『投資の鉄人』著者が激論 失敗しない情報の見抜き方『投資の鉄人』座談会から(1)

2017/5/24
撮影・新木宏尚
撮影・新木宏尚
4月に出た日経プレミアシリーズの書籍『投資の鉄人』(日本経済新聞出版社)が、「長期投資で個人投資家が陥りがちな罠がよく分かる」「本音で語られており内容が刺激的」と評判です。そこでこの本の共著者4人による座談会の部分を転載する形で、今回から4回に分けて「投資の罠はどこにあるのか」を解説していきます。
第1回の今回は、投資や金融に関する「情報」の見分け方です。投資情報をどう取捨選択して活用すべきか。はたまた金融機関の言いなりにならないためには、彼らとどうつきあえばいいのか。4人の著者が豊富な経験と知見をもとに話し合いました。

法令順守に縛られる金融機関

――金融機関とのつきあい方について伺います。(本の前の方のページで)それほど悪い人たちではない、ということでしたが、実際のところどうなのでしょうか。

馬渕治好 詐欺師の集まりみたいに言う人もいますが、それはないです。お客さんに離れられて得することは何もありません。もちろん損をさせようと思って仕事をしている人はいないわけですし、お客さんに儲けてもらおうとは思っているんです。でも、相場の見通しってわからないので。確実に下がると考えている商品を売っていることはないと思いますよ。

大江英樹 確実に下がるものを探る能力はないですからね。

馬渕 ないですね。ただ、現場の方が勉強不足だなと思うことはあります。特に若い世代。証券会社の勉強会に行くと、比較的ご年配の方、支店長さんなどが、「最近の若いヤツは日経新聞を読まない」と言います。

岡本和久 これだけ長い間、あまりさえない相場が続いてしまっていると、強い上昇相場の体験がない人がほとんどだということもあると思うんです。

馬渕 大手の証券会社は長い間、保険や投信、外国債券の販売に注力していたんです。それによって収益上、成功した時期もありますが、株の個別銘柄を調べるという経験があまりないんですね。以前、ある証券会社の若手社員にアンケートを取ったことがあるのですが、株はお客さんに販売したくないという社員が多かったです。なぜかと言うと、お客さんのほうが詳しくて対抗できないと(笑)。成功体験がないから、なかなか株を勧めにくくなっている面があると思うんですよね。

それと、忙しすぎて、全般的に勉強不足。営業担当者は営業活動自体も大変なわけですが、最近コンプライアンス(法令順守)面の手続きがとても多い。コンプライアンスはちゃんとやらなくてはいけないし、やるのはいいことなんですが、それにかなりの時間を取られている。例えば、ある年齢以上のお客さんだと、この人は取引をして大丈夫かどうか、たいていの場合、支店長が面談をするようにしています。

岡本 もう亡くなった方ですが、ある著名な経済評論家は70歳を過ぎたころ、株の売買の注文を出そうとすると、必ず息子さんの同意を取るように言われるとおっしゃっていた。「どう考えたって俺のほうがよく知ってるのに。実に気分が悪い」と(笑)。

大江 たぶん、ウォーレン・バフェット(世界的に著名な投資家。86歳)が日本の証券会社の店頭に行ったら、口座を開けてくれないですよ(笑)。

馬渕治好さん

馬渕 コンプライアンスを破ることと、コンプライアンスが厳しすぎてコストがかかりすぎること、両方の問題があります。コンプライアンスに時間を取られてしまうと、なかなかマーケットの勉強ができないということはありますね。

岡本 相場からみんなの興味が離れている期間が長いので、ここまで過熱してくると危ないなとか、相当相場が枯れてきたから面白いとか、自分の中の基準がないんですよね。強気になると歯止めがきかず、どんどん行きすぎてしまうんじゃないかという恐ろしさは感じますね。

馬渕 そういう面はあるかもしれませんね。最近で言えばトランプ相場。2016年11月にトランプがアメリカの大統領選挙で当選してから、すごく株が上がりました。個人投資家を相手にしている金融機関の支店長さんや営業の方に聞くと、まずお客さんが慎重だったそうです。「どうせまたダメなんでしょ?」という感じが強くって。そして、営業の方も慎重。あとで支店長が笑って言っていました。「いつもは『お客さんに売らせろ』と言っても、ちっとも売らせないくせに、今回だけはみんな『危ないと思います』ってサッサと売らせちゃった」と。

大江 相場が天井近くになると、みんなが買いたがって証券会社に押し寄せます。そんなにお客さんが買いたいんだったら、と注文をお受けすると、そこが天井で下がり始める。そうすると「証券会社にだまされた! 高値で買わされた!」となるわけです。でもそれは「あなたたちが買いにきたんでしょ!?」ということですよね。それと、株や投信は、買ったその日のうちに何円上がったか下がったかが見えてしまうんです。結論がすぐに出るので、「下がることを知っていたんだろう」となるんですよね。

岡本 すぐ後に出た結果が買った商品の良しあしだ、と考えてしまうところに間違いがあるんです。10年後、20年後に視点を置いておかないと、正しい判断ができません。

大江 よくお客さんが、「俺が買うと必ず下がるんだよな」とか「絶対上がるんだよな」とか言いますが、それはとても健全な証拠なんですね。「売ると上がる」というのは、かなり高値圏で売っているということですし、「買うと下がる」というのは底値圏で買っているということなんです。一方で、「売ったとたんに下がり、買ったとたんに上がる」というのは、非常に危険なこと。それが続いていると、どこかで大ケガをすることになりやすいんですね。

誰からお金をもらっているのか

竹川美奈子 相場の行方はわからないから、金融機関の方がだましているわけではない。それはわかります。ですが、例えば個人向け国債を買いに行ったら、「銀行の金利は低いですから、外貨建ての保険を買いましょうよ」と勧められるケースは今でもあります。

金融庁が監督指針を変更したことで、投信を短期間で繰り返し売買させる回転売買については減る傾向にあります。しかし、投信とは別の商品を販売するならいいだろうと、「投信を売って、仕組み債(通常の債券にはない複雑な仕組みを持つ債券)はどうですか」と勧めるようなケースはまだまだ残っていると思うんです。

馬渕 これまで話してきたのは主に株の話なんですよね。

竹川 あと、若い方に関して言うと、最近は店舗へ行かない人も多いです。昔のように、店舗に行って相談するということ自体がなくなってきています。そういう人たちがこれからどうしたらよいかは今後の課題です。

例えばネットで取引をする場合、自分で考える以外に、ファイナンシャル・プランナー(FP)に相談するという選択肢もあります。けれど、FPの中には、中立をうたっていながら、金融機関から販売(仲介)手数料をもらっているケースも多いんです。その見分け方も重要でしょう。金融機関から手数料をもらっているのか、お客さんから相談料をもらっているのか。それによってどちらを向いて相談に乗るかは違ってきます。FPの稼ぎ元は確認したほうが良いと思いますね。

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