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八神純子さん 管弦楽との共演は美しすぎて

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「思い出は美しすぎて」「みずいろの雨」などのヒット曲で知られるシンガーソングライターの八神純子さんが日本で音楽活動を再開して6年。米国在住30年で作曲手法はどう変わったか。ポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)に出場しデビューした当時から管弦楽の響きにこだわり、最近はオーケストラとの共演にも力を入れる。近況を聞いた。

「16歳で聴いた管弦楽の音は、大きなスケールとなって私の中に根強く残っている」。八神さんはオーケストラとの共演の思い出をこう語る。ポプコンの入賞者が出場する世界歌謡祭でのことだ。ポプコンとは当時のヤマハ社長だった川上源一氏の肝煎りで1969~86年に開かれたポピュラー音楽のためのコンテスト。中島みゆきさんや世良公則&ツイストら多くのアーティストを輩出した。米ロサンゼルス郊外に在住の八神さんは今回、ポプコン出身のアーティストが次々に歌う「僕らのポプコンエイジ」と呼ぶ連続コンサートなどに出演するため帰国した。市川市文化会館大ホール(千葉県)での20日の「ポプコンエイジ」最終公演までの合間を縫ってインタビューした(インタビューの詳細は2本の映像をご覧ください)。

八神さんは幼少時からピアノを習い、10代でまず他人の応募作品を歌うことからポプコンに参加した。自分で作詞作曲した作品で参加したのは1974年。名古屋市内の高校に通う生徒だった。「雨の日のひとりごと」が優秀曲賞となり、日本武道館(東京・千代田)で開かれた世界歌謡祭に進んだ。ここで大編成のオーケストラを伴奏にして歌った。「弦の方たちが何人もいて、管の方たちも何人もいて、サウンドのみずうみに漂っているようなイメージ。あの感動は忘れられない。世界歌謡祭に出ていなかったら、今の私はない」と話す。

ヒット曲を次々に生み出して人気絶頂だった1986年に英国人と結婚して米国に移住し、その後、プロとして全く歌わなくなった時期が10年以上あったという。「日系人の集まりなどでたまに歌うくらいだった」。クリスタルボイスと呼ばれた圧倒的な歌唱力、ボサノバやサンバなどラテン音楽を感じさせる非凡な作曲の才能が独特の魅力を生んでいただけに、彼女がいなくなったことに喪失感を抱いたファンは多かっただろう。その不在期間は日本経済の失われた20年に重なる。「私自身はすべてやり尽くしたつもりだった。大きな勘違いだった」。2010年にNHKの音楽番組「SONGS」に出演したのを機に、また日本で歌いたくなった。翌11年、日本で音楽活動を再開しようとした時に東日本大震災が起きた。東北の被災地が再始動の舞台となった。

オーケストラとの共演で自作を歌う

かつてよりも多彩に進化した歌唱法によって13年に「ヒア・アイ・アム」、15年に「ゼア・ユー・アー」(いずれも発売元:ソニー・ミュージックダイレクト)という2枚のオリジナルアルバムを出した。「ポプコンエイジ」の公演には1970~80年代を懐かしむ年齢層のファンが多く集まるが、八神さんの志向は先に進んでいる。その基盤となるこだわりの一つが管弦楽の響きだ。

7月8日にはオーチャードホール(東京・渋谷)で「八神純子 プレミアム・シンフォニック・コンサートTokyo2017」を開き、柳澤寿男さんの指揮による東京フィルハーモニー交響楽団と共演する。ビルボードジャパンが企画制作・主催する「ビルボード・クラシックス」という公演シリーズの一環。玉置浩二さんや藤井フミヤさんら歌唱力で定評のあるアーティストのみがこれまでもこの企画シリーズでオーケストラと共演している。さらにはその持てる楽曲が「クラシック」として後世に残る名曲でなければ似合わない。八神さんはまさに同シリーズにふさわしいアーティストの一人であり、2年ぶりの東京でのこの企画による公演となる。

