検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

100種超すサケ料理、城下町に育つ 新潟・村上を歩く

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

サケといえば、北海道や東北を思い浮かべる人が多いと思う。だが、サケ文化の歴史と100種類を超える料理の多様性という点では新潟県村上市が日本一だろう。山形県に接する県最北の町に流れる豊かな川と寒風が育む独自の味覚。この町でサケがどう暮らしに息づいているのか。代表格の塩引き鮭の体験やサケ文化の歴史をたどりながら人々の知恵を探ってみた。

雪国に春を告げる風物詩「人形さま巡り」(3月1日~4月3日)に合わせて村上を訪ねた。80軒近い商店などにひな人形や武者人形が飾られ、観光客は城下町の風情を感じながら自由に見学できる。町家づくりの商店の軒先にサケがつるされている。サケ料理を楽しめる飲食店も多い。

「奥の細道」の道中で松尾芭蕉が泊まったとされる「井筒屋」。宿を改装して3月に開店したばかりのサケ専門店だ。塩引き鮭のお茶漬け御膳(サケ料理7品で2500円=税別)が味わえる。まずは塩引き鮭を七輪で皮目から焼く。3分ほどで香ばしい香りが漂う。裏返して焼き目が付けば食べごろ。

最初は塩引き鮭本来の味を楽しむため、コメどころ新潟でも名高い岩船米でそのままいただく。隣接する関川村の農家から特別に取り寄せているコシヒカリだ。粗塩を引き3週間ほど寒風にさらして発酵させているため塩味は強いものの塩辛くない。サケとご飯。何度も食べたことがあるが、何という相性の良さだろう。これだけで一杯平らげてしまいそうだ。

焼きたてを秘伝のだししょうゆに付けた焼き漬けや昆布巻き、頭部を甘辛く煮たかぶと煮に白子煮、1年間乾燥発酵させて熟成した身を薄く切り日本酒に浸して食べる酒びたし、そして極上のはらこの味噌漬け。ご飯を挟みながらつまんでいるうちに、本当に最初の一杯を食べてしまった。ちなみに「はらこ」とは「腹子」。つまりイクラのことだが、村上ではロシア語のイクラは日常的に使わない。

粒が大きい張りのあるはらこだけでも一杯食べてしまいそうだが、ご飯は3杯までおかわりできる。土鍋で炊いているので2杯目のご飯にはお焦げがある。ちょっとうれしい。塩引き鮭をほぐし、三つ葉と刻みのりとワサビを乗せてお茶漬けでいただく。だし汁は地元の村上茶にカツオだしがブレンドされた自家製。ぜいたくな鮭茶漬けだ。さほどおなかがすいていたわけではないが、当たり前のように3杯食べてしまった。

井筒屋を経営するサケの加工品製造・販売店の「味匠 喜っ川」の社長、吉川真嗣さん(53)は「11月以降、この地域独特の低温多湿の北西の季節風にさらすことでサケの身が発酵してイノシン酸などの必須アミノ酸が醸成されます。塩鮭や新巻鮭とは違う村上だけのうまみを、この地域だけで吹く風が生むのです」と説明する。必須アミノ酸は人間の体に欠かすことができない。吉川さんは冷蔵庫で同じようにできないか試行錯誤したことがある。しかし「ことごとく失敗した」。伝統の健康食でもあるその風味は自然の寒風でないと生まれないわけだ。

吉川さんの手ほどきを受けて、昨年11月に自分の手で作ってみた。使うのは鮮度の高いオスと天然の粗塩だけだ。メスははらこに栄養を持って行かれるため塩引きには向いていない。

塩引き鮭づくりはその姿に手を合わせることから始まる。美しい魚だ。まずエラを取り除き、次に腹を裂いて内臓を取り出す。この時、必ず腹の中心部分をつなげたまま割く「2段開き」という村上独特の包丁の入れ方をする。内臓を取り出すには不合理なのだが、城下町らしく「切腹」を嫌うのだ。他の地域とは違って首を下にして尾をつるすのも「首つりさせない」ためだ。「どちらも村上人のサケに対する敬意の表れです」と吉川さんは言う。

吉川さんの教えに従い包丁とへらを慎重に扱っていたつもりだが、内臓の位置がよくわからず、身の一部を傷つけてしまった。仕上がりの味には影響を与えない程度で済んだが申し訳ない気持ちになった。心臓を手で取り、左右にある大きな白子(精巣)を傷つけないように取り出す。胃腸や背わたもきれいに取り除く。これらの内臓も珍味として商品になる。無駄なく食べきるのが村上流だ。

