株式投資ほどのリスクは取れないが、分散投資でリスクを下げつつ少しでも資産を殖やしたい。こんなニーズに応えた商品として、投資信託が人気を博している。ただ、一口に投信といっても中身は多種多様。自分に合った商品を見つけるには、どうすればいいのか。投信初心者の疑問をプロが分かりやすく解説する。
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Rさん(以下、R):iDeCo(個人型確定拠出年金)の対象者が拡大したので、私も始めようと考えています。でも、投資信託をどう選べばいいのか分かりません。
吉井さん(以下、吉):投信選びは、自分が目標とする利回りや許容できるリスクから資産配分を決めて、それぞれの資産クラスで良い成績が期待できそうな銘柄を探すのが王道です。ただ、iDeCoならではの特徴を生かした投信選びの考え方も知っておくといいですね。
R:どのようなものでしょう。
吉:ポイントは“積み立て”です。iDeCoは、掛け金を毎月拠出する積み立て投資。この積み立て投資を語る上で重要な考え方である、「ドル・コスト平均法」というのを聞いたことはありますか?
R:はい。一定の金額を毎月小分けに投資することで、買い付け単価を平準化して高値づかみを避けるという投資手法ですよね。
吉:その通り。実は、ドル・コスト平均法の効果をうまく享受するには、株式やREIT(不動産投信)などの値動きが大きな投信を買う方がいいと言われています。
R:どうしてですか?
吉:ドル・コスト平均法では、価格が下落したところでより多くの口数を買い付けることで、その後値上がりした際に大きな投資成果が得られます。株式やREITの値動きは上下の振れ幅が大きいので、この効果を得やすいのです。例えば、低コストで値動きが比較的安定している、ある外国債券インデックス型投信Aと、高コストで値動きがより大きい、ある国内株アクティブ型投信Bで比べてみましょう。両投信の過去10年間の騰落率(2017年2月末時点)は、投信Aが約24%、投信Bが約8%です。Rさんはどちらの投信に魅力を感じますか。
R:成績が良く、低コストで値動きも安定的となれば投信Aです。
吉:漠然と考えると、そうなりますよね。しかし、両投信に毎月1万円ずつ10年間積み立て投資した場合の運用成果は、投信Aがプラス約22%、投信Bがプラス約54%になるのです(下グラフ参照)。
R:不思議ですね!
吉:投信Bはリーマン・ショックで大きく値下がりしましたが、そのおかげで口数を多く積み上げ、アベノミクス以降の価格回復に伴って大きな成果を上げたということです。もちろん、低迷している期間は投信Aよりも悪い結果になりますが、60歳まで引き出せないiDeCoのような長期の投資では、いつか価格が戻る可能性が高いです。
R:値下がりしても、諦めずに続けることが大事なのですね。
吉:さらに言えば、インデックス型投信とアクティブ型投信とを比べて過去のリターンが同等なら、値動きがより大きいアクティブ型を選ぶという考え方もあり得ます。いずれにしても、値動きの特徴をよくつかむことが大切です。
R:長期の積み立て投資では、単純に値動きがマイルドな低コストの投信を選べばいいというわけではないのですね。

[日経マネー2017年6月号の記事を再構成]