家族の役割を「代行」 おひとりさま着目の生前契約終活見聞録(3)

2014年に会員になったAさん(73)は、15年前に夫を亡くして埼玉県の団地でひとり暮らしをしていたが、「突然息苦しくなって」病院に運ばれたのが契約のきっかけだった。友人から、りすシステムのことを聞いて、自分でも調べ、死後事務と生前事務、認知症への不安から任意後見契約も結んだ。費用は100万円を超えたという。

きずなの会では金銭管理の契約者に対して、職員が定期的に訪問、施設の料金の支払いなどをする

一方の「きずなの会」は、身元保証・生活支援・葬送支援を備えた基本プラン(入会金含む)は190万円となっている。身元保証のみや生活支援だけなら金額は100万円を切るが、基本プランで契約する人が多いという。年金や預貯金が少ない人向けには毎月1万円からの分割払いも可能だ。このほかに金銭預託手数料と年会費が合計で年2万2000円かかる。契約は弁護士法人との三者契約で、預託金は弁護士法人が管理する。

行政書士や弁護士らも生前契約を手掛けている。東京都内にある行政書士の事務所を例に挙げると、生前契約には「見守り・事務委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」などがあり、契約時にそれぞれ10万円かかる。これとは別に預貯金管理といった日常業務に毎月5000円が必要。原則として、各種の契約や財産管理といった法律行為を本人に代わって行い、その都度、費用がかかる。

契約内容やお金の流れ、よく調べて

おひとりさまでも、サークルや趣味の会、近所付き合いなどでコミュニティーに積極的に参加していれば、生前の見守りや死後の事務を周囲に頼めることもある。契約は不要で、その方が費用も安く済む可能性がある。日常の見守りを友人や行政のサービスに託し、住まいの片付けなど一部について業者と生前契約しておくのも選択肢だ。ただし、こうした様々な業務について、それぞれ代行してくれる人を探し、依頼するのは煩雑な作業。生前契約の事業者はこれらをパッケージにして提供する。100万円を超えるような金額について、高いか安いかは、こうした手間も含めた契約者の価値判断によるだろう。

契約は長期間にわたることもあるので、内容を吟味して決めたい。高齢者向け施設の情報提供や相談を手掛ける「シニアライフ情報センター」(東京・渋谷)の池田敏史子代表理事は、「自分が何をやってもらいたいのかを整理したうえで、事業者がそのサービスを持っているのか、だれが実施するのかよく調べたい。説明会に参加するときはひとりではなく、複数で行き、あとで参加者同士話し合いたい。契約書については専門家に見てもらうのがいいだろう」と話す。16年3月には02年に設立された公益財団法人「日本ライフ協会」が預託金の流用で運営が行き詰まるという事態もあった。お金の流れや運営主体の収支状況など細かい点も確認したい。

ワンポイント:任意後見契約で認知症に備え

「任意後見契約」は、認知症などで判断能力が低下した高齢者らをサポートする「成年後見制度」に基づく仕組み。同制度には、すでに判断能力がない人に対して、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」と、判断能力がある人が元気なうちに、財産管理や療養看護の事務手続きなどを代理でしてくれる後見人を決めておく「任意後見制度」がある。今は健康だが、将来認知症になったら身の回りのことやお金の管理ができなくなってしまうのでは、と不安を感じる人はこの任意後見制度を利用するとよい。

手順としてはまず、いざというときに後見人になってくれる人を探し、その人との間で契約(任意後見契約)を結ぶ。契約の中身は自由に決めることができる。自分の判断能力が低下した場合に備えて、生活や財産管理の面でしてほしいことを盛り込んでおく。契約相手を「受任者」といい、家族や親戚である必要はない。

日本公証人連合会調べ

契約を結んだ後、実際に本人が認知症になったときに、受任者などが家裁に一定の手続きを申し立てる。それが済むと任意後見契約に効力が生まれ、受任者は、後見人として本人に代わって財産管理などをできるようになる。任意後見契約に関しては、公証人に公正証書を作成してもらう必要があるので、手数料や印紙代などがかかる。日本公証人連合会の調べでは、契約の締結は年々増えており、この10年間でほぼ倍増。16年には1万559件となった。

(文 土井誠司)

[日経回廊の記事を再構成]

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