「もどき冷食」に驚き アレがうなぎに、コレがエビに
2017年上半期、冷凍食品業界でマルハニチロが異色の動きを見せている。「もどき冷食」ともいうべき新商品を相次いで投入しているのだ。
「うなぎみたいな白身魚天ぷら蒲焼だれ」は白身魚とすり身を天ぷらにして蒲焼風のタレをかけた商品だが、見た目に筋を入れてうなぎ風にしただけでなく、ある食材を使って「皮」まで作っているのだ。味はもちろん、皮も含めた再現性はどの程度なのか。
まずは実際に商品を食べてみた。すり身と白身魚がバランス良く配合されていて、しっとりしているのにホロホロとした食感。蒲焼風の甘めのタレと相性が良い。何より、すり身で作った皮の噛み応えが感じられ、うなぎを食べているような気分になれる。皮の色も黒っぽく、実際に見た目も似ているが、いったい何を使っているのか。
「見て驚き、食べて驚く仕掛けが必要だった」
「イカスミを混ぜたすり身を使って皮を再現した」と開発を担当したマルハニチロ市販用冷凍食品部の谷和憲商品開発課長は話す。
「企画段階はうなぎの味だけを再現しようとしていたんです。でも、見た目もホンモノに近づけるために筋を付け、『やっぱり皮も付けよう』と、どんどん話が進みました」(谷課長)。
開発のきっかけは、ネット上で見たレシピ。ちくわを半分に切ってうなぎの形に見立て、それを蒲焼風の味付けをして弁当に入れるというものだった。スーパーの店頭でうなぎ風のかまぼこを見かけたこともあり、手ごろな価格でうなぎを食べたいという人が多いのではないかと考え、開発に至ったという。
うなぎ風の身を再現するのはともかく、なぜ皮まで付けようと思ったのか。その理由として、「見て驚き、食べて驚く仕掛けが必要だった」と谷課長は説明する。味だけを再現できたとしても、それは「おいしい普通の商品」としか認識されない。だが、見た目も含めて話題性の高い商品が作れれば、SNSでの拡散が期待できる。実際、インスタグラムには「#お弁当」というハッシュタグだけでも360万件以上、「#冷凍食品」というハッシュタグも2万件以上に上っている。
コンニャクを入れたエビカツで「食感」を再現
"うなぎみたいな天ぷら"ほど驚きはないが、コンニャクを入れた「プリッと弾むえびカツ」も、もどき系の商品といえるだろう。エビカツ自体は他社でも扱われているが、コンニャクを使った商品は珍しい。
実は弁当用総菜に使うような小エビにはさほど弾力がないという。これまで同社ではエビを大量に使うなどして弾力を出そうとしていたが、消費者がイメージとして持つエビの食感により近づけようと、コンニャクを使用することにしたそうだ。
食べてみると、プリプリとした食感とエビの風味が感じられる。もちろん本物のエビも入っているが、コンニャクのほうが"エビを食べている感覚"が得られるのは面白い。「弾力のある食材を探しているときに研究所がちょうどエビ風味のコンニャクを開発していたため、着想から半年ほどで商品化できた」(谷商品開発課長)という。
「新奇性が高く、通年で扱える商品は棚が作りやすいので、販売店からも歓迎されている」と谷課長は話す。だが技術があっても、それを顧客のニーズにどう生かすかという発想力がなければ商品にできない。これら2つの"もどき冷食"は担当者のアイデアと高い技術力が融合した例といえるだろう。
(文 樋口可奈子、写真 シバタススム)
[日経トレンディネット 2017年4月25日付の記事を再構成]
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