BMWを直撃 新4シリーズのプレミアムニッチ戦略
2016年も順調に世界販売数を伸ばし、ミニやロールスロイスを合わせてついに236万台を超えたBMWグループ。かたやビックリするのが成長戦略で、すでに「1」「3」「5」「6」「7」の5つのシリーズに、多目的スポーツ車(SUV)の「X1」「X3」「X4」「X5」「X6」、プレミアムスポーツの「Mモデル」や電気自動車(EV)の「BMWi」まであるのに、2013年は1シリーズと3シリーズの間に「2シリーズ」、3シリーズと5シリーズの間に「4シリーズ」も新設。選択肢が増えていいことのようにも思えるが、客的には似たモデルが増えて分かりにくくなっている部分もあるかもしれない。小沢コージが4シリーズのマイナーチェンジ海外試乗会で、プロジェクトリーダーのヘルンハルド・ホーファー氏を直撃した。
1と3の間に2シリーズ、3と5の間に4シリーズ! どこまで増えるのか
小沢 本日は楽しい試乗会をありがとうございます。トップモデルの「440iクーペ」が非常に印象的で、確かに走りがビックリするほど優しくしっとりしていて、なおかつスポーティー。もっと足をガチガチに固めてスパルタンにする方向と思っていたので意外で楽しかったです。何が変わったのでしょう?
ヘルンハルド・ホーファー氏 ありがとうございます。まずは新しいシャシーの調整です。ダンパーなどを含めて足回りを新しくしています。それと今回からではないですが、昨年すべてのガソリンエンジンが高効率な新世代に変わっています。
小沢 なるほど。それはそれとして根本的な部分ですが、まずは3シリーズ クーペを4シリーズ クーペに変えて、より低くワイドにスポーティーにしましたよね。そこまでは分かるのですが、さらに4ドアモデルやカブリオレまで作って、どんどんモデルバリエーションを増やしている。
特にこの3&4シリーズの4ドアモデルは3シリーズ セダンにワゴンのツーリングにグラン ツーリスモ、4シリーズ グラン クーペと4車種もあります。同じようなボディーサイズで。ここにはどういう意味があるんですか?
ホーファー バリエーションを増やすことに意味があると思っています。試乗会のスピーチでも話しましたが、4シリーズが3シリーズと何が違うかというと、左右のタイヤ間が広がってよりワイドに、高さも低く重心が40mmも下がっています。3シリーズとの違いはハッキリしています。
4シリーズはちょっとマニアック過ぎないか?
小沢 3シリーズより走りがいいことをよりアピールしたかった?
ホーファー 実際に乗っていただいて分かったと思いますが、明らかにボディー剛性が高くてスポーティー、動きも速くてエレガントだと思います。
小沢 でもクーペだけならともかく、4シリーズに4ドア車まで出すと、結構分かりにくいと思うんです。BMWマニアならいいんですが、一般ユーザーはBMWの手ごろな4ドア車がたくさんありすぎてこんがらがっちゃう。
ホーファー 私たちはそう思っていませんよ。そこまでスポーティーさを求めない方、お値段を気にされる方は3シリーズを買っていただければいい。より余裕があって利便性と走りの楽しさを追求したい方は、4シリーズのグラン クーペを買っていただければと思います。
小沢 それは分かるのですが、正直、日本だと4シリーズ自体をあまり見かけません。もしやドイツでは4シリーズ グラン クーペで新顧客を獲得しているということですか。
ホーファー そうです。新しいお客様がついています。4シリーズがデザイン的にも走りでも気に入って、ただドアが少なくて面倒くさいなと思っている人たちがグラン クーペの主な購入者です。データを見れば分かりますが、4シリーズの販売の半分以上を占めています。
小沢 実際、3シリーズと比較すると4シリーズ グラン クーペはどれくらい売れているんですか?
カイ・リヒテ氏(広報担当) ざっくり言うとグラン クーペの販売比率は75%が3シリーズ、25%が4シリーズ。4シリーズはこれまで世界で40万台売れていますね。
小沢 グラン クーペの販売数の4分の1が4シリーズ! そりゃかなり売れてますね。日本じゃ考えられない。
3シリーズが出回り過ぎてるところで4シリーズが売れる?
リヒテ 3シリーズからの買い替えだけじゃありませんよ。他ブランドからの買い替えもあります。
小沢 どのブランドからの乗り換えが多いといったことは分かりますか? 例えばポルシェとか。
ホーファー 具体的には言えませんが、クルマにスポーティーさを求め、なおかつデザインに重きをおいて余裕のある方でしょうか。また、4ドアも重要なポイントですが、大容量トランクルームも大切です。
小沢 うーん、今この手のプレミアムニッチ戦略はBMWが最も強いような気がしますが、いったいどういう発想法を取っているんですか?
ホーファー プロダクトマネージャーも強いのですが、市場調査も大事にしています。若い時にクーペに乗っていたお客様で、今はセダンに乗っているという方は何を求めているのか? グラン クーペのような4ドアはどうだろうか、というような。
小沢 ストーリー性が大切なんですね。
ホーファー そうです。そしてディーラーからの意見もすごく大事です。
小沢 4シリーズを開発する時に重要視したことは何ですか。走りなのか、実用性なのか、振動騒音や滑らかさなのか。
ホーファー 圧倒的にデザイン! 見た目がダントツです。ひと目見てカッコいいと思ってもらうこと、本物のスポーツカーだと感じてもらうことが重要です。同時に4ドアだったり、機能性、利便性も成り立っていることですね。
小沢 ところで日本の販売ってどうでしょう?
リヒテ ドイツほどではないと思いますけど、逆に言うとドイツでは3シリーズの存在感があまりに大きいことも影響していると思います。なにしろドイツのどこの通りに行っても見かけることができますから(笑)。
小沢 そうか! 3シリーズが定番過ぎて4シリーズが売れているって部分はありますよね。実際、ドイツじゃ3シリーズに飽きている人が多いとか?
ホーファー (笑)それでもいいんです。4シリーズを買っていただければ。
小沢 しかしそう考えると日本でも4シリーズはもっと売れていてもいいのかもしれませんね。3シリーズが1980年代に「六本木のカローラ」と言われるほど売れていたので。私たちがその魅力を伝え切れていないのかもしれません。
ホーファー 頑張ってください(笑)。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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