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遺産争い、家裁の調停で合意点を探る 審判に移行も

2017/5/6

 家庭内でもめ事が起きたとき、家庭裁判所において解決を図る制度が2つあります。「調停」と「審判」です。遺産相続を巡って遺族間でもめて調停や審判に至るケースは年1万5千件にも及びます。いざというときに備え、それぞれどんな仕組みなのかを見ていきましょう。

 相続の際に遺言が残っていない場合、法定相続人みんなで話し合い遺産の分け方を決める必要があります。しかし、この遺産分割協議は容易にはまとまらず、こじれて裁判所に解決を求めざるを得なくなる例が絶えません。

 ただし通常の訴訟では、公開された法廷で肉親同士が争うこととなり、対立に拍車がかかる恐れがあります。そこで活用される制度が調停と審判です。どちらも手続きは非公開です。

 調停は、裁判所が間に入り、当事者間での話し合いによる解決を促す仕組みです。裁判官または家事調停官(弁護士歴5年以上)と、国民から選ばれた2人以上の家事調停委員で委員会を構成します。

 家裁の一室で双方から言い分を聞きながら、助言をして合意点を探ります。話し合いがまとまれば、調停調書を作ります。裁判の判決と同じ効力があります。調停は1年ほど続くことが多いようです。

 一方、審判は裁判の一種です。裁判官が、書類や証拠を基に決定(審判)を下します。話し合いの仕方に結果が左右される調停とは違い、審判では、あくまでも法律に沿った決着となります。

 元千葉家庭裁判所長で公証人の寺尾洋氏によると、「まずは調停から入り、解決しない場合に審判の手続きに移るのが通常の流れ」です。遺産分割を巡っては1年間に調停がおよそ1万3千件、審判が2千件起きています。

 調停と審判の違いを見るため、ケースを想定して考えてみましょう。

 Aさんの父は、遺言無しで亡くなり、預金3000万円が遺産となりました。法定相続人としては他に母と弟がいます。仮に法定相続割合の通りに分割するとすれば、母が2分の1(1500万円)、Aさんと弟がそれぞれ4分の1(750万円)ずつを受け取ることになります。

 ところが、弟はちょっとした不満を抱いていました。Aさんが父から生前、住宅購入資金1000万円の贈与を受けていたことに対してです。

 話し合って弟が納得すれば問題はありません。母の世話はAさんが責任を持つから、などと説得する手もあります。弟が納得できず、家裁に調停を申し立てたとしても、Aさんにとって必ずしも不利な結果になるとは限りません。調停を重ねるなかで弟が矛を収める可能性があります。

 しかし、「審判に持ち込まれた場合、結果は明白」(元広島家裁所長の北野俊光弁護士)です。民法では、このケースのように多額の生前贈与について、公平性の観点から、相続時に考慮すべきだと定められているからです。

 この特別受益の考え方に基づくと、審判で下される遺産分割は次のようになります。まず、預金額に生前贈与額を加え、合計4000万円を分割対象財産とみなします。

 これの4分の1、1000万円ずつが、兄と弟それぞれの持ち分です。ただし、Aさんの場合は、生前贈与でもらった1000万円分が対象から除かれます。このため、実際の受け取り額はゼロになります。

 審判の手続きに至れば、Aさんは確実に不利です。家裁では調停から始まるのが通常なので、Aさんとしては調停を通じて弟を説得できるかがポイントになります。

[日本経済新聞朝刊2017年4月29日付]

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