ゴマ9000粒、抹茶2倍 「限界挑戦アイス」が続々
1人あたりのアイスクリーム購入金額は2014年から3年連続で増加(日本アイスクリーム協会調べ)。市場規模がさらに拡大しそうな夏を前に、"アイスクリームの限界"に挑戦した新製品が続々と発売されている。
食マーケティング専門会社favy(東京都新宿区)と創業131年のゴマメーカー九鬼産業(三重県四日市市)は共同で、"世界一の濃厚さ"を目指したゴマアイスを開発。2017年3月12日に表参道にオープンしたゴマアイス専門店「GOMAYA KUKI」は、初日に1時間半待ちの行列ができ、その後も行列が途絶えないという盛況だ。
1860年(万延元年)創業の宇治茶専門店「祇園辻利」(京都市)は、約30年間販売してきた人気の「抹茶アイスクリーム」を大幅リニューアル。抹茶量の限界に挑戦し、従来品より2.1倍(100mlあたり)に増量した新製品「抹茶アイスクリーム(カップタイプ)」を2017年3月14日に発売した。
逆にマイナスの限界に挑戦したのが明治。2017年3月27日発売のヨーグルト入りアイス「明治 デザートプラス more(モア)」シリーズは、脂肪ゼロ(食品表示基準に基づいて、脂質0.5g未満/100g)で、従来のアイスならではのなめらかさやコクを実現したという。
"限界への挑戦"は、味にどのように反映されているのか。実際に味わってみた。
ゴマが多すぎると、単なる"練りゴマ味"に
「ゴマ油市場は今後、飛躍的に伸びていく見込みはなく、三大専業メーカー(かどや製油、九鬼産業、竹本油脂)が価格競争をしている厳しい状況。新しい販売チャネルの開拓のため、ゴマを使ったインパクトの強い商品を模索していた」(九鬼産業の担当者)。当初はゴマ油を使ったかき氷や、ゴマ油だけで揚げたトンカツなどの案も出たが、「消費者の心をつかむにはストロングポイントが必要」との判断で、世界一濃いゴマアイスを目指すことにしたという。
開発を進めるうえで大きな課題として浮かび上がったのが、単にゴマの配合量を多くするだけだと、練りゴマそのものを食べているのに近い感覚になってしまうこと。アイスとしてのおいしさを維持するために、ゴマの濃さの基準をどこに置くべきか悩んだそうだ。
また、ゴマが多すぎると油分が固まってしまい、かくはんしにくくなるのも難しい点だったという。添加物を使ってなめらかさをアップさせれば簡単に解決するが、無添加で作りたかったので苦労したそうだ。多くの練りゴマの中からより香りが高いもの、なめらかなものを選び配合することで、解決したという。
試作品ができると、20代のアイスやカフェ好きの女性たちを対象に何度も試食会を開き、意見を聞いた。社内では「甘すぎる」という声の多かったアイスが、試食会では「甘さが足りない」と評価されたこともあった。「我々のイメージより、はるかに甘いアイスが好まれることを知り、驚いた」(同)という。
最も濃い黒ゴマアイス「くろ 超特濃」、白ゴマアイス「しろ 超特濃」をまず試食した。驚いたのは、黒ゴマと白ゴマでは風味がまるっきり違うこと。くろは生チョコレートのようなかすかな渋みとコク、濃密さとなめらかさがある。それと比べると、しろはゴマそのもの。というより、本物のゴマよりゴマっぽい味だった。
特濃はゴマと同時にミルクの風味も濃厚に感じられ、相性の良さをより実感できた。超特濃より特濃のほうが好みという人もいるかもしれない。意外においしかったのが、「ごま塩」。ほのかな塩味で濃厚なのにさっぱりと食べられ、塩のうまみが後を引く。スタッフによると、「超特濃を食べたあとの来店でごま塩を注文し、リピートする人も多い」とのこと。
店内のキッチンが1.5坪しかないことから、アイスは別の場所にある工場で生産している。ストックスペースもそれほど広くないので、当初は1日40~60kgのロットでの製造を想定していたが、オープン初日にわずか5時間で完売。土日のピークには1日に400kg作っても売り切れることがあり、平日でも当初の予定の3倍以上の量を作っている。人気の高さから、さまざまな企業からの引き合いが殺到しているそうだ。九鬼産業でも「予想をはるかに超えたヒットに社内も活気づいている。アイスから発想を得た新商品の開発も視野に入れている」とのこと。
