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カリスマの直言

米株高誘うバフェット氏 増配ブーム到来か(藤田勉) 一橋大学大学院客員教授

2017/5/15

自ら率いる投資会社の定時株主総会に臨んだウォーレン・バフェット氏(5月6日、米ネブラスカ州オマハ)
「米国株市場はバフェット氏のアップル株の買いで沸いている」

 ハイテク株を多く含む米国のナスダック総合株価指数は、連日のように史上最高値を更新している。つれて世界の株式相場は順調に上昇している。

 そのカタリスト(株価上昇のきっかけ)は、世界最高の投資家といわれるウォーレン・バフェット氏(米国の投資会社、バークシャー・ハザウェイ最高経営責任者)によるアップル株の買いである。世界で株式時価総額が最も大きいのがアップルであり、その時価総額は約90兆円(1ドル=110円で換算)である。ちなみに、日本を代表するハイテク企業であるパナソニックや日立製作所の時価総額は3兆円台にすぎない。その巨大なアップルの株価が史上最高値を更新して、市場全体をけん引している。

 バークシャーは、株式投資部門と保険や鉄道事業などの事業部門を持つ総合投資会社である。バークシャーの投資実績は、長期的に卓越したものがある。2016年末までの過去52年間に、バークシャーの株式時価総額は年率で20.8%増加した。これは、同期間のS&P500種株価指数の同9.7%を大きく上回る。

■アップルの配当成長の可能性を評価か

 バフェット氏の投資手法の特徴は、集中投資である。17年3月末時点での株式投資の総額は約15兆円(1ドル=110円で換算)であるが、保有比率の1位は米国の銀行、ウェルズ・ファーゴの21%、2位はアップルの14%、3位はコカ・コーラの13%、4位はアメリカン・エキスプレスの9%、5位はIBMの8%である。つまり、これら5銘柄に資金全体の3分の2を投資している。最近、バフェット氏は長年保有していたIBM株を売却する一方で、アップル株を買い上がっている。

 もう一つの特徴は、配当成長を重視することである。これらの企業は配当利回りが高いだけでなく、配当が成長している。コカ・コーラは昨年まで54年連続増配、IBMは21年連続増配である。

 とはいえ、最近話題となっているアップルの投資妙味は高いように見えない。スマートフォンの成長鈍化とともに、アップルの成長も鈍化しているからだ。株価収益率(PER)は約18倍、配当利回りは1%台と魅力的とはいえない。

 それではなぜアップル株を買い増したのか。バフェット氏はアップルの配当成長の可能性を高く評価していると思われる。アップルは、手元資金から有利子負債を差し引いたネットキャッシュを約20兆円持つ。アップルは、アイルランド政府の優遇措置を受け、同国における法人税の税率が著しく低い。そこで、日本を含む米国外の利益をアイルランドに集中させ、節税をしているのである。

 米国の場合、日本と異なり、海外の蓄積された利益を米国に配当で還元すると、世界最高水準の法人税(税率35%前後)の課税対象になる。つまり、せっかくアイルランドで節税しても、米国で配当すると多額の税金を取られてしまうので配当を抑制しているわけだ。これが、現金を豊富に持つアップルの配当利回りが低い理由である。

 しかし、アップルを取り巻く環境は大きく変化しようとしている。それはトランプ米大統領の登場である。トランプ氏は、法人税率の大幅引き下げとともに、企業の海外留保金の配当課税の軽減を提案している。後者は、04年にブッシュ政権が実施し、大きな成果を収めた。

 株主の圧力もあり、アップルも株主配分に力を入れつつある。12年以降は、毎年増配している。もし、これらの減税措置が実施されれば、大幅な増配に踏み切る可能性が高い。法人税率は、トランプ氏が提案する15%までは下がらないにしても、与党共和党が減税に賛成しているだけに、引き下げ実現の可能性は高い。法人税率引き下げは企業の純利益を増加させ、アップル株をはじめとする米国のIT(情報技術)企業の株価押し上げ要因となる。

 米国のIT企業は昨年11月の米大統領選後も株価が大きく上がっている。時価総額推移(期間は昨年11月8日~今年4月末、1ドル=110円で換算)を見ると、増加額は1位のアップルが17.8兆円(増加率27.3%)、2位のアルファベット(グーグルの持ち株会社)が8.9兆円(同14.7%)、3位のフェイスブックが8.4兆円(同21.3%)となっている。

■マクロ環境を見ても世界経済は順調に推移

 トランプ政権では、高技能移民の受け入れ抑制など、ハイテク企業にとって、ネガティブな政策が実行されるのではないかという懸念がある。しかし、グローバルなハイテク企業にとって、開発者が米国にいなくても大きな問題はない。実際に、シリコンバレーの企業がイスラエルの企業と密接に連携して開発を進めている例は多い。

 アップルと同様に、海外に現金を豊富に保有する企業は、アルファベット、マイクロソフト、フェイスブックなどIT企業が中心である。税制改革が実現すれば、これらも一斉に増配に動き、増配ブームとなる可能性がある。しかも、これらは今後、世界をけん引する人工知能(AI)革命の中核銘柄である。

 マクロ環境を見ても、米国を中心とする世界経済は順調に推移している。以上を総合すると、今後も、アップルを中心とするIT企業をリード役とした米国株上昇の基調に変化はあるまい。世界の株式時価総額の半分近くを占める米国株式市場が、引き続き上昇基調にある以上、日本株を含む世界の株価上昇基調も続くであろう。

藤田勉
 一橋大学大学院客員教授、シティグループ証券顧問。2010年まで日経ヴェリタスアナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。経済産業省企業価値研究会委員、内閣官房経済部市場動向研究会委員、北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学講師を歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。

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