鈴木あきえさん 人見知りから脱出できた会話術
毎週土曜日の「王様のブランチ」(TBS系列)ではつらつとした表情とトークが印象的な鈴木あきえさん。さまざまなゲストとお買い物をしながらいろいろな話を聞き出して場を盛り上げてきた鈴木さんが、そのコミュニケーション術をまとめたのが「誰とでも3分でうちとける ほんの少しのコツ」(かんき出版)です。以前は人見知りだったという鈴木さんが仕事を通してつかんだ話し方の秘訣をお聞きしました。
仕事の場で克服した人見知り
――あきえさんが初めてまとめたコミュニケーション術の本ということですが、対人関係からビジネスシーンまで想定したとても具体的な内容でした。本にされたきっかけはどのようなことだったのですか。
私はリポーターとしてインタビューに行く側だったので、自分が本を出すなんて全く思っていませんでした。たまたま出版社でのお仕事があり、普段「王様のブランチ」でいろいろなジャンルのゲストをお迎えしてやり取りをする姿を見ていただいていたことから、そのコツを本にまとめてみませんかということになりました。自分でも最初はいやいやいや無理ですと思いましたし、周囲も「あきえがビジネス書を?」という反応でしたが。
――どんな人でも、春は多かれ少なかれ新しい環境や新しい人間関係を経験します。幅広い人が参考にできる内容だと思いますが、どういう方に一番伝えたいですか。
もともと自分はすごく人見知りで、初めての人と楽しくしゃべるなんてできないという人間だったので、同じように人間関係が難しいなとか、人見知りを克服したいと思っている方に何かヒントになるようなことが少しでも伝えられればと思いました。
現在は言葉で表現するということを仕事にしていますが、どちらかというとそういうことは苦手でした。でも仕事の場には言葉の先生がいっぱいいました。ゲストの方からもたくさんのことを学びました。仕事を通して人見知りを克服できて、人間関係も苦手ではなくなって、毎日がより楽しくなりました。
どんな仕事でも人間関係は重要ですよね。働いて既に何年かたっていても、やっぱり人間関係やコミュニケーションがうまくいかないなと思っている方は多いと思います。ずっと働いてきていれば、たぶんそれをごまかすテクニックもみなさん持っていると思うんです。それでも根本的にやっぱりどこか苦手だなという気持ちがある人には、何かお手伝いができるかもしれないと思います。
仕事の借りは仕事で返すしかない
――最初にリポーターを始められたころを「暗黒時代」と言われています。どうやってそこから脱出して、どのように学んでいったのか、記憶していることはありますか。
自分はこの仕事に向いてないんじゃないかとずっと思っていました。特に王様のブランチのリポーターという仕事が、私にはちょっとハードルが高すぎたんですね。これを言ったら失礼にあたるんじゃないかとか、こういうことを言って大丈夫かなとか、実際にトライする前に頭でいろいろ考えてしまって結局言わずに後悔するというのが続きました。「何であのときああ言えなかったんだろう」と、家に帰ってからの一人反省会が続いたんです。
それで、言わずに後悔するのは本当にイヤだなと思うようになりました。仕事で落ち込んだとき、「仕事の借りは仕事で返すしかない」と気づいて、言わずに後悔するよりは言って後悔しようと。そういうふうに考えてからは少し楽になったと思います。
それまでは「失礼かも」と思って言わなかったことも、言ってみたらそれをきっかけに話が盛り上がったり、相手との距離が縮まったりしたので、これまでもったいなかったなと思いました。自分の心に思ったことがあったら伝えてみたほうがいい、逆の立場だったらきっと自分もうれしい。毎回のロケでこういうことを学ばせてもらいました。
今では、暗黒時代を経験して本当によかったなと思います。その当時のディレクターの方は本気でぶつかってきてくれて怒ってくれたので、私も本気でロケに挑むことができました。ちょっとおこがましいですが、仕事仲間として同じ方向を向くことができたと思いますし、今でも仲良くさせていただいています。
「相手は自分の鏡」と思えば人間関係が楽になる
――初対面というわけではないけどちょっと近づけない、いまひとつ相手と仲良くなれない、という人もいると思います。「うちとける」きっかけはどう見つければいいでしょうか。
私なりに考えたことなんですが、自分が「うちとけられない」と思っているなら、相手も絶対そう思っているんです。自分が「〇〇さんって距離を縮めてくれないな、心を開いてくれないな」と思っていたらそれは相手にもそう思われているので、思いきって自分から相手のふところにポンと入ってみることが必要かなと思います。
