5年後、認知症になる確率は? チェックリストで確認
健康なうちから気を付ければ将来の認知症を予防できるかもしれない。星城大学リハビリテーション学部教授の竹田徳則さんらの研究チームは2003年から2008年の5年間、65歳以上の高齢者を対象に認知症のリスクを調査し、その結果から2016年、認知症リスクのチェックリストを作成し発表した。竹田さんに認知症予防とチェックリストについて話を聞いた。
要介護、要支援の原因で「認知症」は第2位
高齢になっても要介護にならず、健康な状態で長寿を目指したい、という人は多いだろう。そのためには、認知症をどうにかしなければならない。
厚生労働省の国民生活基礎調査(平成25年度)によれば、要介護、要支援認定者の原因となっている病気の1位は脳血管疾患(脳卒中)で全体の18.5%、2位が認知症で全体の15.8%である。また、要介護者だけに絞ると順位こそ変わらないが、1位(21.7%)、2位(21.4%)と、その差はほとんどなくなる。脳血管疾患も認知症の大きな原因となることを考えると、認知症と要介護の関係は非常に強く、対策が急務であることが分かる。とはいえ、認知症を治す薬は今のところない。どうすることもできないのだろうか。
「誰でも年を取ると物忘れが多くなり、90歳以上の高齢者の7割は認知症です。でも100歳になっても認知機能がそれほど衰えず、自立して元気に過ごしている人もたくさんいます。その差はいったい何かということが、認知症予防のヒントになると考えられます」と竹田さん。
竹田さんも言う通り、認知症の最も大きなリスクは加齢だ。年を取れば取るほどリスクは大きくなる。これは避けることができない。また遺伝子的要因、アルツハイマー型認知症のような病気も、今のところどうすることもできない。しかし、認知症の原因はそれだけではない。認知症の危険因子といわれている喫煙、頭部外傷などは注意すれば避けられる。また糖尿病、高血圧、脳血管疾患などの認知症発症に関わる病気も、若いうちから生活習慣の改善などに注意することで発症を予防したり進行を遅らせたりできる。
一方、知的活動や運動、社会的役割の構築など、認知症予防にいいとされ、高齢者本人の努力で変えられる行動もいくつかある。
こうした因子と認知症発症リスクについて因子ごとに研究したものはあっても、長期間追跡し、複数の因子の累積による認知症の発症割合を明らかにした調査はこれまで日本にはなかった。
そこで竹田さんらの研究チームは愛知老年学的評価研究プロジェクトなどの調査に回答した1万4804人のうち、調査項目に回答のもれがなく自立した日常生活を送っている(要介護認定を受けていない)65歳以上の高齢者 6796人を、2003年から2008年までの5年間追跡調査した[注1]。その間に認知症を発症した人や認知症を発症してから死亡した人は366人だった。
[注1]日本認知症予防学会誌 2016;4(1):25-35.
研究チームは調査項目の中から、認知症発症に関わる因子として、基本属性(6因子)、健康行動(6因子)、社会参加(8因子)など計50因子をピックアップ。これらの因子と認知症発症の関係について分析し、認知症発症に特に大きな影響を与える13因子を抽出した。これを基に認知症発症リスクを簡単に知ることができる「認知症リスクのチェックリスト」を開発した(図1)。
調査から抽出した13因子は、「75歳以上」「仕事なし」「糖尿病あり」「物忘れの自覚あり」「うつ傾向・状態あり」「情緒的サポート受領なし」「スポーツ的活動への参加なし」「バス電車利用外出不可」「食事用意不可」「請求書支払不可」「年金書類作成不可」「新聞読まない」「病人見舞う不可」というものだ。チェックリストには基本的にこの13因子が項目として並んでいる。
チェック項目のうち「1.現在、あなたは75歳以上ですか」だけは配点が3点で、それ以外は1点となる。ただし、「うつ傾向・状態あり」は自分では判断しにくいので、うつの状態をチェックする既存のチェックリストから引用した15項目に答え、5つ以上該当する場合に1点となっている。また、この項目に関しては認知症とは別にうつ病の心配もあるため、「同じ5点以上でも15点により近い人は、うつ病になっている可能性もあるので、心配があれば医師に相談してみることをお勧めします」と竹田さんは話す。
合計スコアは15点満点。点数が高いほど5年間で認知症を発症するリスクが高い(図2)。追跡調査では、スコア0~2点だった人は、5年間での認知症発症割合が2%以下だったのに対し、5点の人は8.3%、9点以上の人は43.6%とほぼ半数になることが分かった(図3)。チェックリストの結果もこの調査結果に基づいており、例えば4点だったら5年間での認知症発症割合は4.2%となる。
各項目の見方として、「7.スポーツ的活動へ参加していますか」は地域で行われている体操教室やスポーツの会など複数人で行うものを指していて、1人で行っている運動は含まない。「8.バス・電車を利用して外出することはできますか」は、地方などの場合、交通の便が悪く車での移動が主という人もあるだろう。そういう場合、バスや電車で移動しようと思えばできる人は「はい」となる。「9.食事の用意」「10.請求書支払」「11.年金の書類作成」なども、役割分担として実際には行っていないが、しようと思えばできる場合は「はい」となる。
チェックリストの効果的な活用法は?