「私にとってポプコンと世界歌謡祭、ビルボード・クラシックスはつながっている」と話す。ポプコンに出るために作詞作曲したのも、最後には武道館での世界歌謡祭の大舞台でオーケストラをバックに歌いたかったからだ。「今までビルボード・クラシックスの舞台は何度も踏んでいる。私の楽曲のスケールの大きさはオーケストラとのコンサートにとても合っている」と自負する。

自作をレコーディングし直すセルフカバーがはやっている時代だが、八神さんは「私は今までのアルバムのリメイクはしない」と言う。もともと初期のアルバムでもシンセサイザーではなく本物の管・弦楽器を使ってきた。「例えば『みずいろの雨』を本物の弦や管を使ってレコーディングし直すと莫大な予算がかかる。ライブではシンセサイザーで代替したりもするが、原曲を愛してくれた人たちはずっとオリジナルを聴いてほしい」。でもビルボード・クラシックスではアレンジをやり直し、八神さんのオーケストラ伴奏の理想によりかなった響きになる。「特に管弦楽編曲が素晴らしいと思うのは『Mr.ブルー~私の地球~』や『ポーラースター』。アルバムでもあんなに厚い弦でレコーディングしてこなかった。それに私のすぐ横にいるファーストバイオリンが本当に表情豊かに弾いてくれる」と語る。

オーケストラとの共演では歌い方も工夫し変えている。自らの声にいろんな色があることを自覚できるようになった今、「オーケストラの真ん中に私の声をどう存在させるかが最大の挑戦になる。オーケストラの色に私の声を合わせたり、オペラ風の歌い方を試みたり。発声を変えなければ管弦楽の音色になじみにくいこともある」と話す。「10年前ではきっとできなかった。今になってようやくそう歌えるようになった」。7月8日のオーチャードホール公演の際には、2015年10月の「ビルボード・クラシックス」を録音したライブCD「八神純子プレミアム・シンフォニック・コンサート」(管弦楽は柳澤寿男さんの指揮による兵庫芸術文化センター管弦楽団)を会場限定で特別に販売する。

父が企業経営者の恵まれた家庭に生まれ育った。「母が聴く映画音楽ばかりずっと流れているような家だった」。そうした映画音楽に親しんで「ストリングセクション(弦楽合奏)のスケールの大きさにずっと魅せられてきたのだと思う」。ハリウッド映画の本拠地である米西海岸に移住する素地が幼い頃からあったかのようだ。米国に移住する前の1970~80年代と、日本での活動を再開した2010年代とでは、八神さんの曲作りはどう変わったのか。

ラテン音楽のマイナー調の情熱は美しい

ヒット曲を次々に飛ばした初期は「何を書いてもみんなボサノバ、サンバになった」と語る。「思い出は美しすぎて」は歌のメロディーラインが伸びやかなのに、絶えずボサノバのリズムが鳴っている。「みずいろの雨」もロングトーンの歌唱が強力な印象を与える一方で、速く激しいサンバのリズムが刻まれ続ける。両曲とも彼女のトレードマークとなったサンバホイッスルが鳴り響く。

ピアノを弾きながら歌い、胸に下げたサンバホイッスルを曲の途中で吹き鳴らすのが、八神さんの演奏スタイルの原風景だ。様々な和音を組み合わせて複雑に鳴らせるピアノと、音階を持たない単音のみの笛という両極端の楽器による弾き語り。十字架の形をしたサンバホイッスルは、文字通りサンバの演奏に使われる南米の笛。いつ使い始めたのかと聞くと、「あれはデビューの時から。『思い出は美しすぎて』をレコーディングする際に、ここで一つラテン風の笛の音色を入れようということになって。でもその時にはサンバホイッスルが見つからなくて、やむなく普通の笛を吹いて録音した」と実情を明かす。当時の人気番組「ザ・ベストテン」に登場する頃には、この笛がブームとなって大量に売れたという。

