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ピアニスト花房晴美と仏室内楽 ショーソン編

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ピアニストの花房晴美さんが音楽仲間と続けている「室内楽シリーズ パリ・音楽のアトリエ」。13回目となる4月公演のリハーサルを取材した2回連載の後編では、ショーソンの「ピアノ、バイオリンと弦楽四重奏のためのコンセール」を中心に、花房さんと共演者たちがフランス室内楽の魅力を語る。

室内楽曲の中で最も難しいといわれるピアノ

単に「コンセール(協奏曲)」とも呼ばれるエルネスト・ショーソン(1855~99年)作曲の「ピアノ、バイオリンと弦楽四重奏のためのコンセール 作品21」は、珍しい編成の室内楽だ。4月21日、東京・上野公園の東京文化会館小ホールで開かれた「花房晴美 室内楽シリーズ パリ・音楽のアトリエ〈第13集 ロマンチックな黄昏(たそがれ)〉」。本公演前のリハーサルをのぞいた。ステージに6人の演奏家が登場した。まずピアノの花房さんと独奏バイオリンの徳永二男さんがいる。そこに弦楽四重奏団が加わった編成だ。四重奏の第1バイオリンは木野雅之さん、第2バイオリンは会田莉凡さん、ビオラは百武由紀さん。それにチェロは、本連載の前編でドビュッシーの「チェロソナタ」とともに紹介したイタリア人チェリストのサンドロ・ラフランキーニさんだ。

「ピアノが大活躍するスケールの大きな曲。協奏曲みたいなところもある。特にピアノのパートは、独奏、バイオリンとのデュオ、それにオーケストラの3つの役割をすべて自分で担当しているみたいだ」と花房さんは「コンセール」でのピアノの特異な役割について説明する。元NHK交響楽団コンサートマスターで、百戦錬磨の大御所バイオリニストである徳永さんも「この曲のピアノは超絶的に難しい。室内楽のピアノとしては最も難しいのではないか」と語る。

弦楽奏者にとっても難曲だ。日本フィルハーモニー交響楽団のソロ・コンサートマスターで、花房さんとの共演CDも出しているバイオリニストの木野さんは「この曲はイザイにささげられている。彼の技量を見込んだ作品となっている」と指摘する。ウジェーヌ・イザイ(1858~1931年)は、ショーソンが生きた時代に世界最高と評されたベルギー出身のバイオリニストだ。有名な一連の「無伴奏バイオリンソナタ」を書いた作曲家でもあるイザイを念頭に、ショーソンはこの「コンセール」を作曲した。初演もイザイのバイオリンによる。「室内楽なのに(ピアノやバイオリンのための)協奏曲のようで、オーケストラ曲でもあるような壮大な曲」と語る。木野さんは客席に降りて各人の音の鳴り具合とバランスを確認し、6人の弾く位置を指示して直していた。

本稿の映像は、6人による「コンセール」のリハーサル演奏を捉えている。ピアノの和音に続いて、弦楽の5人がオーケストラのように勇壮なテーマを分厚く響かせる。ホール全体が壮大な雰囲気に包まれる。ピアノのすぐ脇に陣取ったビオラ奏者の百武さんは、冒頭のピアノの一撃に思わず体を飛び上がらせて驚いていた。「ショーソンは相当入れ込んで書いている。もういきなり大海原に投げ出された感じ。忙しく懸命に泳ぎ続けなければ溺れてしまいそう」と百武さんはビオラも難しいことを指摘する。バイオリニストの会田さんは「とにかく長い。全部演奏するのに40分かかる。バイオリンが3人もいる室内楽は珍しい」と話す。一方で、弦楽奏者の長い休止もあるなど、普通の室内楽にはあまりない場面も多い。

弦楽奏者たちが奏でる甘美でスケールの大きいメロディーの背後で、ピアノによるアルペジオ(分散和音)の速いフレーズが絶えず鳴っている。何かに似ている。ロシアの作曲家ラフマニノフの有名な「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」の第1楽章を思い起こさせるロマンチックな雰囲気が醸し出されているのだ。しかもオーケストラ伴奏のピアノ協奏曲ではなく、たった6人による室内楽で同等のスケールを実現している。ショーソンが「コンセール」を作曲したのは1889~91年で、ラフマニノフが「ピアノ協奏曲第2番」を書いた1900~01年よりも早い。ラフマニノフの協奏曲の世界を室内楽で先取りしているわけで、フランス後期ロマン派としてのショーソンの面目躍如といえそうだ。

分かりやすく聴きやすいショーソン「コンセール」

花房さんのピアノのパートは、見るからに忙しそうだ。確かにラフマニノフのピアノ協奏曲並みの速さと音数の多さ、難しさだ。「大変弾きにくい。たぶんショーソンはピアノを弾かなかったと思う。頭の中で想像して鳴る音楽をそのまま書いている」と花房さんは推測する。「演奏の技術面では、クレメンティやモシュコフスキの難しい練習曲を延々と弾かされているような感じ。手の動きが非常に大変。だけど聴き手にはその大変さが分からないかもしれない。本当に苦労の多い曲だと思う」。そう言うわりには、花房さんは何食わぬ顔でミスタッチもなく、驚異的な集中力で全曲を弾きこなしていた。