チェックリストの中には、行動を変えることで避けられるものと、「年齢が75歳以上」のように避けられないものがある。例えば、75歳以上の人はそれだけで3点になるが、それ以外の項目が0点であれば、5年間で認知症になるリスクは3.3%にとどまる。
「このチェックリストは『9点以上だから5年以内に認知症になりますよ』と恐怖をあおるためのものではありません。13項目のうち、以前はやっていたけれどもやめてしまったものがあれば、もう一度挑戦してみるとか、あるいは今まで料理をしたことがないけれど、料理教室に入って挑戦してみようなど、できそうなことをして将来のリスクを下げましょうというものです。つまり生活を見直す目安として使っていただければと思っています」と竹田さん。
「スポーツ的活動へ参加していますか」「食事の用意をすることはできますか」「新聞を読んでいますか」といった項目は、自分の意思次第で、「いいえ」を「はい」に変えることが可能だ。
「このチェックリストは基本的には65歳以上を対象としていますが、脳の変化は40歳代から起こり始めます。認知症が心配な65歳以上の親世代と一緒に、子世代も早い時期から予防にいい行動を取り入れるとよいでしょう」(竹田さん)
親が「まだ認知症なんて早い」とチェックリストに向き合ってくれない場合でも、親の行動を観察することで、子が親の認知症リスクをチェックすることもできる。もし、スポーツなど行動を変えることでリスクを減らせる因子があれば、「一緒に体操教室に行こう」などと誘うのもいいだろう。
また竹田さんらは、別の調査において1市4町に在住の65歳以上の高齢者9720人を2003年から2006年の3年間追跡調査し[注2]、「園芸」や「旅行」が認知症予防によい趣味であることも2010年に発表している。「趣味に着目したこの分析では、園芸や旅行は予防効果が大きいという結果になりました。これらの活動は、計画を立てたり、ときには仲間と行ったりする社会性が含まれる点が認知症予防によいのではないかと考えられます」と竹田さんは推測する。
[注2]日本公衆衛生雑誌 2010;57(12):1054-1065.
「まずはチェックリストに基づいて13項目のうち、できることから始めてみてください。そのうえで、園芸や旅行、ウオーキングなどの認知症予防によいといわれている活動をグループで行うことを加えることで、より高い予防効果も期待できると思います」と竹田さん。
認知症リスクのチェックリストは壁や手帳に貼るなどして、ときどきグループでチェックし仲間で予防に取り組むのがお勧めだという。まずは気軽な気持ちでチェックリストにトライしてみてはいかがだろうか。
星城大学リハビリテーション学部教授。同大大学院健康支援学研究科研究科長。作業療法士。日本福祉大学大学院社会福祉学研究科後期博士課程修了、博士(社会福祉学)。名古屋市厚生院、有馬温泉病院、茨城県立医療大学保健医療学部助教授などを経て、2005年星城大学リハビリテーション学部教授に。高齢者の健康支援や介護予防・認知症予防に向けたリハビリテーションと作業療法を専門とする。
(ライター 伊藤左知子)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。