「恋愛自由主義」仏大統領のファーストレディー史
こんにちは。著述・翻訳家の上野陽子です。フランスの大統領選挙が終わり、中道派のエマニュエル・マクロン新大統領が誕生しました。その若さもさることながら、25歳年上の夫人との関係など、プライベートにも注目が集まります。マクロン新大統領から歴代大統領たちまでの、政治手腕と華やかな女性歴を見て行きましょう。
ナポレオンを超えた、フランス最年少の大統領
今回のマクロン大統領の注目度が高かったのは、リベラルな社会と国際協調を重視する政策で、孤立主義や排外主義で極右のルペンを退けたことにもありました。もしルペンが勝ったなら、排他的なトランプのような大統領をヨーロッパにも置くようなもの。胸をなで下ろした人たちも多かったわけです。
さて、39歳のマクロン氏の大統領就任は、1848年に40歳で大統領に就任したナポレオン3世の記録を更新したことも大きな注目を集めています。
そして特に女性の話題の中心となっているのが、ファーストレディーとなりエリゼ宮(大統領官邸)に入る、25歳年上のブリジット夫人(64歳)です。
39歳の大統領、3人の子供と7人の孫
ロイターによると、二人の出会いはマクロン氏が15歳のときのこと。在籍していた演劇学校の先生が、当時40歳だったブリジット夫人でした。さらにその娘はマクロン氏のクラスメートでもあったのです。反対に遭いながらも、マクロン氏は29歳の時に結婚。英The Sun紙によれば、今やブリジットの連れ子3人の義理の父親でもあり、7人の義理のおじいちゃんです。
母親ほども年の離れた女性との結婚は好奇の目で見られがちな要素がたっぷり。メディアの見出しでもプライベートへの関心の高さがうかがえます。
でも注目すべきは、マクロン氏が夫人に寄せる信頼の絶大さ。就任演説でもブリジット夫人を壇上に上げると、「ブリジット、以前にも増してあなたの存在は大きい」「あなたなくして今の私はない」と語り、拍手喝さいを浴びていました。ブリジット夫人に向けられていた好奇の目は、超一流の若い男性を支え、夢中にさせた女性として、羨望や尊敬のまなざしに変わりつつあるようです。
「恋愛至上主義」ともいわれるフランスらしく、ともすれば「恋愛自由主義」と言い換えられそうなフランスの歴代大統領のプライベート。ファーストレディーが夫人ではなく婚姻関係のない彼女だったこともあります。あるいは、夫人がずば抜けて美しかったり、マニアックだったり、不義な関係だったりと、それはもう、海外から見たらエキセントリックです。
そんな、フランス歴代大統領の政治やプライベートの特色を、順にひも解いて行きましょう。
女性関係には寛容なお国柄
初代フランス大統領となったナポレオン3世は、あの英雄ナポレオンに愛されたジョゼフィーヌがおばあちゃん。ナポレオンがイタリア遠征中に熱烈な手紙を書いたことでも有名な女性です。ジョゼフィーヌ自身も恋多き女性でした。その血を受け継いだナポレオン3世は、女性と見れば手を出す色好みで有名だったそうです。
英雄色を好む……そんな幕開けだったフランス大統領の女性関係史から、近年の政治家たちにも自由奔放な風潮が見て取れます。
フランソワ・ミッテラン氏から見て行きましょう。
フランソワ・ミッテラン
【大統領歴】 第21代大統領 任期1981年5月~1995年5月
【特徴】 死刑制度を廃止し、生活保護など社会政策に尽力。EU創設を定めたマーストリヒト条約に調印。インフレと失業率の増大に対して、「大きな政府」を掲げ公共投資の増加、雇用の拡大などを目指した。
【家族・女性】 ダニエル夫人との間に息子3人。30年来の愛人アンヌとの間に隠し子の娘1人。アンヌに送った手紙が書籍化された。女性問題について記者に聞かれたときの返答「それが何か?(Et alors?)」という名言が残されている。
ジャック・シラク
【大統領歴】 第22代大統領 任期1995年5月~2007年5月
【特徴】 長くパリ市長を務めたのち、ミッテラン大統領の下で第一次コアビタシオン(保革共存)の首相。南太平洋のムルロア環礁で数度の核実験を強行し、アフガン侵攻にも賛同。公式とプライベートを合わせて50回以上の来日歴がある親日派としても知られる。
【家族・女性】 ベルナデット・ショルドン・ド・クルセルとの間に娘が2人。元ベトナム難民の養女が1人。複数の愛人の中には日本人もいたとされる。
元スーパーモデルの夫人、ファースト・ガールフレンド
前職サルコジ氏と現職オランド氏の大統領二人もまた、政治手法に加えて、家族や女性にも革新的です。
ニコラ・サルコジ
【大統領歴】 第23代大統領 2007年5月~2012年5月
【特徴】 NATOへの復帰、黒人女性の副官房長への抜てきに代表される革新的な人事など。経済をGDPではなく、「幸せ度指数」で計るための委員会を創設。自家用ジェット機による渡航や豪華ヨットでのクルージングを楽しむなど派手な生活ぶりだった。
【家族・女性】 結婚は3回。元スーパーモデルで歌手のカーラ・ブルーニとの間に娘が1人。夫人のモデル時代のヌード写真がニューヨークの競売で930万円で落札されたことも話題になった。マリ―元夫人との間に息子2人、セシリア元夫人との間に息子1人。
フランソワ・オランド
【大統領歴】 第24代大統領 2012年5月~2017年5月
【特徴】 女性閣僚を半数の17名に増やし、大統領と閣僚の給与を30%削減。富裕層に向けた増税策で、年間所得100万ユーロを超えるフランス人に75%の富裕税を課す。同性結婚の合法化案に署名、成立させた。
【家族・女性】 政治家セゴレーヌ・ロワイヤルとの間に4人の子どもがいるが、事実婚関係を解消。ジャーナリストのヴァレリー・トリールヴァイレールとも結婚はせず、「ファースト・ガールフレンド」と呼ばれた。2014年女優との不倫騒動により関係を解消。
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そして5月14日、エマニュエル・マクロン氏が大統領に就任。低投票率から「消去法で選ばれた」といった声も聞こえる中、これからの政治手腕と、フランスの大統領らしい女性関係も目が離せません。
著述家、翻訳家、コミュニケーション・アナリスト。カナダ、オーストラリアに留学後、ボストン大学コミュニケーション学部修士課程でジャーナリズム専攻、東北大学博士前期課程人間社会情報科学専攻修了。通信社、出版社をへて、コラム連載や媒体プロデュースを手がける。著書に『コトバのギフト―輝く女性の100名言』(講談社)、『スティーブ・ジョブズに学ぶ英語プレゼン』(日経BP社)ほか多数。
[nikkei WOMAN Online 2017年5月16日付記事を再構成]
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