PIXTA「お互いに稼ぎのある夫婦でも家計は一緒がいいのでしょうが、あえて別々にして貯蓄も増やせる方法はないですか」。男性会社員のGさん(43)が1人で相談に来ました。妻(42)はアパレル関係の会社に勤めています。現在の貯蓄額は30万円。夫の自分に万が一のことがあったら妻の生活を保障できないし、老後資金も不安だと話します。
■妻のスマホ代も負担
早速、家計の状況を確認しようとしたところ、Gさんが話すのは自身の収入と支出についてのみ。家計全体について聞きたいのに妻の収支については口を閉ざしたままです。
その点を追及すると、Gさんからは「生活に必要なお金は僕の収入から出しているので、僕がやりくりを変えればいいと思う」との答えが返ってきました。「支出を分担し、それぞれがお金を管理する今のやり方を変えたくはない。家計を一緒にすると、妻が仕事関係で自由にお金が使えない」とこだわります。妻を自由にさせたい、自分が面倒を見てあげたいという気持ちが強すぎるのです。
生活費はほぼ全てGさんの収入から拠出。妻には住宅ローンの繰り上げ返済のための資金を積み立ててもらっている以外は、仕事関係で必要な服や美容、交際費など自由に使わせています。Gさんは「妻は毎月の積み立てと自分のボーナスを合わせて毎年、100万円を繰り上げ返済してくれている。問題はない」と主張しますが、これでは妻の収支が毎月どうなっているのか全くわかりません。
生活費を負担するGさんの支出は、生命保険料が内容の割に高く、嗜好品への支出も多め。毎月、赤字に陥っています。スマートフォン(スマホ)のアプリで家計簿をつけているので、支出についてはすらすらと答えられます。たとえばGさんはお酒が飲めませんが、妻は毎月1万5000円ほどをお酒に費やします。スマホや生命保険料も妻の分まで負担。自分のための支出は公的機関が主催するスポーツジムの利用料ぐらいです。
■夫婦で組んだ住宅ローン、毎月の返済は夫
また、赤字の大きな原因はGさんの収入の4割ほどを占める毎月の住宅ローンの返済。3年ほど前にローンを組んだ時は、2人の収入を合わせて返済計画を立てたのに、毎月の返済はGさんの収入からのみです。
こんな状況で「妻に自由にお金を使ってほしい」と気遣ってばかりいるわけにはいきません。別の日に妻と2人で相談に来てもらい、支出の分担を変えることを検討しました。
妻は家計が全体で赤字であることや、生活費がいくらかかっているかも把握していませんでした。妻に支出を聞くと、生活費は食費と日用品代についてはGさんと同じ程度の金額は負担しています。住宅ローンの繰り上げ返済資金の積み立てはしているものの、それ以外は美容費などで使い切り、貯蓄はできていません。現状を理解してから、妻は申し訳なさそうにしていました。
そこで妻のお金の使い方を変えることにしました。まず、食費などの生活費が重複しているとムダな支出につながるので、共有の財布をつくり、毎月5万円を生活費として財布に入れるようにしました。被服、交際、娯楽、美容にかかる費用は節約を心がけてもらい、繰り上げ返済用の積立額を減らしました。
■繰り上げ返済は控除終了後に
住宅ローンは現在、年末の残高の1%の控除を受けています。ローン金利は変動で約0.7%。単純に考えると、住宅ローン控除で残高の0.3%分、得をしていることになります。控除はあと7年受けられるので、当面は繰り上げ返済に一生懸命になるより、生活防衛のための資金をためるほうが先決です。毎年の繰り上げ返済をやめ、控除の期間が終わってから繰り上げ返済するよう積立額を減らしました。
そこで浮いたお金を貯蓄に回します。貯蓄額は毎月5万円としました。この試みで妻の収支は毎月1万9000円ほどの黒字となるので、それは妻が自由に使ってよい小遣いとしました。
Gさんはというと、妻が生活費を拠出するようになり、食料や日用品を重複で買うといったムダをなくせました。スマホは会社の付き合いの関係で格安スマホに変えることはできませんでしたが、生命保険を掛け捨て中心の商品に切り替えたことで支出を大きく減らせました。Gさんも自由に使える小遣いを設けたことなどで、以前より1万1000円ほど支出は増えた形ですが、妻が生活費に5万円を拠出するようになったので、実質的には差し引き2万4000円ほどの黒字となりました。
老後資金づくりも気になっていたGさんですが、余ったお金はまずは貯蓄に。Gさんの希望を聞きつつ、本人に勉強をしてもらってから投信の積み立てなどを始め、妻の貯蓄と併走して資産形成を目指すようにしました。
■「別財布」は維持したが……
今回はGさんの過剰ともいえる妻への思いやりが赤字の原因になっていましたが、妻が家計の状況を理解し協力したことで、かなり改善しました。一部、共有で管理する部分を作りましたが、お互いの収支の状況は月に一度は報告しあうこととしながら、「別財布」を維持する希望は通しました。
お金を効率よく使い、効果的に貯蓄するにはやはり、夫婦で収支を共有できていることが条件です。その意味で別財布を維持することは今後、難しくなるかもしれません。夫婦のお金は風通し良く。それができれば、場合によっては別財布でもうまくできる期間を長くできるのかもしれません。
(「もうかる家計のつくり方」は隔週水曜更新です)
横山光昭マイエフピー代表取締役、家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー。お金の使い方そのものを改善する独自のプログラムで、これまで1万人以上の赤字家計を再生。書籍・雑誌の執筆や講演も多く手掛け、「はじめての人のための3000円投資生活」(アスコム)は47万部を超え、著書累計は218万部。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。