義足開発、めざすは「メガネ」 障害の意識なくしたい為末大さんと遠藤謙さんの対談から(下)

為末 遠藤とは、「20年までは競技用義足に注力しよう」という話をしている。将来は(日常生活のための)超ハイエンドのロボット義足を開発する。1台の価格が300万~1000万円ぐらいで、(一般の障害者が)歩いていて何の違和感もないようにできるかもしれない。

ランニングスタジアムの開業式典であいさつする為末大氏(2016年12月)

――障害者を取り巻く日本の社会はどう変わっていくでしょうか。

遠藤 今、障害者と呼ばれている人たちが障害者と呼ばれなくなる社会になっていくと思う。障害者、高齢者、子供といったことを意識せずに共生できる社会があって、その下地としてテクノロジーがある。今は目立つテクノロジーが多いが、テクノロジー(の存在)が当たり前になって、社会になじんでいくようになったらいいと思う。

為末 競技用義足を開発するプロジェクトは分野横断的になってきている。スポーツの世界にテクノロジーが入ってくれば、もっと発展する可能性があるし、反対にスポーツの側が(エンジニアに)協力できることもあるかもしれない。社会全体でみても「自分たちのドメイン(分野)は何か」から考えるのではなく、「(目指すのは)こういう社会ですよね」という合意形成がされていれば、異なる分野の人たちが分野を飛び越えて、もっと多くのことができるようになる。

社会全体が大きなコンセプトを持ち、その実現に向かっていけそうだと、人々のマインドセット(意識)が変わることが大事だと思う。それが東京五輪・パラリンピックの流れのなかで始まっていく。

――障害者スポーツの課題は何ですか。

為末 東京パラリンピックが注目されても、それを受け止める(競技団体などの)側にリソースがない。事務員はせいぜい1人、しかもフルタイム勤務ではない。それが、もどかしい。企業が資金的な支援をしようと思っても、大丈夫なのかと思われてしまう。

選手には、バブルが起きている。本当に(実力があって)スターになれる人はそれほど多くないはず。(今でこそ企業などから多くの支援を受けていても)いずれバブルは終わる。「東京パラリンピックの後も現役を続けるつもりなら、社会の中で地に足をつけて競技できるようにすべきだ」という話を選手にしている。

一方で選手たちの「楽観性」には明るい未来を感じる。足を失ったことについて話す選手はいない。これから何ができるようになるのか、という話ばかりだ。それがスポーツの持つ力だ。多くの選手は「できないと思っていたことが、できた」と希望を持って、将来に向かって踏み出している。

為末大
2002年法大経卒、大阪ガス入社、03年にプロに転向。01、05年に陸上世界選手権男子400メートル障害で銅メダル。五輪はシドニー、アテネ、北京の3大会に連続出場。12年に現役引退。著書に「走りながら考える」(ダイヤモンド社)、「決断という技術」(共著、日本経済新聞出版社)などがある。
遠藤謙
米マサチューセッツ工科大(MIT)で人間の身体能力の解析や日常生活の足の動きを機械的に補完するロボット義足の研究に携わり、博士号を取得。2012年にソニーコンピュータサイエンス研究所に入社。14年に競技用義足などの開発を手掛けるサイボーグ(東京・渋谷)を設立し、代表取締役に就任。

日経からのお知らせ 日本経済新聞社は6月1日、2020年東京五輪・パラリンピックと日本経済の発展を考える「日経2020フォーラム」の第1回講演会を日経ホール(東京・大手町)で開催しました。パナソニックの長栄周作会長、元五輪陸上選手の為末大氏が講演したほか、三井不動産の小野沢康夫取締役専務執行役員らによるパネル討論も実施しました。当日の模様は、日経が運営する映像コンテンツサイト「日経チャンネル」で配信しています。

今こそ始める学び特集
今こそ始める学び特集