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周囲を幸せにする 浅田真央さんの「愛され力」とは

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NIKKEI STYLE

先日、浅田真央さんのフィギュアスケート選手からの現役引退発表を受けて、お笑いコンビ・ハライチの岩井勇気さんがラジオ番組の中で「グダグダ辞めていったんだね」とコメントしたことが、ネットで大きな話題となりました。

この岩井さんの発言に対し、「三流芸人が一流選手をバカにするな」「早く謝罪してください」など、ネット上で反発する人たちがいた一方、「金メダルを取ってないのに、なぜ悲劇のヒロインとしてもてはやされるのか」「浅田真央を批判するのがタブーという空気が怖い」といった意見も出るなど、ちょっとした炎上騒ぎになったようです。

人気は国民スター級

確かに考えてみれば、浅田さんの五輪でのメダルはバンクーバー(2010年)の銀メダル一つ……。アスリートの世界には、オリンピック3連覇や4連覇を成し遂げた女子選手も存在するわけですから、成績の面だけで判断すれば、ナンバーワンの超一流選手とは言えないのかもしれません。

ですが、先述した騒ぎを含め、浅田さんはとにかく話題や注目を集める人気者。世間の注目度の高さで言えば、やはり国民的スターの域にあります。浅田さんを見ていると、必ずしも成果と評価(人気)が比例するわけではないのだなぁとつくづく感じます。

幅広い人々に浅田さんが愛される理由について、今さら私が分析するのもおこがましいのですが、あのあどけないキュートな笑顔、真摯でピュアな雰囲気、トリプルアクセルにこだわり続ける芯の強さ、これらギャップある要素の共存が好感度の高さにつながっているように感じます。

また、ソチ五輪(2014年)も劇的でした。16位と出遅れたショートプログラムから、フリープログラムでは女子ではまだ誰も成功させていない「トリプルアクセルを含む6種類の3回転ジャンプ」の構成にチャレンジし、すべて着氷させ、スタンディングオベーションの中での巻き返し。

このソチ五輪での復活劇は、浅田さんの「前進力」と「芯の強さ」、そしてトリプルアクセルにこだわり続ける「頑固さ」と「初志貫徹の精神」を集約した物語として、多くの人たちの心に響きました。私自身もこの浅田さんのフリーの演技は録画し、いまだに保存しています。

炎上騒動も含めて、浅田さんのニュースを見ていて、思い浮かんだキーワードが「愛嬌(あいきょう)」です。彼女が愛される理由の一つではと思ったのです。女性読者の多いこのコラムで「愛されるには愛嬌が大事」というと、何かと反発があるかもしれません。しかし、愛嬌の大事さは男女を問いません。

例えば、ビジネスの世界で数字上の仕事の成績はトップクラスでも、人間的な魅力に欠けるために人気や評価が低い人がいたりする一方、ナンバーワンの成績は出していなくとも、まずまず合格点の仕事ぶりと人柄の良さから人望があつく、皆から評価されている人がいたりします。

松下幸之助が最重視したのも愛嬌

「経営の神様」といわれる故・松下幸之助氏が人を評価する際、最も重要視していたのは「愛嬌があるかどうか」だったという話は有名です。

その他にもホンダの創業者である故・本田宗一郎氏をはじめ、多くの経営者たちがこの「愛嬌」を大切にしてきました。

では評価されるためにも愛嬌のある人になるにはどうすればいいのでしょうか。下手に態度に出せば「こびを売っている」として、相手や周囲の人にかえって嫌われてしまうかもしれません。

その加減は難しいのですが、国際舞台で活躍されてきた、ある企業経営者の方に教えていただいた言葉が参考になると思います。「愛嬌とこびを売ることの違いは何でしょうか?」と質問したところ「それは大きく違うよ。愛嬌は周りの人たちを幸せにする。こびを売るのは承認欲求の表れであり、周りの人たちを不快にする」との答えが返ってきたことを思い出しました。

「愛嬌」は自然と周りを幸せにするもの……。確かに、浅田さんの引退会見を例にとっても、どんな質問にも真摯にそして笑顔で答える姿や、涙を隠そうと180度ターンし、照れ笑いしながら肩をすくめる姿などは、とてもかわいらしく、愛嬌たっぷりで、その姿を見ている私たちの心は温まり、思わずほっこりしました。

もし、あの引退会見の場に、くるくる巻き髪でバッチリメイク、カメラ映りを気にしながらこびを売る浅田さんが登場していたら、皆がびっくり、いや、がっかりしてしまいます。真っ白なジャケットに、ゴムで一つにまとめたヘアスタイル、飾らない自然体のままでも美しいたたずまいだからこそ、多くの人たちが魅せられるのでしょう。

五輪銀メダリスト、世界選手権優勝3回という成果を出しつつ、さらに、人間的な魅力によって、その成果を上回る評価(人気)を得ている浅田真央という人物は、男女を問わず、ビジネスパーソンにとっても、理想的なモデルといえるのかもしれません。

鈴木ともみ
 経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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