抹茶を際立たせるために原材料を一から見直し
祇園辻利は30年ほど前から"抹茶としてたてて飲める高品質の抹茶"を使用した「抹茶アイスクリーム」を販売している。今回のリニューアルは、数多くの抹茶アイスがある今だからこそ、宇治茶専門店にしか作れないアイスクリームを追求しなければと考えたからだという。「10人中8人が有名ブランドの抹茶アイスを選んでも、残りの2人の抹茶好きのユーザーが熱烈に支持するような"とがった商品"を目指した」(祇園辻利の担当者)。
だが従来品もほかの高級抹茶アイスクリームと比較して十分に濃く、これ以上増やすと抹茶の特性上、粘度が高くなりすぎるため製造が難しいと考えられていた。そこで従来のレシピを全て捨て、"どうしたら抹茶が主役になれるか"という視点で原材料すべてを見直したという。
まず粘度を下げるため、乳製品はこれまでの練乳やバターから、さらりとした牛乳に変更。風味が控えめな牛乳は、本来の目的である「より抹茶の風味を際立たせる」という点でも適していた。さらに抹茶の風味を生かすため、砂糖はシャープな甘みの氷砂糖に替えた。こうした再検討の結果、最終的な抹茶の配合量は、従来商品と比べて100mlあたり2.1倍となった。
その「抹茶アイスクリーム」を食べてみた。一般的に抹茶量の多いアイスは、渋みとのバランスで甘みを強くしているためしつこく感じることがあるが、これはさっぱりした甘み。抹茶特有の清涼感と、抹茶そのものが持つ爽やかな甘みも強く感じた。購入者からは「抹茶を食べているよう」という感想が多かったそうだが、同感だ。
"無脂肪でもアイスっぽい"秘密はヨーグルト
アイスクリームが高級化しておいしくなると、気になるのはカロリー。明治が健康に対する意識が高い40~60歳代の男女にインタビューを実施した結果、「おいしくて、気兼ねなく食べられるアイスが欲しい」というニーズが多いことが分かったという。
カロリーの高い乳脂肪を除いてもアイス特有のおいしさを感じさせるために着目したのは、同社がシェアトップのヨーグルトだった。「当社独自のアイス専用ヨーグルトを混ぜ込むことで、乳脂肪分と同じような粘度とコク、なめらかさを加えることができた。どのヨーグルトでもできるわけではなく、アイス専用に厳選した乳酸菌で作ったヨーグルトに秘密がある」(同シリーズを開発した明治加工食品開発部フローズンデザート開発Gの長野萌氏)。カロリーは一般的なアイスクリームの半分程度だという。
「明治 デザートプラス more (モア) ストロベリー」を食べてみた。フローズンヨーグルトのようなものをイメージしていたが、普通のアイスと全く変わらない口どけのなめらかさに驚いた。味はたしかにさっぱりしたヨーグルト風味だが、アイス特有のコクも強く感じられる。「果汁ではなく果肉を使ったこともポイント」(長野氏)というが、たしかにイチゴの果肉による高級感も"本物のアイスっぽさ"を感じる大きな要因。イチゴが入っていない「ホワイト」もなめらかでコクがあるが、ヨーグルト風味はより強く感じる。
ターゲットは40~50代以上の男女や、健康が気になりアイスを我慢している層。ヨーグルトも"腸活ブーム"で人気の食材であり、同商品はいわば「アイス」「ウェルネス」「ヨーグルト」と市場が拡大している3つの要素を掛け合わせた商品といえそう。だがあえてパッケージの表(おもて)面には「乳酸菌」の文字は入れていない。ヘルシー感を強く出し過ぎると「おいしさを犠牲にしている」イメージになるからだ。販売店からは「(日本で初めてプレーンヨーグルトを発売し広めた)明治らしいアイス」と好評だという。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2017年4月13日付の記事を再構成]
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