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ブータンの幸福追求 「新しい働き方」に生かす

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日経DUAL

先日、JICA(東京都千代田区)で開かれた「ブータン王国『国民総幸福量にかかる情報収集・確認調査』成果発表セミナー ―「幸福度」と国・社会のあり方―」というセミナーに出席しました。ブータン王立研究所のカルマ・ウラ所長と解剖学者でブータンに何度も訪れている養老孟司先生が基調講演、内閣府経済社会総合研究所総務部長の桑原進さんによる日本人の生活満足度などに関する調査の報告、そして私は日本人のワークライフ・バランスやジェンダー(女性)の視点で幸福と政策について話しました。

ブータンは、国民が幸福を追求できる環境を整備することを国の目標に掲げています。単なる理想論ではなく、憲法で「国は、国民総幸福量の追求を可能にする環境を推進する努力をしなければならない」と定めており、本気が表れています。国の政策実施においては、幸福量を増やすことを目標にしています。

国民の幸福度は「国民総幸福量=Gross National Happiness:GNH」と呼ばれ、統計的な手法で測られます。このセミナーでは、JICAが政策立案支援として行った、2014年度~16年度の調査「GNH調査2015」について、調査を手掛けた王立研究所のウラ所長が解説しました。

困ったときに助けてくれる人が50人いる?

この調査では7153人のブータン国民に面接し、農業を営む人、軍人、公務員、ビジネスパーソン、学生、僧侶など多様な人々に話を聞いています。生活水準・健康状態・教育・政府の機能に関する認識、心理的充足や時間の使い方など、9の分野について満足度などを尋ねたそうです。

セミナー冒頭に、JICAブータン事務所の高野翔(たかの・しょう)さんが、GNHに関する面接調査に参加したときの経験を報告しました。

「山の奥にある過疎の村で、ある男性に面接調査をしたときのことをよく覚えています。『あなたが困ったときに助けてくれる人がどのくらいいますか』と尋ねると胸を張って『50人くらいかな』と答えたのです」

これは人間の幸福について考える上で象徴的なエピソードです。現代日本の抱える諸問題、人々に「生きづらさ」を感じさせる要素は、人間関係の希薄さだからです。例えば、ひとり親の貧困問題などは、個別家庭の経済状況にとどまらない、社会からの排除、人間関係のなさが大きな課題になっています。

日本は経済的には、かなり豊かです。もし、困っている人一人ひとりに「何かあったら助けてくれる人」が50人もいたとしたら……。多少の物の不足なら、貸し借りで済んでしまうかもしれません。「ちょっと子どもを見ていて」と頼める人間関係が近所にあれば、追いつめられる親は減るはずです。

もちろん、衣食住などの必要を満たせるだけの経済力がなければ「心が幸福」と言っても空威張りになります。内閣府経済社会総合研究所の桑原総務部長の報告によれば、日本では1人あたりGDPと主観的幸福度合いに相関がありそうだ、ということです。また、自殺率と失業率などの相関もかなりはっきりしているようです。今の医療や社会保障制度を支える税収を確保するためには、経済発展を諦めるのは現実的ではありません。ただ、経済以外の要素も併せて考える、という発想は重要だと思いました。

この日発表されたブータンのGNH調査結果によると、生活環境が改善し、多くの指標で前回調査より良い結果が出たそうです。その一方で、都市と農村部の格差、男女の差、教育の格差といった新たな課題も見えたといいます。

ワークライフ・バランス満足度が低い「未婚男性」

ここから先は4時間弱に及んだセミナーの中から、特に子育て世代に関係しそうな要素をご報告します。

私からは、男性のワークライフ・バランスに関する問題提起をしました。東京大学社会科学研究所の調査を引用しつつ、未婚男性のワークライフ・バランス満足度が低い事実を指摘しました。

一般的に言って、女性は男性より、既婚者は未婚者より家庭内の仕事が多いため、忙しくて大変と思われがちです。一方で「この人には家庭責任がある」と認識されることが職場における配慮につながり、仕事と私生活のバランスが取りやすいこともあります。見た目に分かりにくい男性の家庭責任ニーズは無視されたり、認識すらされないことが少なくありません。

さらに、未婚男性は「夜遅くまで仕事ができる」もしくは「したいと思っている」と周囲から思い込まれ、仕事をどんどん振られる傾向があります。ワークライフ・バランスは「母親の育児」だけの問題ではないと認識し、未婚の人や男性の「ライフ」充実も進めていくことが「幸せな社会」においては大事だと話しました。

