円高進行 トランプ氏と市場の誤解(武者陵司)武者リサーチ代表

「市場関係者はトランプ氏のドル高けん制発言に振り回されているが、ファンダメンタルズからはさらなる円高要因は見当たらない」

不都合なことではあるが、株式市場のみならず日本経済にとって、為替は決定的に重要である。日本をデフレに陥れた最大の原因は、アベノミクス以前の民主党政権時代に急速に進んだ円高であった。

そして今、日本経済がデフレから脱して回復軌道に乗るかどうかは円高が止まるかどうかという点にかかっている。トランプ米大統領はたびたびドル高をけん制する発言をして、市場関係者は振り回されているが、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の面ではさらなる円高要因は見当たらない。円高進行には限界があり、日本株には追い風となろう。

北朝鮮情勢が落ち着きを見せたり、フランスの大統領選を波乱なく乗り切れたりすれば、市場の関心はファンダメンタルズに向くだろう。成長率が高く利上げトレンドにある米国経済が、デフレ危機にさいなまれ、長期金利をゼロに固定するという究極の金融緩和を余儀なくされている日本経済より強いのは明白である。

トランプラリー巻き戻しの過程で、米国長期金利はピークの2.68%から2.1%まで低下した。その結果、日米金利差は縮小し、ドル安・円高を一時的にもたらした。しかし、米国のファンダメンタルズから考えて、これ以上の長期金利の低下は考えにくい。とすれば、日米金利差はここから再び拡大していくだろう。米国長期金利の急低下は、3月以降の米国景気指標が軟化していることなどに起因するが、エコノミストの間では景気が転換したとの見方は少なく、早晩立ち直っていくだろう。

貿易バランスは為替では調整できない

では、なぜ市場関係者は円高を恐れているかといえば、それはトランプ氏のドル高けん制に対する警戒があるからだ。トランプ氏は4月12日、米紙のインタビューで「ドルは高すぎる」と発言し、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも米国は通貨安競争をけん制した。しかし、トランプ政権のドル安志向は非合理であるとともに米国の国益にも全く合致していないので、早晩修正せざるを得ないと筆者はみている。

確かに日本は対米では中国に次ぐ貿易黒字を計上しているので、トランプ政権がこれを問題視にすることを一概に不当だとはねつけることはできない。しかし、貿易バランスは為替では調整できないのは経済学の常識である。そもそも、米国の対外赤字は国内要因(投資が貯蓄を上回っている)が原因であり、他国に責任を転嫁できるようなものではない。トランプ氏は米フォード・モーター社などの入れ知恵でドル高けん制を言わされているのかもしれないが、ピエロ役を演じさせられたことにいずれ気が付くだろう。ムニューシン財務長官が主張しているように、強いドルが米国の国益であることはいよいよはっきりしているのである。

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