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犬のしつけ教室で学んだ 「共生社会」に必要なこと マセソン美季さんのパラフレーズ

2017/5/12 日本経済新聞 朝刊

 カナダの我が家にはバーニーズ・マウンテン・ドッグという大型犬がいる。今回は犬のしつけ教室から考える共生社会の概念醸成について考えてみたい。

 しつけ教室というのは、「待て」「お座り」のような指示をしっかりと聞き、身につける訓練をするためのもの。あるいは問題行動を防いだり、直したりするもの、と思っていた。もちろんそういう練習もあるが、毎週出される宿題の中には、多種多様な人と触れ合うという項目があり、赤ちゃんから大人まで、様々な年齢の人と接するのもしつけの1つとされている。

 三輪車や自転車に乗る子どもや、ボール遊びをする子どもの近くを散歩する。また、松葉づえや歩行器、車椅子を使っている人とも出会うようにする。ヘルメットをかぶった人や、電動工具を使っている人にも慣れさせる。こうした課題もあった。何事も、小さい頃から見て慣れることが大切。その存在を知っているだけで、大きくなって知らないものに出会った時のパニックが減るそうだ。

 ほかには、手や腕の動きを使って合図をする方法も学んだ。人混みや大きな音がある場所で声の指示が通らない時や、遠く離れている時でも、大声を出さずにスマートに指示を出し、意思の疎通を図ることができるようになる。

 我が家ではこの練習をしてから、犬とのアイコンタクトが増えたと感じる。その様子を見ていた近所の人が、「うちの犬に教えておけば、犬の耳が遠くなった時にとても役に立ったのに」と残念そうに語っていた。

 防災について考える授業もあった。備えがあり、心構えができていれば、実際に地震などの災害が起きた時にも、自信を持って犬を落ち着かせられると感じることができた。

 小さな頃からいろいろな人たちと出会い、さまざまなコミュニケーション能力を身につけておくことは、犬だけでなく私たちにも役立つこと。正しい褒め方や褒めるタイミング、「怒る」と「叱る」の違いなど非常に役立つ内容が満載だった。犬のしつけ教室で勉強しているのは実は犬ではなくて、飼い主の私たちである。

マセソン美季
 1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジスピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。

[日本経済新聞2017年5月11日付朝刊]

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