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95年は、バブル崩壊直後の年です。90年代前半にバブル崩壊が起き,98年には山一證券や日本長期信用銀行、北海道拓殖銀行などの大手金融機関がバタバタと連続倒産し、日本経済が一気に冷え込んだ時期でした。自殺率が急上昇したのもその年です。

ここから管理職の死亡率、特に自殺死亡率が上向きに転じました。一方で、肉体労働者などのその他の職種では、死亡率の減少傾向が続いています。

なぜ、管理職の死亡率は急増したのか

――なぜ、管理職の死亡率が上昇し続けているのでしょうか。

死亡理由は様々ですから、完全に調べることはできませんが、いくつかの理由が考えられます。

1つは、全労働者数に対する管理職の割合が急減したことです。80年代から2000年にかけて、管理職の割合が8%台から3%台まで落ち込みました。つまり、半分の人数で管理業務をこなさなければなりませんから、1人あたりの仕事量が急増してしまった可能性があります。

2つ目は、非正規雇用の増加です。1990年代に入ってから非正規雇用が増え始め、さらに1999年から労働者派遣法が数回にわたって改正されたことで派遣社員が増えていき、非正規雇用の増加に拍車がかかりました。

非正規雇用が増えると、管理職はどのような影響を受けるでしょうか。日々の管理業務プラス、仕事に不慣れな非正規雇用の人たちを育成したり、一緒に仕事をしていかなければなりませんから、仕事量が大幅に増えてしまいます。

こうして管理職の仕事量が増えてしまったことがストレスを増大させ、死亡率の上昇にもつながっているのではないかと思います。もちろん、コンピューターの普及等による過度な効率化によるストレスなど、ほかの要因もあるのかもしれませんが、それが管理職にだけ強く影響することは考えにくいでしょう。

いずれにしても、今、管理職が危機的な立場に立たされているのは事実だと思います。ちなみに私たちの研究で示した「管理職」とは、中間管理職よりももっと上の経営者レベルの管理職です。従って、そういった人々は、よりストレスが高まっているのではないかと懸念しています。

――中間管理職よりも経営層の方がストレスが強いのですか?

例えば不景気によって会社が倒産するかもしれないという重圧です。死亡自殺率が急上昇した95年前後には、実際に会社が潰れた直後に自殺した零細企業の社長さんも大勢いらっしゃったのではないかと憶測しています。

管理職、特に経営層のストレスを軽減するような仕組みを整えなければ、日本経済にとっても大きな損失となります。社会のリーダーたちがどんどん死んでしまっては困りますよね。

以前、ホワイトカラー労働者に対して労働時間の規定を免除する「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度が話題になりました。労働時間を含めた働き方への裁量が上がって働きやすくなればいいのですが、逆に労働時間が長くなってしまうとさらに健康を害してしまいます。ここは気をつけなければならない点でしょう。

裁量度が高いとストレスは減る

仕事におけるストレスを考える場合、図3に示す「デマンド・コントロール・モデル(要求度-裁量度モデル)」[注2]が一つの目安になります。

これは何かというと、仕事におけるストレスは、仕事の要求度(デマンド)と裁量度(コントロール)の掛け合わせによって決まるというものです。要求度が高い仕事、つまり作業量が多かったり、ノルマが厳しかったり、ミスが許されない業務だと高ストレスになります。一方、仕事の裁量度が高い、つまり意志決定の自由度が高いとストレスは減っていきます。

それらを掛け合わせるとどうなるか。要求度が高くて裁量度が低い仕事をする人たちが最もストレスが高いということです。実際に追跡調査をしますと、そういった業務を行う人たちほど早死にしていることが分かりました[注3]

例えばどんな仕事かというと、休憩もなしに一日中パソコンでデータを打ち込むような業務です。山のような作業を休みなしにしなければいけない仕事は、非常に辛いですよね。

[注2] Karasek RA. Job demands, job decision latitude, and mental strain: implications for job redesign. Administrative Science Quarterly 1979;24:285-308.

[注3] Tsutsumi A et al. Psychosocial job characteristics and risk of mortality in a Japanese community-based working population: the Jichi Medical School Cohort Study. Soc Sci Med. 2006;63:1276-88.

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