マンガ大賞2017に『響』 15歳の少女が文学界を震撼
マンガ好きの有志が「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」を合言葉に2008年から始まった「マンガ大賞」。今年の結果が3月に発表された。『ダンジョン飯』(九井諒子)や『ファイアパンチ』(藤本タツキ)といった話題作を抑えて大賞に輝いたのは、柳本光晴の『響~小説家になる方法~』だった。
1次審査では前年に単行本が発売された作品から1人の選考員が最大5作品に投票し、得票数上位13作品を選出。2次審査では13作品から1、2、3位を選び、合計ポイントで大賞を決める。
今年の傾向について、実行委員である、ジュンク堂池袋本店の田中香織氏は「例年は1次審査で票がばらけますが、今年は過去最高の253作品が挙がったにもかかわらず、『響』は満遍なく票が入りました」と語る。
『響』は、15歳の少女・響が新人賞に投稿した小説が文学界を震撼(しんかん)させる物語。響の小説や揺るぎない生き方によって変わってゆく周りの小説家、編集者、同級生を描いた骨太ドラマで「マンガの新たな可能性を見せてくれた」という講評もあった。
マンガ大賞の選考対象は、昨年発刊の作品のなかでも最大8巻までという。刊行サイクルが早い、週刊誌や隔週誌連載にもスポットを当てるのが狙いだ。1次審査では選考員が読んだことがなかった作品の数巻分を一気読みして「こんな面白いマンガがあったんだ!」と票を入れ、得票を伸ばすことがあるという。そこに作品の力が表れ、『ちはやふる』(09年)や『テルマエロマエ』(10年)など大賞になった作品のほぼ全てが映像化された。
手弁当で始まり、広く注目されるようになったマンガ大賞だが今、大きな変換期にあるという。
「昨年、大賞だった『ゴールデンカムイ』は、アマゾンさんの売り上げで一度も紙が電子に勝っていないんです。ついにこういう時代が来たと思って」と書店員としては複雑だと語る田中氏。
「電子の世界では縦スクロールの作品や無料の作品が増え、読む側の意識も大きく変わってきました。『失敗したくない』『人が面白いというマンガを読みたい』という意識が高まっています。マンガはSNSなどで感想を共有するコミュニケーションツールにもなっています」
現在のマンガ大賞は選考対象を紙で刊行された作品に限っているが、今後、電子書籍をどう扱うかは大きな課題になるという。配信期間や巻数で区切るのか、その場合、単話売りをどうするか。コミックの形は確実に変わりつつある。
(「日経エンタテインメント!」5月号の記事を再構成。文・山脇麻生)
[日経MJ2017年4月28日付]
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