
毎年、世界の人間を最も殺している恐ろしい生き物は何だろうか。サメか、ライオンか。答えはノーだ(サメによる死亡は年間10人ほど、ライオンはおよそ100人のよう。実はカバは怒ると凶暴で年間で500人も殺しているという)。
それより遥かに大勢の人間を殺している恐ろしい生き物がいる。それは、蚊だ。年間でおよそ72万5000人の人間が蚊が媒介する感染症で死亡している。その大半がマラリアだ。
世界保健機関(WHO)によると、2015年に世界でおよそ2億人がマラリアに感染し、約42万9000人が死亡した。その9割がサブ・サハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカで発生している。5歳以下の子供たちのマラリア感染による死亡率は高く、全体の7割にもなる。妊婦の死亡、あるいは赤ちゃんの流産、早産、死産のリスクもマラリア感染によって高まる。
「社会的包容力」という考え
ただ、マラリア感染症は予防が可能で、治療もできる。早期診断と治療へのアクセスが改善したことで、感染件数は減少傾向にある。01年から累計約680万人がマラリア感染からの死亡を回避できたと推計されている。
しかしながら、マラリア感染症はほとんどの日本人にとって遠い話だ。日本ではマラリアは日常生活の脅威ではないからだ。ただ、「源氏物語」に出てくる光源氏はマラリアに苦しんだとされ、また平清盛の死因もマラリアという説がある。明治から昭和初期には全国にマラリア感染症が広がった。第2次世界大戦時、疎開した一般市民が多数死亡した「戦争マラリア」という出来事もあった。沖縄でマラリアが制御されたのは1960年代になってからだ。
現在、日本では沖縄県の南東を除き、マラリアを媒介するハマダラカが全滅している。マラリア感染者の母数が減り、かつハマダラカが人間を刺すことを阻止できればマラリアは制御できる。この方程式は日本だけではなく、いまだにマラリア感染症に苦しんでいる南アジア、アフリカ諸国でも通じるものだ。
先進国のみならず途上国でもマラリア感染症を制御するという意識を世界的に高めるために、07年にWHOは毎年4月25日を「世界マラリアデー」と制定した。今年も、世界各国で4月25日にはイベントが開催され、東京では「Zero Malaria 2030 チャリティーパーティー」が催された。
そうした中、国連が定めた国際社会共通の成長目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が注目されている。SDGsは、15年に終了したミレニアム開発目標(MDGs)の後継と位置付けられる。MDGsが途上国の開発を目的としていたのに対し、SDGsは先進国も含む持続的な経済開発を対象としている。
気候変動やエネルギーは地球規模のテーマであり、SDGsは地球上の全人類を対象とした共通目標だ。SDGsではマラリアのみならず、エイズ、結核などその他の感染症のまん延を30年までに食い止めるという壮大な目標を掲げている。