発酵食品から発見 日本食の健康効果、70年代に特徴日経BP総研マーケティング戦略研究所 西沢邦浩

さらに、慶應義塾大学を中心とするチームは、腸内細菌が作るD-アミノ酸が過酸化水素に分解され、感染症を引き起こす病原菌を殺菌する仕組みを解き明かした。D-アミノ酸を過酸化水素に分解する酵素が作れないマウスはコレラ菌に1000倍も感染しやすくなったという[注3]

機能性だけではない。D-アミノ酸は、少量でも甘みやまろやかさを増す、食品のおいしさの元でもある。

その証拠に、D-アミノ酸は黒酢やバルサミコ酢、チーズ、日本酒、ワインといった、発酵・熟成が進み、うまみを増した発酵食品に多い。乳酸菌をはじめとする微生物がL体のアミノ酸から作りだしているようだ[注4]

黒酢では、屋外で壺を用いて醸造される鹿児島県福山町の伝統的な黒酢や熟成期間が長いバルサミコ酢、エメンタールチーズ、蔵に棲(す)みつく乳酸菌の力を利用して作られる生酛(きもと)造りの日本酒などで多量のD-アミノ酸が検出されている。

手間をかけた日本酒を楽しんで、前述の麹発酵ペプチドもD-アミノ酸もたっぷりとれるとすればうれしさも増す。

お酒の機能性というと、赤ワインに多いレスベラトロールといったポリフェノールが話題になることが多いが、日本酒でも新たな機能性の可能性が見えてきた。

納豆、しょうゆ、味噌には長寿関連物質も多い

納豆やしょうゆ、味噌からは、原料に含まれる食材のアミノ酸から作られ、私たちの細胞の分解と再生を促して、疾患を予防し老化を抑制する注目のアンチエイジング成分、ポリアミンもとれる(「納豆に『オートファジー』を促す成分 骨折予防にも」参照)。

このように、しっかりと熟成させた、風味やうまみも豊かな伝統的な発酵食には、未発見のアミノ酸やそれが集まったペプチド、アミノ酸から作られるポリアミンなどの「お宝効能成分」が隠れていたことが明らかになってきた。

日本酒は飲みすぎに、味噌やしょうゆは塩分のとりすぎに注意する必要はあるが、しっかりだしをとるといった日本食の調理の基本を大事にすれば減塩につながり、適量を上手にとることができそうだ。またいろいろな種類の発酵食をとることで、各種のアミノ酸類をとることができ、美肌やダイエットから腸の健康まで広い健康効果が期待できる。

そもそもだしも、昆布のグルタミン酸、キノコ類のグアニル酸、肉類のイノシン酸といったうまみアミノ酸が働いている。

そう考えると、日本食のおいしさも健康効果も、独自に育まれた「アミノ酸使い」にあるといえるかもしれない。

このところ、3大栄養素の中では、糖質制限といった食事法が話題になっている「炭水化物」、DHA・EPA・α‐リノレン酸といったオメガ3脂肪酸入りの油や食品が世界的な関心を集めている「脂質」の2大栄養素が目立っていたきらいがあるが、伝統的な発酵食品の分野から「たんぱく質(アミノ酸)」をキーワードにしたヒット商品が生まれる土壌が、今、かもされつつある。

[注1] Nutrition. 2016 Jan;32(1):122-8.
[注2] J. Agric. Food Chem.2013; 61 (37):8807-13
  J. Funct. Foods.2016; 27: 612-621
[注3] Nat Microbiol. 2016 Jul 25;1(10):16125.
[注4] Trace Nutrients Research 2014;31:59-65
西沢邦浩
日経BP総研マーケティング戦略研究所主席研究員。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。
マーケティング戦略研究所

日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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