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下がり続ける貸出金利 企業、手元資金に余裕

2017/5/8

利ざやの縮小に悩む銀行界

日本銀行が金利を低めに誘導する政策(金融緩和政策)を推進しているため、銀行が企業や個人にお金を貸すときの金利(貸出金利)が下がり続けています。国内銀行の平均値は昨年12月末で年0.998%となり、初めて1%を下回りました。貸出金利が低くなれば銀行はお金を貸しやすくなり、景気を刺激するとされていますが、貸し出しは伸び悩んでいます。

2008年のリーマン・ショック後、不測の事態に備えて手元資金を増やし、銀行からの借り入れに頼らない企業が増えているからです。一方、銀行には預金が積み上がり、お金の運用に困っている状態です。日銀による今年3月の調査では、資金繰りが「楽である」と回答した企業の割合から「苦しい」を差し引いた値は中小企業の場合で9。これはバブル経済が膨らんだ1980年代後半に匹敵する高い水準です。現在より金利が高く、不動産を担保にした貸し出しが目立ったバブル期とは経済の環境が異なりますが、多くの企業は今、バブル期並みに資金に余裕があると感じているのです。

金利が下がるなかで貸し出しが伸びなければ、銀行の利益は減ります。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の笹島勝人シニアアナリストは銀行の総資産に対する、人件費などの営業経費の割合を経費率と呼び、「貸し出しの主な原資となる預金の金利はほぼゼロなので、貸し出しによる利益は、貸出金利と経費率の差で決まる」と説明します。貸出金利が経費率より高いときは貸し出しを増やせば利益を増やせますが、信用力が低い相手に無理に貸すとお金が戻らず結局は利益が減りかねません。

バブル崩壊後、銀行は経費率を下げてきましたが、ここ数年は横ばいで、大手銀行で約0.6%です。さらに金利が下がり続けると、3年後には貸出金利と経費率がほぼ同じになると笹島氏は予測しています。あくまで平均値ですが、銀行は貸し出しでは利益を出せなくなり、経費率をさらに下げるといった対応を迫られます。慶応義塾大学の池尾和人教授は「貸出金利のこれ以上の低下は銀行の経営を揺るがし、経済の足を引っ張る」と心配しています。

■池尾慶大教授「預金過剰が銀行収益を圧迫」

銀行の貸出金利が低下している原因はどこにあり、銀行の経営を安定させるには何が必要なのか。金融論が専門の池尾和人・慶応義塾大学教授に聞いた。

慶応義塾大学の池尾和人教授

――日本の銀行の貸出金利の低下に歯止めがかかりません。

「銀行は本業であるはずの貸し出しで収益を上げにくい状況です。個々の銀行の経営努力が足りないという話ではなく、(日本銀行が金融機関から買い入れる資産の範囲や規模を拡充し、市中に出回るお金の量を増やそうとする)非伝統的な金融政策が極めて長期にわたっているためです。さらに大きな背景として、オーバーバンキング(銀行過剰)と呼ばれる問題があり、この2つの要因が重なって貸出金利が下がっています」

――現在の金融政策をどう評価しますか。

「非伝統的な金融政策は、銀行の利ざやを押しつぶす政策だといえます。伝統的な金融緩和政策は短期金利を下げる政策で、それに伴って長期金利も下がりますが、短期金利より下げ幅は小さくなります。長期金利は将来の短期金利の見通しの平均値のようなものだから、短期金利が下がっても、将来、上がるとの予測が生まれるからです。銀行の利ざやは、長短金利の差で決まるので、短期金利が下がれば利ざやが拡大し、銀行には貸し出しを増やす動機が生まれます」

「一方、非伝統的な金融政策は短期金利の低下の余地がないなかで実行され、長期金利だけが下がるので、長短金利の差がなくなっていきます。マイナス金利政策が導入されたときにその問題に焦点があたりました。マイナス金利導入で預金金利なども連動して下がるのなら、銀行の利ざやは拡大しますが、銀行の調達コストの大半を占める預金金利はマイナスにはできず、長期金利だけが下がって銀行の利ざやは小さくなりました。銀行の存立基盤が危ぶまれています。銀行は手数料収入を増やすなどで何とか生き残ろうとしていますが、限界があります。マイナス金利政策をストップするべきです」

――オーバーバンキングの解消には何が必要ですか。

「銀行の数が多すぎるという問題もありますが、もっと本質的なのは預金過剰の問題です。資金が預金に集まり過ぎるので、銀行は運用しきれません。銀行の側から見ると、預かった資金を安全に運用しなければならないニーズがある一方で、それに見合う運用の機会がないのです。仮に銀行同士が合併して数が減っても総預金が変わらなければ1行当たりの預金が増えるだけです。家計が持つ金融資産が株式などに分散していかないと、オーバーバンキングは解消しません」

――人口の高齢化が進むと預金が取り崩され、預金超過が解消するとの見方もあります。

「2020年代後半には、そうした状況もありえますが、あと5年から10年は預金過剰が続くでしょう。オーバーバンキングは1980年代から始まっています。それまでは資金不足の時代でしたが、日本経済が成熟し、資金余剰の経済構造になった80年代から、銀行は模索を始めました。大手銀行は資本市場に進出しようとしましたが、失敗に終わりました。そこで、再び貸し出しに回帰して不動産業などに貸し込み、バブル経済を生みました。やがてバブルが崩壊し、不良債権問題に苦しむようになりますが、当時から銀行はコスト削減一辺倒です。これでは銀行の金融仲介機能は劣化する一方です。銀行は利用者が預金の一部を他のリスク資産に振り向けるようなビジネスモデルに転換しなければなりません」

(編集委員 前田裕之)

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