「みずいろの雨」「想い出のスクリーン」など次々に放たれたヒット曲のほぼすべてがマイナーコード(短調)の歌だったのもその頃の特徴だ。「昔は暗かったですよね」と言って笑う。「でもマイナー調のパッションは美しいと今も思っている」。どの曲も実際には暗いわけではない。触れるものを暗く黒く焼きつくすほどの情熱とでも言おうか。タンゴのアストル・ピアソラやサルサのウィリー・コローンなど、ラテン音楽には哀愁と情熱が混然一体となった、ハッとするほど美しいマイナー調の曲が多い。八神さんの情念の渦巻くようなマイナー調の歌もやはりラテン音楽からきているのだろう。

八神さんは10代の頃、ポプコンや世界歌謡祭に飽き足らず、海外で自らの歌を試すために1976年のチリ音楽祭に出場した。当時のチリは、73年にクーデターでアジェンダ社会主義政権を倒した親米ピノチェト政権下にあり、新自由主義政策が進められていた。そこで高校3年生の彼女は自作の「もう忘れましょう」をオーケストラをバックに和服姿で歌い、6位に入賞した。「もし行けるのならば、チリのあの場所に戻りたい」と言うほど彼女のその後の人生に影響を及ぼした経験だった。「チリに行って思ったのは、なんてドラマチックな人たちなんだろうって。南米はロマンスの場所。情熱的なロマンスがラテンの文化」と主張する彼女の瞳は夢見心地に輝く。

明るくリズミカルな曲が並ぶ最近の作品

ラテンとマイナー調の情熱が渡米前の彼女の楽曲の特徴だったとすれば、米国在住後は「曲の作り方がリズミカルになった」と変化を語る。直近のアルバム2作は明るいメジャーコード(長調)の曲が多い。より広い層に支持される分かりやすい歌を、明澄な声を様々に変化させて歌っている。「言葉と一緒にメロディーが出てくるようになった」とも言う。

現時点で最新のアルバム「ゼア・ユー・アー」には、クリムトの絵画「接吻(せっぷん)」に触発されたという「Kissがいいの」のようなボサノバ風の曲もある。だが全体としては、明快なエイトビートによる典型的なポピュラーソングが大半を占める。ロック調やバラードが前面に出ていて、ラテンの雰囲気は影を潜めている。東京ニューシティ管弦楽団をストリングスに使うなどクラシック風の要素も編曲に加え、彼女の声質と相まって、澄み切った水色の空のような、明るく前向きなイメージが全編に広がっている。

ただ、かつては作詞もほぼ自ら手掛けたのに対し、アルバム「ゼア・ユー・アー」の歌詞は音楽家のKAZUKIさんが書いている。「私も歌詞を書くが(アルバム『ヒア・アイ・アム』には八神さんの作詞もある)、より良い歌詞で歌った方がいいので、2人で競って書いた。私はもう米国暮らしが長いから、英語の歌詞の方が書けるくらい。KAZUKIさんの方が日本語の表現力が豊かなので、直近の2作はかなり手伝ってもらった」と語る。さらに「KAZUKIさんの歌詞はすごく面白いので、リズムに言葉をうまく乗せることができる」と自らの作曲スタイルに合っている点も強調する。

八神さんの歌唱力と作曲の才能を改めて印象付けた直近のオリジナル2作だが、かつてのマイナー調の情念の歌を期待する向きにはやや物足りなさが残るかもしれない。「ラテンのマイナー調のパッションはまだ追いかけたい」と本人もこの点は自覚する。ポプコン出場に熱中した高校時代から一躍スターとなった20代を経て、米国移住、音楽活動の中断、そしてスケールが大きくなっての復活。日本を代表するシンガーソングライターはさらに進化を遂げながら、後世に残るクラシック作品としての自作を生み出し歌い続ける。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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