AIがシンクロ演技を判定したら 技術点は人より正確対談・スポーツとAIの未来を探る(上)

スポーツイノベイターズOnline

田中 私は国際水泳連盟のアスリート委員会の委員を務めています。数年前から競泳やシンクロを含む水泳全競技の各国アスリートの側から、「ルール違反をきちんと見てくれるAIが欲しい」という声は多くなっています。ただし、現状では話に出ているだけで実際の導入には至っていません。

例えばシンクロの場合、演技中にプールの底をちょっとでも蹴ってしまうと減点の対象となります。現状の審判の仕事はなくさず、こうした部分をきちんと判定してくれるアルバイトのようなAIがあったら、見えなかったルール違反を可視化でき、「不公平が軽減されるのに」という声がアスリートに多いです。

ソウル五輪シンクロ・デュエットの銅メダリストで現在は日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京氏

違反以外でも、シンクロ選手、特に過去のメダリストたちが、これまでの経験から審判の技術的な質の精度について意見し続けていることがあります。技術点の要素にある「難易度(Difficulty)」です。実際泳いでいる選手側からすれば最も高難度だと思う足技を、審判が分からないときがあるのです。

例えば、難しい角度で足をひねった状態で回転技みたいなことをやっているのに、審判が「ひねりを見られない」とか。実は、それは審判の質の問題なのです。

審判の中には、当然、高度な技を見たことがない人もいます。ロシアとか日本とか世界のトップレベルの国では問題がないのですが、5大陸に均等に国際審判がいるので、そういう人も実際にいます。

そんな時、「水中に本当に90度の角度で入ったか、92度ではなかったか」などを機械的に判定してくれるシステムがあればクリアになります。技術点(難易度、完遂度=execution、同調性=synchronization)については、AIの導入は近い将来「ある」と思っています。

数値化しにくい芸術要素

少なくとも、AIを判定に導入すると聞いてうれしいのは基準化されることです。シンクロのルールでは、技術点が何かについては言語化されていますが、今のところ、採点は「審判の目での判断」ですから、数ミリ違うというような客観的な数値基準はありません。私は委員としてルール変更の場にもいますが、競技という側面を考えれば、数値化のような発展には肯定的です。

神武 テクノロジーを導入するときに重要なのは、その前段階で人間の暗黙知を形式知にしないとそのテクノロジーでは扱えないことが多く、きちんと定義しましょうという議論が起こる点です。そこで初めて、何を明確化しないといけないかが見えてくる。シンクロは今まさにそういう状況かと思います。一方、シンクロのような採点競技には「芸術点」もあります。芸術的要素は数値化できるのでしょうか。

田中 個人的にはスポーツを見ている人が何に感動するのか、アンケートを取りたいぐらいです。というのは、シンクロで審判が高い芸術点を出すのは、結局、主観に基づいて革新的な振り付けや、音楽の解釈に心を動かされた時です。じゃあ、感動って何か。そもそもどんなスポーツでも私たちが感動する時というのは、本当にきれいであっさりした演技やプレーではなく、「すごく苦労しているのが想像できる」「足が震えそうだが必死に耐えている」など、人間らしさが出た時ではないでしょうか。

体操でも演技の最後にぐっと顔を上げたりするのは規定にはないけれど、その動作は印象度として重要です。こうした「止める」動作はシンクロにもあるけど、数値化できない部分です。同様に、芸術点の「演技態度(Presentation)」や「曲想の解釈(Music Interpretation)」も数値化は困難です。

演技を失敗したとき、次にどうしたか、という点も印象面で大きいです。フィギュアスケートの浅田真央さんによるソチ五輪のフリーの演技について、なぜ多くの人が感動したと話すのか。それを数値化できるものでしょうか。