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島根恵さん 練習曲をめでるバイオリニスト

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バイオリニストの島根恵さんが18~19世紀の練習曲をCD録音し続けている。クロイツェルやドントら当時の名バイオリニストが作曲した、演奏技術を身に付けるための練習曲だ。教育用の曲の魅力を発見し、聴いて楽しい芸術に高める取り組みを実演を交え語る。

ロード、カイザー、クロイツェル、ドント。あまり馴染みのない名前かもしれない。だがバイオリンを習う人には、練習曲、教則本を書いた演奏家にして作曲家、そして教師として知られている。4人の中でも特にフランスのロドルフ・クロイツェル(1766~1831年)は、ベートーベンが「バイオリンソナタ第9番《クロイツェル》」を献呈した著名バイオリニストだ。のちのロシアの文豪トルストイにも、人物とは関係ない内容ながら「クロイツェル・ソナタ」という小説があるため、一般にも有名だ。島根さんはこの4人の練習曲のCDを2009~16年にかけて順番に出してきた。

聴き手を楽しませる練習曲

「エチュード(練習曲)には優れたバイオリニストが後進にこう弾いてほしい、こう弾けばヴィルトゥオーゾ(超絶技巧の名演奏家)の資質を導き出せるという思いが詰まっている」と島根さんは練習曲のレコーディングを始めた理由を語る。練習曲は演奏技術を磨くのが第一の目的ではあるので、「課題を克服するために同じパターンを繰り返す曲が多い」。しかしそのパターンを習得しながら「音楽的に人を楽しませる域にまで達すれば、曲の魅力がいよいよ出てくる」と主張する。

練習曲の魅力に確信を持ったのは、息子のチェリスト、島根朋史さんが留学したパリ7区立エリック・サティ音楽院を訪ねた時だ。「息子の留学先で、先生たちがどう教えているかを見学したが、レッスンでの練習曲の手本は、それが練習のための曲だとは思えないほどうまくて、美しかった」。教則本の域を越えた芸術品としての演奏が音楽学校の教室でも普通に行われている。「欧州では練習曲も音楽的に弾くのが当たり前」だと知り、練習曲のレコーディングに自信を深めた。

練習曲といっても、例えばピアノ曲ではショパンやドビュッシーのエチュードなどは最初から演奏会用の芸術音楽として扱われている。バイオリン用の練習曲は奇想曲(カプリス)と呼ばれるものも多いが、クロイツェルらとほぼ同時代のイタリアのバイオリニスト兼作曲家ニコロ・パガニーニ(1782~1840年)の独奏曲「24のカプリス 作品1」は、むしろ超絶技巧の難曲の最たるものとして、演奏会で特別の地位を占めている。

だいたいの線の楽譜に表情を付ける

これに対し、ロード、カイザー、クロイツェル、ドントの練習曲は、比較的初歩から高度の技術までを網羅している。このため学習者が楽譜に忠実にミスなく弾ければそれで良しという風潮も教育現場にはあったのではないか。「きれいに弾くだけではつまらない。間違えずに弾けたというだけでは芸術にならないのは言うまでもない」と島根さんは話す。

しかも楽譜の音符をなぞっただけでは音楽にならないという面も18~19世紀の作品にはまだある。「当時のバイオリニスト兼作曲家の多くは楽譜にすべてを書き込んだわけではない」からだ。「だいたいの線を楽譜で書いておいて、あとは演奏会のたびに自らの即興技術で装飾を加え、表情を付けていく」ことが通例だったという。もちろんベートーベンやブラームスらは強弱や演奏表現の指示を楽譜に細かく書き込んだ。19世紀末のマーラーの作品に至ると、楽譜の詳細な指示に忠実に演奏すれば、長大で難解そうな交響曲も形になるといわれる。だがそうでない作曲家も19世紀初めにはまだいた。バイオリニストの三浦文彰氏は2016年9月の「ビジュアル音楽堂」のインタビューでシューベルトについて「(音符や指示が少なくて)譜面がけっこう真っ白なのがある。フレーズをどう作ればいいか考えさせられる」と話していた。

