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インバウンド最前線

「国籍」はピント外れ 訪日外国人は「種族」で捉えよ インバウンド提言(上)ワンダートランク・岡本岳大代表

2017/6/24 日経MJ

2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、インバウンド(訪日外国人)が一段と増えることが予想される。一方で、地域や施設によって大きな差が生じているのも事実だ。どうすれば彼らを呼び込めるのか。専門家の提言を2回にわたって紹介する。1回目は博報堂DYグループの企画会社、ワンダートランクの岡本岳大代表。国籍ではなく200以上ある「トラベラー・トライブ(種族)」と呼ばれる旅人のスタイルで分類することを提唱している。

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トラベラー・トライブは「○○好き」と言い換えるとイメージしやすくなります。サイクリング好き、盆栽好き、アニメ好きなど、訪日客のなかで、どんなトライブをターゲットにするか決めると海外の旅行会社や旅行メディアとも話がしやすくなります。

これからの地方のインバウンド集客を考える際には、トラベラー・トライブを想定することがとても有効です。なぜならば彼らは自分のテーマを満たしてくれるものがあれば、たとえ遠くても有名でなくても、その地方に来てくれる可能性があるからです。

今回は、地方がターゲットにするとチャンスがありそうな3つのトラベラー・トライブを紹介します。

まずは「パウダースノー・ハンター」です。北海道ニセコの冬は、オーストラリアからの旅行者でにぎわいますが、ニセコはここにきて混雑しているうえ値段が高くなっています。パウダースノーを求めるスノーボーダーたちはいま、日本を南下し始めています。パウダースノー・ハンターとは文字通り、極上の雪を求めて日本列島を旅するハンターです。長野県の白馬、岩手県や新潟県などにも活動範囲を広げています。

福島県はインバウンドへのアプローチとして、パウダースノー・ハンター向けに豪州でプロモーションをしています。このトライブにとっては何よりも重要なのは雪質であり、福島に来てくれる可能性があると考えました。実際、裏磐梯エリアへの豪州からの旅行者は増えています。

パウダースノー・ハンターは豪州、ニュージーランド以外にも北米、英国など冬のレジャーを好む欧米諸国に多いので、雪質に自信のあるエリアでは集客の大きなチャンスになります。

次は「フーディーズ」です。いわゆるグルメな旅行者です。和食が世界文化遺産に指定され、「ミシュラン」の星の数が多い東京、京都などには、既に世界の美食家たちが集まってきています。しかし、まだ大都市だけで、地方には足をのばしていないようです。

このトライブは、美味(うま)いものがあるとわかれば、地方にもやって来ます。世界的な食の観光地といえば、スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンが有名です。マドリードやバルセロナからも遠く、最寄りの空港からバスで1時間以上かかりますが、街のバルやレストランには世界中のフーディーズたちであふれかえっています。

日本の地方では、郷土料理やB級グルメばかりが注目されていますが、ユネスコ食文化創造都市となった山形県鶴岡市などでは新たな取り組みが始まっています。地元の豊かな食材を使って「A級」グルメをPRしていく地方はもっとあっていいでしょう。世界的な食の目的地の枠にはまだ「空き」があります。

3つめは「ウーファー」です。今、世界の若者に大人気の旅行スタイルが農業体験&農家ステイです。「WWOOF(ウーフ)」という世界的な専門の予約サイトがあり、そのサービスを使って旅するトライブがウーファーと呼ばれます。

大学卒業後や在学中に、ワーキングホリデー、海外ボランティアと並んでウーフを選ぶトレンドが広がっています。サービスが始まった英国をはじめ、米国、豪州などの英語圏だけでなく、ドイツや北欧、さらにはタイなどのアジアにも多数のユーザーがいます。

ウーフには、フランスのワイナリー、ニュージーランドの牧場など、様々な農家ステイの情報があります。日本国内では農家ステイの受け皿になるエリアはまだそう多くありません。農家ステイはグリーンツーリズムの一環として、今後ますます整備が進んでいくと思われます。

ここで紹介したトライブはほんの一例にすぎません。ドイツのある旅行会社では、トラベラー・トライブを200以上設定し、それにあわせた旅行商品を開発しています。

これまでインバウンドのマーケティングのターゲットというと、中国人、タイ人、欧米人など「国や地域」でくくられがちでした。たとえば「爆買いをする中国人旅行客が減ったので、タイ人旅行客へのプロモーションを強化したい」「旅行消費額が多い欧米人をターゲットに設定すべきだ」といった議論です。しかし同じ国籍でも旅行者には様々なタイプがあり、国や地域だけでターゲットを絞るのには限界があります。

どんなトライブを狙うか、考えるようになると具体的な集客策も見えてきます。例えば、秋田県ではカナダのパウダースノー・ハンターにアプローチするために、カナダから一流のプロボーダーたちを招いて実際に雪質を体験してもらい、それを彼らのファンに向けて発信するという方法をとっています。

フーディストであれば、そのトライブの情報源を知ることが重要です。英国には「フード&トラベル」という食と旅がテーマの人気雑誌があり、同誌とタイアップもアイデアのひとつです。ウーファーなら「オンライン・トラベル・エージェンシー」と連携することで、農家民泊ができる宿の情報発信と予約促進のキャンペーンを同時に進められるかもしれません。

「どこの国の人に来てほしいか」だけでなく、「どんな旅人に来てほしいか」を具体的にイメージすることで、地方のインバウンドには新たなチャンスが広がります。

[日経MJ2017年5月10日付]

インバウンド提言の後編「『オンリーワン』の魅力 外国人目線で探して伝えよう」はこちらから。

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