尾を持ち、向きを変えたり持ち上げたりしているうちに、少し大胆に扱えるようになってくる。骨と身がしっかりした丈夫で頼もしい魚であることがよくわかる。水で腹の中まできれいに洗い流し、塩引きの作業に入る。ウロコに逆らうように粗塩をまんべんなくすり込む。ヒレや尾の部分は両手でしっかりすり込む。特に神経を使うのが目だ。目は水分を含むので傷みやすい。目をつぶすように塩を塗り込む。初めは手に生々しく感じられたサケが、触り続けているうちに、だんだんいとおしく思えてくる。

木のたるに4~5日ほど寝かせ、一度水洗いした後、3週間ほど干して水分を抜き出来上がる。真空パックした切り身が商品化されているため、塩引き鮭は通年で食べられる。

豊かなサケ文化を育んできたのが三面川(みおもてがわ)だ。源流は山形県境の朝日連峰。ブナの原生林に覆われミネラルを多く含む森の水が三面川になる。上流域からは実に2万5000年前の旧石器時代の遺跡群が1980年代に発見された。太古から食文化が豊かだったのだ。日本海に注ぐ河口付近はタブノキ林が遡上するサケを守る。この水のにおいを記憶し、サケは生まれた川に戻るのだといわれている。

母なる川への回帰の習性をいち早く発見し、三面川の一部を人工ふ化のための種川として整備したのが村上藩の下級武士、青砥武平治(あおと・ぶへいじ)だ。250年前の江戸時代中期、世界で初めてサケの増殖制度を確立させた。

村上市にある「イヨボヤ会館」では、武平治の功績を含めたサケ文化の歴史や三面川を泳ぐ姿が観察できる地下水槽も整備されている。イヨもボヤも魚という意味だ。魚の中の魚、つまりサケのことを意味する。4月12日には、市内の小学生約170人が米山隆一知事と一緒に稚魚5万匹を三面川に放流した。奥村芳人館長は「回帰率は1%に満たないが、江戸時代から続く伝統を小学生が担っている。村上はサケとともに歩み、サケに生かされ生計を立てた人も多い」と話す。秋には産卵シーンも見られるという。

村上市は戦争で空襲を免れた。村上城の城跡、武家屋敷、寺町、町家づくりの商人街の城下町4要素が残る地域だ。この街並みを再生させる取り組みが2004年から始まっている。春の「人形さま巡り」や秋の「屏風まつり」も町づくりの一環として行われている。この町づくりにサケの食文化が観光誘致の追い風になろうとしている。

この「町家再生プロジェクト」が日本ユネスコ協会連盟の「プロジェクト未来遺産2016」に選ばれた。3月31日に村上市内で行われた登録証の贈呈式では、選考委員の北海道大学観光学高等研究センター長の西山徳明教授が講演。「行政の支援を受けずに市民が中心となった町づくりは国内でも例がなく、独自性とメッセージ性が強い」と選定理由を語った。村上市の高橋邦芳市長自身、この言葉を受けるように「市民の力で町づくりが進められたところに大きな意味がある」とあいさつした。

村上には東京でも有名な「〆張鶴」をつくる宮尾酒造と大洋酒造の2つの酒蔵がある。サケは酒とも相性がいい。その日本酒を使った極上のはらこ丼を提供する店が村上駅前にある「石田屋旅館」だ。遡上する三面川にちなんだ「みおもて定食」ははらこ丼をメインにサケ料理のバリエーションが楽しめる。はらこは大洋酒造の「紫雲=しうん」という地元でよく飲まれる日本酒に漬け込み上品な甘みを引き出している。ご主人の石田智久さん(52)は「飲んでうまい酒を使うから料理もうまくなる。通年で楽しんでもらえるように、みおもて定食を考えました」と言う。

北大の西山教授は観光と食の関係についてこう語る。「どこの観光地も地元の食をPRしているが、観光客には無数の選択肢があるので観光の最終目的を食に絞るのは実はとても難しい。ただ、食の個性で他の地域と本当に差別化できればリピーターを育てるのには極めて有効だ。村上には食の力があると思う」

サケを生かしサケに生かされた村上。その姿はマンホールにまで描かれている。村上のサケ料理は100種類を超えて増え続けている。喜っ川では洋風にアレンジした生ハムやスープなど新商品を開発。サケを慈しむ料理や商品が今も誕生している。「サケのことを知らずに村上に来た人がサケ料理を食べて、次はサケを食べるために来てもらえるような町にしていきたい」と吉川さん。江戸時代から続く豊かなサケ文化の伝統は、新しい知恵を取り入れながら継承されている。

(大久保潤)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_