定

 相談のケースでは、財産の特定が「自宅土地建物」および「横浜の土地」としか書かれていません。まず、「横浜の土地」では明らかに特定が不十分です。横浜に父親が所有していた土地が一筆しかなく、家族の間では「横浜の土地」で意味が通じるとしても、法務局はそうはいきません。遺言書はそれを使って不動産登記をするのですが、この表現では登記ができないはずです。

 一方、「自宅土地建物」はどうでしょうか。遺言書には父親の住所が書いてあると思われるので、遺言書上、自宅土地建物の所在地はわかるではないか、とも解されます。しかし住所を示す「住居表示」と、不動産の所在地を示す「地番」は原則異なっています。おそらくこの記載では法務局は登記を受理しないと思います(ただし、まだ住居表示が実施されていない地域では両者が一致することもあります)。

 結局、「自宅土地建物」「横浜の土地」の記載があいまいなので、この遺言書では登記は難しいといえます。そうなると、遺言に基づく財産の移転ができないので、振り出しに戻って遺産分割協議となります。その際、この遺言書は父親(被相続人)が不動産を兄のあなたに相続させたがっていたという事実の証明にはなります。任意の協議が決裂し、遺産分割調停、審判へ移行した場合に、故人の遺志を推し量る証拠にはなるでしょう。

■なるべく公正証書で

 自筆証書遺言はペンと紙さえあれば書けるので簡便ですが、せっかくの遺志が無効と判断され、反映されない場合があります。我々のところに相談に来られた場合には、遺言の成立に疑義が生じにくく、また、紛失のおそれがない公正証書遺言を勧めています。もちろん、内容面についても遺言書で確実に遺言執行や登記ができるようにアドバイスいたします。

 さらに私の場合、遺言書の最後に被相続人の気持ちをしたためた自筆の手紙を付言事項として添付していただくようにしています。相続人の気持ちが明らかになるのは亡くなられた後です。「そこはそういう意味じゃない」「そんなつもりではなかった」などと説明することはできません。遺言は亡くなった後に訂正も補足もできないからです。遺志が正確に反映されるようにしたいですね。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に、企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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