「相手は自分の鏡」なんだと思います。私も、何だか今日のロケは盛り上がらないなあと思うことがあります。あれ、今日はちょっとおかしいなと思っているとゲストにもそれが伝わってしまって、どんどんマイナスの波がループしてしまいます。だから、まず自分から変わることが大事なんです。話すのが難しかったら少しでも笑顔を意識してみるとか、少し声を大きくしてみるとか、ほんの少しずつでも自分が変わると、きっといいほうにいくんじゃないかなと思います。
以前、清水アキラさんとのロケで、その場で町の人に声をかけて、教えてもらった場所に行くという番組の取材があったんです。1日のうちに何カ所かを回らなくてはいけなかったのですが、カメラが回っていると取材を拒否されることがあるんですよね。ロケが始まる前、清水さんに「こういう取材って結構答えてもらえないんですよね」と話したら、「それは、こっちが『話したくないんだろうな』と思っているからだよ」と言われてはっとしたんです。言われてみれば、どこかに「きっと話してもらえないだろう、また断られるのかな。イヤだな」という気持ちがあったんです。そういう気持ちで「すいません」と声をかけていたので、相手も答えたくなかったんですね。
その後は、百発百中ではないですが聞くことが楽になりましたし、本当に「聞きたい」と思うと、相手が答えてくれる回数は多くなりましたね。
――こちらの姿勢は明確に相手に伝わってしまうということですね。
逆に、周りの人を見て自分を見つめ直すということをしてもいいかもしれませんね。「この人、感じ悪いな」と思う人がいたら、それはもしかしたら自分が相手に対して感じ悪くしている結果かもしれませんから。「相手は自分の鏡」って思うと結構面白いし、楽しいですよ。
――苦手だなと思う人がいるなら、たぶん相手も自分のことを苦手と思っているということですね。
ですが、誰かのことを苦手だと決め付けるのはやめようと思ったんです。人間だから合わない人というのはいると思うんですが、自分からシャッターを下ろしてしまうのはもったいないなあと思います。苦手かもと思っていても話してみたら案外気が合うなという人もいるかもしれないので。
苦手な人は「好きになるタイミングがまだ来ていないだけ」と思うと、話すのが少し楽になりました。そうすると、その人に話しかけられるようになったりして、さらに会話が楽になりました。自分で決め付けてしまうと、その人の好きなところを発見できなくなってしまいます。だから「苦手シャッター」は下ろさないようにしています。
言いにくいことを違う表現で伝える
――あきえさんの話し方のワザで印象に残ったのが「言いかえつっこみ」でした。言いづらいことを別の表現に言いかえて「つっこむ」ことで、角を立てず場もなごませる。お笑い芸人さんのつっこみを研究して使いはじめたそうですね。
リポーターなので、ちょっと聞きにくいデリケートな話でも聞かなくてはいけない局面もたくさんありますし、ストレートに言うと気まずくなりかねないことを伝えたいこともあります。例えば「この人太ったな」と思っても、ストレートに言うと傷つけてしまいますよね。でも、周囲の誰がどう見ても太ったよねというときに、「あれ、ちょっと膨らみました?」とか、少し角度を変えてみたりします。
これはいろいろ応用できます。例えば職場なら、失礼な態度はとれないけどちょっとうっとうしい上司への対応とか。私は30歳ですが、テレビの現場ではお姉さんなので周りから年齢のことなどで"いじられる"こともあります。でもそういうときにハイハイと聞いているだけでは面白くないので、言いかえつっこみで返してみたりしています。
――言いにくいことを瞬時に言いかえるというのは結構難しいと思いますが、どうしたらできるようになりますか。
私も瞬時にできるわけではありませんが、日ごろから五感を働かせて、いろんなことをキャッチできるような状態を心がけています。例えば、面白いとかすてきだなと思った表現はすぐ携帯電話のメモに入れておきます。携帯が近くにないときは記憶にメモすることもあります。言い方が上手だなと思う人がいたらまねしてみたり参考にしたりします。誰かのまねで構わないし、「自分だったらこう言う」という引き出しをいくつか持っておくといいんじゃないでしょうか。
タレント、リポーター。1987年3月生まれ、東京都出身。2004年に芸能界デビュー。2007年2月からTBS系列「王様のブランチ」でリポーターを務める。2013年からは同番組のレギュラーメンバーとして活躍。人気コーナー「買い物の達人」では幅広い分野のゲストを迎えての買い物やトークを仕切り、場を盛り上げるコミュニケーション力が高く評価されている。
(秋山知子)
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