NISAは投資しにくい iDeCoは大丈夫か(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

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澤上篤人氏(撮影:大沼正彦)

澤上篤人(以下、澤):個人や家計の貯蓄を投資に向かわせようと、国は次々と新しい施策を打ち出している。まず、2014年に少額の投資に限って株式などの運用益を非課税とするNISA(少額投資非課税制度)を導入した。ある程度の市民権を得たのを見て、20歳未満の利用者を対象とするジュニアNISA、そして2018年導入の積立NISAへと制度を拡充してきた。さらに、今年からは個人型DC(確定拠出年金)「iDeCo」の加入対象者が拡大した。

これらの制度的な説明は他に譲るとして、今回は国の投資普及政策の限界と問題点を、草刈と話し合ってみよう。

中途半端で使い勝手が悪い

澤:NISAは英国のISA(個人貯蓄口座)をモデルにして制定されたもの。だが、NISAは現在のISAではなくわざわざ英国が苦心さんたんしていた頃の制度をまねた。それが5年間だけの制度で、最長10年間の適用といった中途半端なものにしてしまった。

草刈貴弘(以下、草):そうなんですね。成功しているモデルではなく、成功する前のモデルを導入するとは……。何か思うところがあったのでしょうか。

澤:5年間だけの制度ということにしたので、非課税の部分だけが脚光を浴びることになった。当初は長期の資産形成をサポートするという金看板だったものが、その側面は完全に捨て去られてしまった。本末転倒もいいところだ。

草:5年で資産形成するのはかなり難しいわけです。せっかくの制度も期限が区切られてしまえばメリットは限られてしまいます。5年後には売却するようになってしまいますから。

澤:当然のことながら、投資慣れした個人の中高年層が主な利用者になっている。たとえ、年間120万円までの投資とはいえ、売却益への課税が免除されるのなら活用しない手はない。そういって短期の利益を求める個人投資家が群がったわけだ。

これでは、本来の趣旨である個人の長期投資を促進させるのと逆の展開となるだけである。実際、20~40代の利用状況は全体の30%以下にとどまっている。

草:導入時はあれだけキャンペーンがされていましたが、今ではだいぶん落ち着いてしまっています。多くの金融機関では、NISA口座が開かれたが利用もされていないという声も聞きますから、思っていたようにはならなかったと言えるでしょう。

澤:その後、ジュニアNISAとか積立NISAが出てきた。制度そのものが複雑で使い勝手の悪いこと、この上ない。税の優遇を与えるために制度の運営を厳格にするという観点ばかりを強調したあまり、利用するのにはややこしすぎる制度となっている。

iDeCoもどうなるか

澤:個人向けのDCを拡充するというのは大歓迎である。国の年金制度は世代間扶養という仕組みになっていて、高齢化の進展とともに運営も維持も難しくなっている。その点、自分の年金は自分で積み立てて運用するDCは高齢化も関係ない。日本に普及させたい制度だ。

草:先進国はどの国においても高齢化が進行しています。いつまでも国に頼られてはかなわないから、自分で用意する制度になっていった欧米。それと比べ高齢化がより速く進行していたにもかかわらず制度を変えられなかった日本。導入は必然というわけですね。

さわかみファンドCIOの草刈貴弘氏(左)

澤:DCは、先行して導入されている企業年金などでの普及はいまいちで、なかなかうまくいっていない。その理由は簡単で、極めて日本的なものだ。

草:日本的とはどういう意味ですか。NISAのように導入の仕方があまりうまくないのでしょうか。

澤:第一に、DCを利用する個人の間では投資や運用の意識が未成熟で、どうしても預貯金タイプの元本保証型を選んでしまう。長期の財産づくりをするはずなのに、それに適した運用商品になかなか入っていけない。これでは自分の年金づくりははるか遠い。

草:結局は制度をどう利用するかということですね。それにはやはり投資教育が必要になるわけですね。

澤:制度設計がしゃくし定規で、使える商品が元本保証型から積極運用型、バランス型、グローバル型と、あれこれ多過ぎるのも問題だ。投資運用に未熟な加入者は運用商品の選択に迷い、つい慣れ親しんだ元本保証型に逃げてしまう。

草:投信も上場企業の数より多いぐらいですから、DCで選択できる数が多くても選べなければ意味がないですね。

澤:最後に、DCの運営管理を手掛ける大手金融グループが、これを商売のネタにしてしまっている。DCでそれなりに儲けようとするから、どうしてもコストの高い商品ばかりになってしまう。それを負担するのは、企業と加入者だ。

このあたりの問題を解消しようと、さわかみ投信では主に中小企業向けにDCの運営管理サービスを3年前から始めた。できるだけコストを下げる一方で、既定のファンドとして「さわかみファンド」を選定した。なかなか運用商品を選べない加入者には、我々が一番自信を持っている、さわかみファンドを購入していただくわけだ。

そこでiDeCoだが、企業のDCと同じような展開になる懸念が否定できない。せっかくの自分年金づくり制度なのに、長期投資していく姿勢が加入者に欠けていてはお話にならない。

草:確かに税制上のメリットは良いですが、そればかりになってしまうと本来の目的が果たせなくなってしまいます。やはり自分の年金を自分でつくるという原点に立ち戻らなければいけませんし、そのための教育を提供しなければいけませんね。

DCを長期運用商品のみに

澤:日本のように国民が預貯金に凝り固まっている国では、思い切ってDCの商品ラインアップから元本保証型商品を外してしまうのも一手だ。加入者の選択肢を、あえて株式や債券の長期運用型投信だけとしてしまうのだ。

草:大胆な意見ですね。しかしそれくらいやらないと変わらないですからね。

澤:長い目で見れば、それが一番の選択だったと誰もが納得するはずだ。それしか、日本人の預貯金離れを促進させる手はない。

草:やはり成功モデルを作ることが一番の教科書です。そういった人の話をもっと取り上げてほしいですね。

澤:それでもって、投資の文化を醸成していくしかない。

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。

草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2017年6月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年7月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP出版センター
価格 : 473円 (税込み)


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