義足開発、めざすは「メガネ」 障害の意識なくしたい為末大さんと遠藤謙さんの対談から(下)

2017/5/13

2020フォーラム

義足の人も車いすの人も健常者とともにランニングを楽しめる場を目指している(東京都江東区の新豊洲ブリリアランニングスタジアム)
義足の人も車いすの人も健常者とともにランニングを楽しめる場を目指している(東京都江東区の新豊洲ブリリアランニングスタジアム)

東京パラリンピックに向けて義足ランナーを支援する元五輪陸上選手の為末大氏と義足開発ベンチャー、サイボーグ(東京・渋谷)の遠藤謙社長。2人の活動拠点が、昨年12月に開業したトレーニング施設「新豊洲ブリリアランニングスタジアム」(東京・江東)だ。そこではランナーとエンジニアが一緒になって義足の開発に取り組み、健常者と障害者がともにランニングを楽しむ。スタジアムの狙いなどを2人に聞いた。(聞き手は運動部 摂待卓)

――新豊洲ブリリアランニングスタジアムにはガラス張りのラボラトリー(研究所)があって、義足を開発するエンジニアがランナーの隣で活動しています。どのような効果を期待していますか。

ガラス張りのラボラトリーで競技用義足の開発に取り組む遠藤氏

遠藤 これまでスポーツとテクノロジーは接点がないと感じていた。まず互いに会話ができない。これは技術者とアスリートの両方に責任がある。今までは会話できる場所もなかったが、実際に出会ってみると、互いにメリットを感じるケースがあり得る。そういう場面を演出するため、ガラス張りで互いが見えやすいようになっている。

スタジアムには60メートルのトラックとラボラトリーが併設されており、ものをつくって試すサイクルを非常に回しやすい。トラックで撮影した(走っている選手の)映像をラボで見ながらミーティングを開くこともある。これから(アスリートとエンジニアの交流が)どんどん増えていったらいいと思う。

パラリンピックは用具を使うので、テクノロジーが関与できる余地がたくさんある。パラリンピックは障害者に対する世の中の考え方を変える大きな通過点になると同時に、人間の身体に近いテクノロジーを生み出す大きなトリガー(引き金)にもなり得る。日常的に使えるものをどんどん発信できるテクノロジーの場になったらいいなという思いがある。

――為末さんはスタジアムの館長に就任しました。どんな経緯があったのですか。

為末 (土地を所有している)東京ガス用地開発(東京・港)から新豊洲について「地域のブランディングをしたい」という相談があったのがスタートだった。この地域の「未来の風景」について議論し、障害者、高齢者、子供が交じり合っている自然な風景を考えた。障害の有無は関係なく、当たり前のように混在しているのが本来の姿だ。皆がスポーツを楽しむ。選手がトレーニングをして、すぐ横にエンジニアがいて、選手の感覚を(義足などの開発に)フィードバックする。こんなふうに、いろいろなものがシームレスにつながっている世界があったらいいねという議論から始めた。