マーケティングライター・牛窪恵さん 好き放題の父
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回はマーケティングライターの牛窪恵さんだ。
――お父さんはテレビ局のディレクターでした。
「フジテレビでドラマやバラエティーを作っていました。現役時代は羽振りがよくてやりたい放題。でも、親分肌で、どこか憎めない性格です。芸能人との交遊も派手でした。母は逆で冷静沈着で極めて常識的な人です。子育てに入ってからは専業主婦に近い状態でした。父は今の流行語でいえば『束縛男子』です。地方から東京に出てきて、自分が一家を支えているというプライドがあったから、母が外で働くのを嫌い、家庭に縛り付けていました」
――中高生のころはお父さんが大嫌いだったとか。
「私は癖で右手の薬指にペンだこができます。父も同じ場所にあることに中学の時に気づき、悩みました。その頃の父は家にほとんど帰らず、外で浮気ばかりしていました。写真週刊誌が自宅を張り込みに来たこともあります。中高生といえば最も多感な時期です。私にも浮気性の血が流れているんじゃないかと怖かった。男性って不潔だと思っていましたね」
――その両親が離婚を。
「さすがの母も限界にきたんですね。私が大学生のある日、母が『大事な話があります』と切り出しました。父はすべてが自分中心で回っている人。自分に自信があるから、まさか離婚を切り出されるなんて思ってもみない。母の言葉に『青天のへきれきだ』と大声を上げ、あげくは家具を倒しまくって『死んでやる』と暴れました。私にも説得してくれとすがってきた。母は『絶対死なないわよ』と冷静で、結局その通りでした」
「離婚から2年ほど後に、自分のドラマに出ていた24歳年下の元女優の人と再婚しました。私たちは憎み合って別れたのではないので、今でも仲はいいですよ。この再婚が破綻して、父がこちらに戻ってこられては困るので、向こうの奥さんには『末永くよろしく』とメールでしょっちゅうお願いしています」
――出版社を経て、ライターとして独立。今はテレビにも出演していますね。
「父はいいネタ元です。最初に出した本は『おひとりさま』がテーマですが、母と離婚し葛藤する父が念頭にありました。『年の差婚』はその後の再婚。中年男性の生きづらさを描いた『男損の時代』も、モデルは父です」
「そんなつもりは無かったのに、私もいつの間にかテレビに出るようになりました。人が気づかない『斜め切り』のコメントがおもしろいとよくいわれるのですが、常識に全くとらわれなかった父親譲りだと思います」
「実は私の夫は、理系で極めて常識的な人です。ところが私は明らかに父の破天荒な性格を受け継いでいる。よく考えれば、両親とは男女逆の組み合わせ。やっぱり血ですかねえ」
[日本経済新聞夕刊2017年5月16日付]
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