この点について、司会を務めていたJICA南アジア部次長の松本勝男さんから、組織内における働き方改革の重要性と難しさについての話を伺いました。「JICAでもワークライフ・バランスを進める"スマート・ジャイカ"という取り組みをしている。特に未婚男女の長時間労働が問題視されている。ただ、なかなか休みを取りにくい」(松本さん)。

これに関連して、養老先生からは「日本人は休むのが苦手。会場にいる方で、有給休暇をすべて使っている、という方はおられますか? やはり、いらっしゃらない。まずは霞が関から休みを取ることを実践してはどうか」というお話がありました。特に「都会の人が3カ月くらい田舎で過ごし、田舎の人が3カ月くらい都会で過ごす」という養老先生の提案は、子育て世代としては、ぜひトライしてみたいと思いました。

電車も走らず、自然に満ちあふれ、のんびりと……

私は昨年の夏休み、島根県の山間の町に家族で旅行にいきました。近くにJRの駅があるものの、既に廃線が決まっています。青い空と山の緑があり、蝉の声を聴きながら歩いたり、プールで遊んだりして静かな時間を楽しみました。「こういうところで、しばらく暮らしてみたいなあ」と思いながら帰ってきました。町があっせんする空き家の家賃は1カ月、1万円弱。

例えば初年度は夏休みの間1カ月を過ごし、うまくいけば翌年は1学期間、子どもは現地の学校に通わせて、リモートワークができたらいいな、と考えたりします。会議の大半をスカイプでこなし、1日4~5時間程度の短時間仕事で1年のうち数カ月を暮らせるようになったら、私の幸福量は確実に増えると思います。こんなふうに、それぞれの人が「自分にとって幸福量が増えることは何か」、自由に発想してみるのは楽しいでしょう。

ウラ所長のお話の中で特に印象に残ったのは、野生動物との共存に関するくだりです。ブータンで農業を営む人に、野生動物による農作物の被害について尋ねると、かなりの人が被害を被っていることが分かります。

ただし、ブータンでは、野生動物と人間の利害が衝突するという発想は「もたない」とウラ所長は言います。代わりに見せてもらったのは、山の中に設置した高床の小屋に空き缶のようなものをぶら下げて叩き、動物を追い払う方法でした。休憩時間には、ブータン山中のけものみちを歩く動物たちの映像を見たのですが、サル、鹿のような動物、ヤマネコに続いて雪の中を歩く虎の姿があり、驚きました。

ブータンに何度も訪れている養老先生は「都会の真ん中に、犬が寝ていたりします」と言います。「それを車がよけていく。犬をひかないように車が通るんですから、当然、人間のことはもっとよけていく」。生き物を大事にする価値観の延長線上に、子どもを含めた人間を大事に考える価値観があるのでしょう。

お金は生み出さないが、幸せを生み出す時間

この話を聞いて私が思い出したのは、セミナーの前日、ほぼ同時刻(午後4時ごろ)に娘の友達と近くの公園で遊んでいたことです。幼児6名、小さな弟2名で、木に登ったり、ごっこ遊びをしたり、追いかけっこをしたり、にぎやかな様子を眺めていました。

もうすぐ2歳になる子が、水たまりに気づくと、笑いながら石をぼちゃんと投げ入れました。得意そうな笑顔でこちらを見る様子がなんとも言えず可愛くて、一緒にいたお母さんたちと楽しく眺めていました。その子は続いて、水たまりにばしゃばしゃと入っていきました。きれいなスニーカーが水と泥で汚れましたが本人は全く気にせず、お母さんも「あーあ、やっちゃったね」と笑っています。こんなふうに子どもやお母さんたちと過ごす時間は、お金は全く生み出さないけれど、私にとってはとても大事で幸せを生み出す時間です。

もともと経済記者だったためか、私が考える「ワークライフ・バランス」は「働くこと」が起点になることが多いです。そこでは、多少の効率化や労働時間削減を想定しつつ、基本的には「今のように働くこと」と「子育てなどの私生活」を、どう組み込んでいくのか考えます。

一方で、現状の「働く」を是としたままの「ワークライフ・バランス」は、私にとってはあまり魅力がない、というのが本音です。現状から積み上げて考える「改善型ワークライフ・バランス」ではなく、本当に欲しいライフの形に合わせて、ワークのありようを「破壊的に変革する」ことを、たまには考えてみるといいかもしれません。

ちなみにこの「破壊的な変革」に興味がある方には、『イノベーションのジレンマ』(クリステンセン著、翔泳社)をお薦めします。この本に描かれる「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」の枠組みにならった発想は参考になるでしょう。やはり、最後は「ワーク的」な発想になってしまいました。

治部れんげ
 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。14年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。東京都男女平等参画審議会委員などを務める。

[日経DUAL 2017年3月29日付記事を再構成]

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