そしてもう1つ、重点が置かれているのが人工知能(AI)である。シャープは以前より、スマホにAIを取り入れ、親しみのあるアシスタントシステム「エモパー」を搭載しており、現在も60万人がエモパーを利用しているという。
そして今回のAQUOS Rでは、エモパーの活用シーンをさらに広げるべく、専用の充電台「ロボクル」を提供するとのこと。これは単なる充電台ではなく、AQUOS Rをセットするとインカメラで利用者を探して振り向き、さまざまな通知をしてくれるというもの。「ハロー、エモパー」と呼びかけることでも振り向いてくれるので、エモパーとの対話を楽しむことも可能なことから、よりエモパーをロボット的に活用できるようになったといえるだろう。
AQUOS Rは、シャープが持つさまざまな技術によって使い勝手の良さが大きく高められている。購入者の満足度は高いだろうと筆者は感じている。シャープはAQUOS Rの販売台数目標を100万台と設定。かなりの自信を見せる。
今後はSIMフリー市場向け戦略に注目
シャープにとって大手キャリアは重要な販路であり、長年の取引で信頼関係も構築している。にもかかわらず、シャープがキャリアに依存した戦略から自立を図ろうとしているのはなぜなのだろうか。
最近の市場環境の変化が大きく影響しているのだろうと筆者は見る。総務省はここ数年、MVNOの競争力を高めて料金競争を加速させるべく、従来のキャリアの商習慣を大きく変える措置を次々と打ち出した。特に、16年4月に「スマホの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を出してスマホの「実質0円」販売が事実上禁止されたことから、より安価な料金を求めて“格安”なMVNOなどのサービスにユーザーが流出する傾向は、日増しに強まっている。
少子高齢化で携帯電話契約数の大きな伸びが期待できない一方、総務省の施策によりユーザーの流出が進んでいる。そうしたことから大手キャリアだけを相手にしたビジネスだけでは、いずれ行き詰まると判断。キャリア向けのビジネスは継続して重視していくものの、そこに依存するのではなく、自らのブランドを明確に打ち出して新たな販売の方向性を模索していきたいというのが、AQUOS Rで戦略を変化させた大きな狙いといえそうだ。
それだけに今後シャープに期待されるのは、スマホの販路をどのようにして拡大していくかだ。ロボホンのように全く新しいデバイスを提供するというのも1つの方向性として考えられるだろうが、より現実的な所でいえば、SIMフリースマホ市場に向けた取り組みが注目されるだろう。
シャープは既に、5インチディスプレーを搭載したスマホ「AQUOS SH-M04」や、フィーチャーフォンの「AQUOS ケータイ SH-N01」などをSIMフリー市場向けに提供している。だが「arrows M03」で多くのMVNOへの販路と安定した人気を獲得している富士通コネクテッドテクノロジーズと比べると、SIMフリー市場に向けた踏み込みがいまひとつ弱いのも事実だ。
それだけに、AQUOS Rで明確な方針転換を図ったシャープが、17年にSIMフリー市場に力を入れて製品投入を進めてくるのかどうかは、大いに気になるところ。“一皮むけた”シャープのスマホ戦略が、がぜん楽しみになってきた。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。