教則本を芸術品に変える演奏

バイオリン学習者の間で「ローデ」とも呼ばれるピエール・ロード(1774~1830年)は、フランス皇帝となったナポレオンの宮廷バイオリニストとして、多忙な演奏活動を続けたという。「宮廷など公の場で毎日弾いて聴かせなければいけないから、作曲する時間も乏しい。そこで、だいたいの線で書いておいた曲を、演奏会のたびに様々な装飾を施し、表現を変えて、別の曲のように披露し、人々を楽しませる必要があった」と島根さんは「指示の乏しい楽譜」について説明する。ロードはベートーベンの「バイオリンソナタ第10番」を初演したことでも知られる。ロードやクロイツェルら歴史的バイオリニストが置かれていた当時の環境を知れば、彼らが書いた練習曲を音符をなぞるだけの演奏で終わらせてしまってはもったいないことが分かってくる。

島根さんが彼らの練習曲を弾くポイントとして挙げるのは「古典の法則を守りつつ、表情を語るようにつけること」だ。本稿の映像では、ドイツのハインリヒ・エルンスト・カイザー(1815~88年)が作曲した「36の練習曲 作品20 第3番ヘ長調」を例にして、島根さんがわざと何の表情付けもないパターンと、ビブラートを効かせて存分に歌い上げるパターンで弾き比べている。同じ音符の曲でもこうも変わるのかというくらいに、教則本が芸術品に変わる様子を捉えている。

映像ではオーストリアのヤコブ・ドント(1815~88年)の「24のエチュードとカプリス 作品35」から最後の「第24番」と最初の「第1番」を弾いている。「第1番」はすべて和音で演奏する曲。「常に複数の弦を指で押さえなければならないので、ポジションを指に覚えこませて形状記憶合金のように次々と弾く難しさがある」。重音を鳴らす訓練を、人に聴かせて楽しませるのは容易ではない。100分の1ミリもポジションがずれずに完璧に弾けたとしても、同じリズムで和音が続く曲調では演奏効果も上がりにくそうだ。ドントは1曲目から至難の技だ。これに対し、最後の「第24番」は、これまで磨いてきた技術を生かして、愛情を込めて思う存分歌い上げるという曲。一筋縄ではいかない練習曲集だ。

現代音楽のように新鮮なクロイツェル

2016年に出した「ドント:24のエチュードとカプリス 作品35」(発売元:コジマ録音)をはじめ、島根さんのCDのブックレットには、練習曲ごとに彼女自身による「ワンポイント・アドバイス」を載せている。それは自らに課した演奏の注意事項でもある。2015年リリースの「クロイツェル:ヴァイオリンのための42の練習曲」(同)では、曲集全体にほとんど強弱記号が付いていないので、自由に強弱を付けて演奏しようと前置きしている。クロイツェルの「第1番イ短調」はとても緩やかな曲調だ。島根さんはそのロングトーンに非常に細やかな強弱を付けている。宙を舞う一本の研ぎ澄まされた線が響きとして描かれ、現代音楽のような新鮮さを出している。

島根さんは王子ホール(東京・銀座)で4月16日、一時帰国した息子の朋史氏、ピアニストの日下知奈さんとの共演によるリサイタルを開いた。そこで演目に取り上げたのはベートーベンの「バイオリンソナタ第9番」を含むクロイツェルにちなむ楽曲。クロイツェル作曲「バイオリンとチェロのためのソナタ変ロ長調作品16の3」は母子共演だったが、「息子が塗り絵のように音を加えた」と話す。クロイツェルが敷いた「だいたいの線」に色彩を加えて魅力を出したわけだ。こうした編曲にまでいかなくても、一見そっけない音符の羅列に演奏上の様々な表情を加えて、作品の魅力を高める工夫は不可欠だ。そのことを島根さんの練習曲の演奏は教えてくれる。練習曲をめでるバイオリニストが音楽の魅力を発見していく。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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