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ペット禁止マンションのケンタウロス 人として扱う

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

毎週日曜更新、談笑一門でのまくら投げ。今回のお題は「犬・猫、ペット」ということで、笑二からの遠投を受け取って、今週も次の師匠まで、無事にまくらを届けたい。

多くの子供たちが1度は両親におねだりするように、僕も小学生の頃「ペットを飼いたい」と親に言ったことがある。そして多くの子供たちがそう言われるように、僕も両親から「ダメだ」と言われた。

何度お願いしてもいつもダメで、結果的には小学2年生から5年生まで3年間毎日、朝・昼・晩に必ずお願いしたけど、ダメだと言われ続けた。

クリスマスになるとサンタさんに、「プレゼントはいらないのでトナカイを1頭だけ置いて帰ってください」と手紙を出したけど、朝起きるとトナカイが玄関先にいることはなく、枕元に発売されたばかりのゲームソフトやマンガが置かれているだけだった。

当時の僕は、いつもは少しおねだりしたら大抵のものは買ってくれる優しい両親がなぜ、ペットだけは買ってくれないのか不思議でならなかったし、その姿勢に憤りを覚えてすらいたけど、今から思えば理由は明白だ。家のマンションはペット禁止のマンションだったのだ。

それでも僕が3年間毎日、朝・昼・晩にペットを買ってとお願いし続けるものだから、ついに両親が折れてくれて、僕にケンタウロスを買ってくれた。

なぜケンタウロスかと言うと、ペット禁止のマンションだけど「ケンタウロスだったらペット扱いじゃなくて同居人扱いにできるのではないか」と、父ちゃんが考えたからだ。

父ちゃんの会社の部長さんが飼っていたケンタウロスが子供を生んだらしく、何頭か産まれたうちの1頭を我が家に譲ってくださることになったのだ。

初めて父ちゃんがケンタウロスを連れて帰ってきてくれた日のことは、今でも鮮明に思い出せる。

まだ生まれて3日目だったから、今から思うとものすごく小さかった。それでもケンタウロスの赤ちゃんは、馬の赤ちゃんがそうであるように生まれてすぐに歩けるようになるから、家に入るとすぐに家中をトコトコ歩き回った。

ただ、人間の赤ちゃんがそうであるようにケンタウロスの赤ちゃんは3カ月ほどたたないと首が座らないから、家にやってきた当初はケンタウロスから目が離せなかった。首をガクンガクンさせながら歩き回るから、いつか首がもげるんじゃないかとヒヤヒヤした。

父ちゃんに何度教わっても「ケンタウロス」じゃなく「ケンタロウス」と呼んでしまう僕は、そのたびに家族から笑われた。それが嫌で、ある時から「ケンタ」と呼ぶようにしたら、いつしか皆もケンタと呼ぶようになり、それが名前になった。

ケンタウロスは馬と同じような早さで成長するから、家にきて1年がたったころには、気付けばケンタは僕と同じくらいの大きさになっていた。

僕は毎日ケンタを散歩に連れていった。最初はケンタにまたがって町内を回ろうと思ったけど、ケンタの馬的な部分にフォーカスしている瞬間を管理人さんに見つかると、ペットを飼っていると見なされて怒られるから、あくまでもケンタの人的な部分にフォーカスするように心がけていた。だから散歩も手をつないで町内を歩き回るようにしていた。

 他の友だちが自分のペットに芸を仕込むように、僕もケンタに芸を仕込み始めた。いま思えばケンタは僕に気を使ってくれていたんだろう。僕が「お手」というと、律儀に前足をチョコンと僕の手にのせてくれた。本当は手をのせる方が楽だろうに、いつも前足をちょこんとのせてくれた。

ちゃんと言うことを聞いてくれた時は父ちゃんに言われた通り、ご褒美に野菜スティックをあげていた。ケンタはベジタリアンというか草食動物だから、お肉は消化できないらしかった。少しでもおいしく食べさせてあげたいと僕がバーニャカウダにしてあげると、ケンタはとてもうれしそうに笑ってくれた。

どれだけおなかが減っていても「待て」と言ったらちゃんと待ってくれるし、僕が「よし」と言うと、手を合わせて「いただきます」と言ってから、野菜スティックをディップソースにつけて食べていた。

一度僕がいじわるをして「待て」と言ったまま小1時間くらい放置していたら、ついにケンタが怒って、殴りかかってきた。僕が特別弱かったこともあるけど、ケンタは相当強くて、すぐ馬乗りになってボコボコにされてしまった。

ケンタウロスの成長は人間よりも早いから、僕が中学に上がるころには、ケンタさんはもう、立派なおじさん風だった。2LDKのマンションは家族5人とケンタウロス1頭が一緒に住むには少し手狭だったから、ケンタさんには家から徒歩15分ほどの所にある古いワンルームマンションに住んでもらって、そこから毎朝わが家まで通ってもらうことになった。

徒歩15分だから遠い気がするけど、それは人間にとっての徒歩15分であって、ケンタさんにとっては徒歩4分くらいのものだった。

ケンタさんは走るとき、特に意味はないけどしっかり腕を前後に振っていた。他のケンタウロスは自分の走力に手が関係ないことを知っているから、走る時に手はサボりがちになるけど、ケンタさんは人的な部分を強調するためか、いつも一生懸命手を振っていた。

そんなケンタさんも、もう22歳だ。当時小学生だった僕が今年33歳なのだから、当然ケンタさんも年をとる。

そんなケンタさんがこのゴールデンウイークに東京のわが家まで遊びに来てくださった。久しぶりに会うケンタさんは杖を使いながら歩かれていて、驚いた。そして、あれだけシャンと伸びていた背中も今では丸まって、ヒドい猫背だった。

馬の20歳は人間にとって80歳くらいだといわれるように、ケンタウロスの22歳は人間にとって90歳くらいだから、仕方ないとはいえ、老けたケンタさんを見るのは少しつらかった。

どうして、人間とケンタウロスは寿命に差があるのだろう。

同じだけの時間を過ごしているはずなのに、ケンタさんのは早くて、僕のはゆっくりでって、そんなの不公平じゃないか。

「同じ早さだったら、同じように年をとれるのに」

と僕がこぼすと、ケンタさんは

「ずいぶん頑張っているみたいだけど、もっともっと生き急げ。そしたらいつか、わしに追いつけるかもしれんな」

といって、ニコっと笑われた。

「右手に見えるのが隅田川です!」

せっかくだから、観光して帰ってもらおうとお連れした浅草で乗った人力車のお兄さんが、大きな声で教えてくれた。

僕は

「これが隅田川ですか!」

とわざとらしい返事をしたけど、ケンタさんは

「わしが手で押したとしたら、人力車になるかの? それともやっぱり馬車かの?」

と、いつもの調子だった。

あの時、一生懸命ペットが欲しいとおねだりして良かった。結局ペットは飼えなかったけど、大事な家族が1人増えたのだから……。

以上、すべてペットが飼いたくても飼えなかった僕の、壮大な妄想であった。

(次回5月14日は立川談笑さんの予定です)

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。

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