日本の人口、50年後は? 1億人割れ減少止まらず
からすけ ボクが随分と年を取る頃の話だね。少子高齢化の話をよく聞かされてきたけど、人口が1億人より少なくなると、日本はどうなるのかなあ?
1億人割れ 減少止まらず
イチ子 報告書の名前は「日本の将来推計人口」(キーワード)。国立社会保障・人口問題研究所がまとめたわ。推計のもとになるのは、国が5年に1度、国内人口や世帯などについて調べる国勢調査で、最新のは2015年のもの。将来推計人口は国勢調査で分かった出産数や死亡数の傾(けい)向が今後も続くと仮定して計算するの。だから、将来推計人口も5年に1度ほど新しくしているわ。
日本の将来推計人口 約50年先までの日本の人口と年齢構成を、1年ごとに推計したデータ。合計特殊出生率のほか、総人口に対する死亡者の割合を示した「死亡率」など人口の増加や減少に影響する数値も示す。外国人も対象に含まれる。
働き方改革 長時間労働や残業を減らすなどで、仕事と家庭を両立させ、男性も女性もだれもが働きやすい社会にすること。大手企業の間では実現に向け、在宅勤務や正社員と非正規社員の賃金格差見直し、高齢者雇用を進め、働き手確保に動く。国は「一億総活躍(やく)社会」をうたっている。
からすけ 今回どんな予測が出たの。
イチ子 15年時点で、日本の総人口は1億2709万人。それが53年に1億人を切り、さらに、63年には9000万人を下回るの。65年には8808万人になるらしいわ。
からすけ そうなんだ。どんな社会かもっと知りたい。
イチ子 少子高齢(れい)化は今より深刻よ。65年に65歳以上のお年寄りは3381万人で、総人口に占める割合は15年の26.6%から38.4%まで上昇(しょう)するわ。周りを見れば、10人のうち4人がお年寄りということ。女性の平均寿(じゅ)命は91.35歳(さい)、男性は84.95歳まで延びるとされているの。一方で、統計で子どもに分類される14歳以下の人数は15年の1595万人から898万人に。社会で主な働き手となる15歳から64歳までの生産年齢人口は、15年の6割弱の4529万人にまで減るの。
からすけ 若い世代がどんどん減るんだね。
イチ子 そうね。人口推計の重要な指標の一つである合計特殊(しゅ)出生率について見てみましょう。これは女性が一生のうちに産む子どもの数のことよ。前回の人口推計が出た12年には、この数値が60年で1.35となるとしていたの。それを今回、65年に1.44になると上向きに修正したわ。保育園の整備など子育て支援(えん)策も進み、30~40歳代の出産が増えていること、15年は1.45まで回復したことを反映させたのよ。その結果、人口が1億人を割り込む時期は、12年推計で考えていたより5年遅(おそ)くなるだろうって。
からすけ 少しは明るい話もあるんだね。
元気なお年寄り 社会支える側に
イチ子 人口が減るスピードは緩(ゆる)くなるだろうけれど、歯止めはかからない、というのが報告書の未来図だわ。国内の産業活動や消費活動が活力を保ち、いろんな制度などがうまくまわるための人口を保つために、国が目標としている合計特殊出生率は1.8なのね。だから、この水準には及ばないわ。
からすけ 人口が減ると何が大きな問題になるの。
イチ子 いろいろあるけれど、年金や医療(りょう)、介護などの社会保障制度が行き詰まるかもしれないの。社会保障というのは、主に働き手が払う保険料や税金でお年寄りなど弱い立場の人を支える仕組みよ。どうして制度がうまくいかなくなるかもしれないかを説明するね。高齢者1人の医療費などを支える働き手の人数が、1965年は10.8人だったのに対し、少子化が進むにつれて2015年は2.3人になり、そして2065年は1.3人になる計算なの。15年までは複数の人で支える「騎(き)馬戦型」だったけど、65年はほぼ一人の「肩(かた)車型」になってしまうのよ。
からすけ 運動会だと肩車役は重くて大変だよ。
イチ子 超(ちょう)高齢社会で医療や介護の費用は膨らむ一方だと考えられるわ。でも支える側の人口は減るばかり。一人では支えきれないと、肩車役がバタバタ倒れる時代が来るかもしれないの。日本は高齢化が世界で最も速く進んでいて、後を追う欧州や中国は日本の社会保障制度がどうなるか注目してるの。
からすけ 今、できることはあるのかな。
イチ子 既(すで)にいくつか取り組みは始まっているわ。例えば少子化対策。働く女性が安心して子どもを産める社会にするため、長時間労働の見直しを含めた働き方改革(キーワード)を着実に進める必要があるわ。短時間に効率よく働き、男性がもっと育児参加してくれるようになれば、女性も仕事と子育てを両立しやすくなるでしょ?
からすけ そうだね。
イチ子 平均寿命が延びて元気なお年寄りが増えた今、所得が一定以上の人に医療費などを今より多く負担してもらったり、引き続き働いてもらったりするなど、社会に支えてもらうのではなく、支える側に戻ってもらおうとの意見もあるの。アジアなどから外国の人を働き手として受け入れてはどうかとの提言もあるわ。思い切った手を打たないと、人口推計の未来を変えられないといえそうね。
社会保障制度どうする
灘中学校・高等学校の藪本勝治先生の話生まれた時から少子高齢化社会。物心つく頃には既に人口減少中。そんな世代の生徒たちに展望を聞くと「電車や住宅が広々としていいかも」「労働力は人工知能(AI)で補え、デジタル世代の高齢者ならできることが増える」など前向きな見方が多いようです。
確かに、物質的に豊かで健康寿命も延びるなら、縮小社会もそう悪くはないでしょう。しかし一方で「AIは税金を払ってくれない」「年金なんてもらえるはずがない」との認識も共有していました。彼らの言う通り、少子化が続けば今の社会保障が立ちゆかなくなるのは明らか。しかし多くの若者には子育てに十分な経済的・時間的余裕がありません。
エネルギーや環(かん)境破壊(かい)等の問題を含め、将来世代に負担を強い続ける社会・経済のあり方をどうするのか。人口減少の顕(けん)在化は、そうした課題と真剣に向き合う好機ととらえるべきでしょう。
[日本経済新聞夕刊2017年5月6日付]
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