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定年楽園への扉

老後資金 「お金を働かせる」前に「自分で働く」 経済コラムニスト 大江英樹

2017/5/4

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 金融機関が主催する資産運用セミナーなどで、評論家やファイナンシャルプランナー(FP)の人たちがよく口にするのが「これからはお金を働かせましょう」というフレーズです。特に退職者や高齢者に対しては、「年金だけでは不安だし、預金だって利息はわずか。これからは投資を通じてお金にもっと働いてもらいましょう」というのが決めぜりふです。一見もっともらしく聞こえるこのフレーズに、私は以前から違和感を持っています。

 そもそも「お金を働かせましょう」というのは、投資をしましょうということに他なりません。もちろん投資するのは意味があることです。しかしながら、投資を始めればそれだけで簡単にお金が「働いて」利益を上げてくれるほど甘いものではありません。

■お金は勝手に働くわけではない

 お金は勝手に働いてくれるわけではないのです。あくまでも投資家が自ら判断しなければなりません。自分自身で投資する対象の中身をよく調べ、自分のリスク許容度をしっかりと把握したうえで、投下する金額を決定しなければなりません。投資はちゃんと収益を上げることもあれば、逆にお金を減らすことだってあります。投資をするということはお金に働いてもらうのではなく、自分で考えて動くということなのです。

 これは自らの投資判断による株式投資のみならず、金融機関に運用を委ねる投資信託でも同じことです。運用成績が株価指数に連動するインデックス型の場合なら、相場の先行きについて自分なりの判断を持つ必要があります。ファンドマネジャーが運用するアクティブ型の場合は運用者の投資哲学や運用体制、手数料などのコストも総合的に考えて投資すべきです。損をしたからといって誰かが補償してくれるわけではないからです。

 中には、積み立てで長期に投資すれば損をすることはないという人もいます。でも、積み立て投資は20年、30年という極めて長い期間にわたって、日本だけではなくグローバルに分散投資をしてこそ効果が最大限発揮できるものなのです。従って、若い人に適しているといえます。

 65歳や70歳のシニアにはそんな長期投資は事実上、できないでしょう。よく「年平均3%複利で運用すれば、こんなに増える」といいますが、投資というのは10%もうかる年もあれば10%損する年もあります。複利効果というのは毎年決まった金利が付く場合にその利息が元本に加えられ、新たに増えた元本で運用することによって生み出されるものです。年平均3%といっても過去のリターンの成果を年平均に引き直してみればという話です。

 あくまで過去のリターンなので、将来もそうなるということではありません。必ずもうかる投資はないのです。仮に年平均3%が実現できたとしても長い期間、辛抱強く投資しなければならないわけです。シニアはこうした現実を知っておくべきだと思います。

■投資には準備と覚悟が必要

 もちろん、投資するのはいいことですが、それなりの準備と覚悟をもってやらないといけません。勝手にお金が働いてくれるというわけではありません。安易な姿勢で投資に臨むと痛い目に遭いかねないといいたいのです。

 先日もテレビの番組を見ていたら、60歳代後半の男性が「投資をやったことはないけど、将来が不安だから投資を始めよう」「何か良い商品はありませんか」と金融機関に聞いている場面がありました。おそらく投資に失敗するのはこんな人です。それは恐らく「お金に働いてもらいましょう」という、どこか他人任せの感じがするフレーズの影響ではないかという気がします。

 私は常々、老後は「お金を働かせる前に自分で働くべきだ」といっています。「自分で働くべきだ」には2つの意味があります。一つは定年後の投資は他人任せにせず、自ら汗を流して勉強したうえで行うべきだということです。

 もう一つは文字通り、労働すべきだということです。投資はもうけもすれば損もします。投資という、ある意味不確実なものに老後資金づくりを頼り切るのは危険です。元気に働けるのであれば会社をリタイアした後も働き、収入を得た方が心身ともに健康で豊かな人生を送れるでしょう。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は5月18日付の予定です。
大江英樹
 野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/

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