チョコレートの健康効果 摂取量が少ない日本人にも?
日本人の男女約8万5000人を対象に、チョコレートの摂取量と脳卒中発症の関係を調べた研究で、チョコレートの摂取量が多い女性ほど脳卒中リスクが低いことが分かりました。
西欧ほど摂取量が多くなくても健康効果はあるのか
これまでに西欧で行われた研究では、チョコレートの摂取が循環器系の健康に好ましい影響をもたらす可能性が示されていました。ただし、それらの研究の多くは、伝統的にチョコレートの摂取量が多いスウェーデンやドイツの人々を対象としたものであり、それらの結果をそのまま、チョコレートの摂取量が少ない日本人に当てはめることは難しいと考えられていました。
また、脳卒中を出血によるもの(脳内出血、くも膜下出血)と梗塞によるもの(脳梗塞)に分けて分析した研究や、男女別にリスクを推定した研究はほとんどありませんでした。著者らはそうした点を考慮しながら、日本人のチョコレート摂取と脳卒中リスクの関係を分析することにしました。
対象となったのは日本の大規模疫学研究である「JPHCスタディ」に参加した男性と女性です。「JPHCスタディ」の参加者は、1990年に5つの保健所の管轄区域で登録された40~59歳の男女のグループ(第1グループ)と、第1グループとは異なる6つの保健所の管轄区域で1993年に登録された40~69歳の男女のグループ(第2グループ)からなります。
今回の研究の対象になったのは、それらの参加者のうち、質問票を使った自己申告式の調査を、第1グループは1995年に、第2グループは1998年に受けていた人々です。調査は、過去12カ月間の食物(チョコレートを含む138種類の食物と飲料)摂取頻度を尋ねるものと、年齢、性別、身長、体重、健康状態や喫煙、飲酒の習慣、運動量などを尋ねるものの2通り行いました。
それぞれのチョコレート摂取の頻度と量に基づいて、男女別に以下の4群に分けました。
「0g」(最低群)/「5.8g」/「11.6g」/「37.5g」(最高群)
日本のスーパーなどで、100円前後で売られている板チョコは1枚約50gなので、最高群でも1カ月に3枚程度しか食べていない計算になります。これは、欧米で行われた研究の最高群の約半分に相当します。
調査時点で循環器疾患、糖尿病、がんと診断されていた人や、チョコレート摂取に関する情報が得られなかった人、BMI(体格指数=体重〔kg〕/身長〔m〕×身長〔m〕)が14未満または40超の人、食物摂取量が極端に少ない人や極端に多い人は、分析から除外しました。
約8万5000人を13年追跡した結果は?
両グループ合わせて、条件を満たした男性3万8182人と女性4万6415人を12.9年(中央値)追跡することができました。
男女ともに、チョコレート摂取量が多い人の方が、年齢が若く、高血圧治療薬の使用率が低く、飲酒量が少なく、魚介類、肉、果物、大豆食品、野菜を多く摂取しており、摂取熱量も多くなっていました。
追跡期間中に、3558人が脳卒中を発症しました。うち2146人が脳梗塞、1396人が出血性脳卒中(脳内出血、くも膜下出血)でした。
チョコレート摂取が多い女性は脳卒中リスクが低い
チョコレートの摂取と脳卒中の関係に影響を与える可能性がある要因(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、食物摂取状況、運動量など)を考慮した上で分析したところ、女性では、最低群に比べ、最高群の脳卒中のリスクは16%低くなっていました。しかし男性では、最低群と最高群の脳卒中リスクに統計的に意味のある差は見られませんでした。
脳卒中を脳梗塞と出血性脳卒中に分けて分析すると、どちらについても、男女の両方で、統計学的に意味のあるリスク低下は見られませんでした。ただし、女性では、最低群に比べ最高群において、どちらのリスクも低い傾向が見られました。
研究者たちは、今回考慮した以外の要因が結果に影響を及ぼしている可能性があるとの考えを示しています。しかし、欧米で行われた、チョコレート摂取と脳卒中の関係を男女合わせて調べた同じスタイルの研究では、7件のうち5件が脳卒中リスクの低下を示し、残る2件も低下傾向を示していたこと、女性を対象に分析した2件の研究も、1件はリスク低下を、もう1件もリスク低下傾向を示したことから、日本人女性にもチョコレートは好ましい影響を与える可能性があります。
論文は、大阪大学医学部のJia-Yi Dong氏らによって、2017年3月4日付のAtherosclerosis誌電子版に報告されています[注1]。
[注1] Dong JY, et al. Atherosclerosis. 2017 Mar 4;260:8-12. doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2017.03.004.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday 2017年4月21日付記事を再構成]
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