破格の室内楽兼協奏曲と呼べる音楽が、誇大妄想ともいえるロマンチシズムの世界を広げていく。「ショーソンはワーグナーに憧れていたそうだが、納得っていう感じの音楽」と花房さんは言う。19世紀後半、欧州を席巻していたのは、ドイツのロマン派作曲家ワーグナーの長大な楽劇(オペラ)だ。「フランス音楽といっても、半分はドイツみたいな感じ。フランスのニュアンスは随所にあるものの、曲の構成はすごくドイツ的だ」と花房さんは語る。一方で「音楽自体はワーグナーとは違う」と百武さんは主張する。交響曲のような4楽章のがっしりした構成だが、第1楽章冒頭の重厚な主題が繰り返し登場し、全体に統一感を持たせる。これはショーソンが師事したベルギー出身の作曲家セザール・フランク(1822~90年)の「循環形式」という手法に基づくものである。「フランクとワーグナーの音楽が一体となっている」と花房さんは指摘する。

ショーソンの「コンセール」は演奏家にとって難曲だが、聴き手にとっては難解な曲ではないし、敬遠するのはもったいない。「大作だけど分かりにくいところは全くない。こんなに聴きやすい曲はない。もっと演奏されて広く聴かれるべき曲だ」と花房さんが主張する通り、これほど甘美なメロディーに満ちあふれ、ドラマチックな感動を呼ぶ室内楽も珍しい。ショーソンはパリの裕福な家庭に生まれ、法律を学んで弁護士資格を取った後、24歳でパリ音楽院に入学した。最初から音楽の道しかなかった作曲家とは異なり、音楽ファンとして、聴き手が楽しめる曲を書こうという謙虚さも感じられる。フランクを尊敬して慕い、ドイツのバイロイトへとたびたびワーグナー詣でもするなど、憧れの作曲家から学ぶ姿勢を持ち続けたという。自転車事故のため44歳で死去し、寡作だったこともあり、作品数は作品番号で39番までしかないほど少ない。

ドイツに対抗し「音楽の国フランス」をつくる

ショーソンはフランス国民音楽協会の会員だった。普仏戦争でフランスがドイツ(プロイセン)に敗れた後、同協会はナショナリズムの高まりの中でフランス独自の音楽を生み出し普及させようと、フランス人作曲家の音楽団体として創設された。発起人のサン=サーンスをはじめ、フォーレ、ラロ、ビゼーら名だたるフランス人作曲家のほとんどが会員となった。そこにはドイツに対抗して「音楽の国フランス」を打ち立てようという国民意識があった。のちにドビュッシーやラヴェルも協会員になるが、彼らの印象主義や象徴主義、異国情緒の作風にも、ドイツにはない新しい音楽を生み出そうという対抗意識が感じられる。だが一方で、ワーグナーの影響を受けたショーソンの作品もフランス音楽には違いない。19世紀前半、仏ロマン派音楽の開祖ベルリオーズがベートーベンを尊敬し、その後継作品と位置付けられる「幻想交響曲」を作曲したように、新しいフランス音楽はしばしばドイツの遺産から生まれてくる。

普仏戦争に従軍後、フランス国民音楽協会の草創期から会員になり、パリ音楽院教授も務めた作曲家がジュール・マスネ(1842~1912年)だ。「タイス」「マノン」「ウェルテル」などのオペラで特に知られる。「ショーソンはパリ音楽院でマスネにも作曲を学んだ。ショーソンの教師だったので、今回の公演ではマスネのピアノ曲も弾いた」と花房さんは話す。本稿の映像では彼女がリハーサルでマスネのピアノ曲「2つの小品」から「黒い蝶(ちょう)」を弾く様子も捉えている。蝶の羽ばたきのような小さくて繊細なものへのこだわり、詩的で幻想風の曲調、洗練された艶っぽい音色、しゃれたリズム感など、彼女が弾くこの曲からはいかにもフランス風の雰囲気が漂ってくる。

花房さんは2017年に日本デビュー40周年を迎える。パリ音楽院を卒業後、日本で演奏活動を始めた。複数の国際コンクールで最高位入賞。フランスでも高い評価を受けてきた。「最初の20~30年間は古典から現代まで何でも弾いた。ここ10年間はフランス室内楽への関心が強まり、そのシリーズ公演を通じて音楽への愛情が深まった」と言う。10月13日に東京文化会館小ホールで開く「花房晴美 日本デビュー40周年記念リサイタル」はソロ公演だが、「ソロで弾く場合でも、室内楽の経験を踏まえた上でのソロになってきた」。ドビュッシーの「前奏曲集」、ラヴェルの「夜のガスパール」など最も得意なピアノ曲を弾く。「エレガントですてきな曲はまだいっぱいある」。ライフワークとしての室内楽が円熟味を増し、彼女のピアノに磨きがかかる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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