日経Gooday

一方、管理職というのは、そういう業務ではありません。要求度は高いかもしれませんが、裁量度も非常に高い。本来は、アクティブに生き生きとやれる仕事なのです。専門職、例えば医者も、どちらかというとそういうタイプの職種ですね。仕事量は多いんだけど、やりがいもあるし、自分である程度時間の自由もきく。

しかし、仕事量が度を超してしまうと、ストレスが増大してしまうと考えられます。先ほど95年以降に管理職の死亡率が高まっているという話をしましたが、その原因として、管理職への要求度、つまり仕事量が過剰になっている可能性があると考えられます。

ただし、このデータは失業者のデータを除いています。失業者の中には、病気やけがで働けない人なども大勢いらっしゃいますから、死亡率は単純に比較できないので分析からは除きました。ちなみに、失業している方の死亡リスクは労働者よりも遥かに高いことを付け加えておきます。

「健康になるべき」と押し付けてはいけない

――最近、「健康経営」という言葉が注目されていますね。企業が従業員の健康に気を配り、経営という面でも大きな成果を得ようというものです。

従業員のストレスチェックを義務化したり、働きやすいように社内の環境を整えたりする動きがありますね。企業は今、健康をテーマに積極的に労働環境を改善しようとしています。

例えば、デスクワークをあえて立って行うことで運動不足を解消しようとしたり、社内でコミュニケーションをとりやすくするために社員の座席を固定しない「フリーアドレス制」にしたり、様々な取り組みをする企業を目にします。

ここで大切なのは、健康にならなければならないという「押し付け」をしないことです。健康になることは、目的ではありません。生きがいのある仕事をしたり、家族や友人と有意義な時間を過ごしたりといった、幸せになるための一つの手段です。

――「健康になりたい」という最後の決断は、誰かに押し付けられてするのではなく、自分ですることが大切なのですね。

健康的な生活をするかしないかは、本人の自由。それをちょっとだけ後押しするような環境づくりが大切なのかなと思います

そうです。自分で決めれば、文句は言えませんからね。最近、よく耳にするようになった「ナッジ(nudge)」という考え方もそうです。直訳すると「肘などで軽く突く」という言葉ですが、これは「人の行動のクセ」に関する行動科学の成果を活用して、人が望ましい、つまり健康的な行動をするようにそっと促すような仕掛けをつくるような取り組みのことです。

基本的に、やるかやらないかは本人の自由です。ただ、それをちょっとだけ、健康的な方向に後押ししてあげるような環境をつくろうというスタンスが大切なのかなと思います。

例えば、社員食堂のおかずの配置をちょっと工夫してみる。列に並んで順番に好きなおかずをトレーに乗せていくシステムがよくありますよね。野菜を積極的に食べてほしい場合、最初にサラダや野菜の小鉢を並べると、手に取る率が高まり、野菜摂取量が増えるんです。

――企業が少し工夫をするだけで、従業員をより健康的な生活へと近づけることができるのですね。仕事をする時間は1日の多くを占めますので、企業も個人も健康意識が高まっていけばいいなと思います。このたびは、貴重なお話をありがとうございました。

【近藤尚己准教授に聞く「ストレス社会への処方箋」】

第1回「『孤立』はたばこと同じくらい体に悪い?

第2回「男性が女性より短命なのには、深いワケがあった

近藤尚己さん
社会疫学者、医師、医学博士 東京大学大学院医学系研究科准教授。東京都町田市生まれ。2000年、山梨医科大学医学部医学科を卒業。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院での客員研究員、山梨大学大学院医学工学総合研究部社会医学講座講師などを経て、2012年より現職。専門分野は、社会疫学、公衆衛生学、健康格差対策、健康に影響を与える社会的な要因の研究。

(聞き手:ライター 森脇早絵、写真 秋元忍、図版 増田真一)

[日経Gooday 2017年3月1日付記事を再構成]

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