副業で聞く悩み、本業のサービス改善に リクルートマーケティングパートナーズの北井朋恵さん
リクルートマーケティングパートナーズ(東京・中央)の北井朋恵さん(44)はオンライン学習サービス「スタディサプリ」を自治体に営業する傍ら、新進企業の経営コンサルティングをする。
ブライダル営業部で課長、部長を務めた。結婚式場経営者から「採用が間に合わない」「幹部が育たない」との相談が多く、「経営をサポートする会社を起こしたい」と考えるようになった。昨年12月に副業を申請。人工知能技術の会社などと顧問契約を結び、業務の合間に助言する。「副業で聞く悩みの相談は本業のサービス改善につながる」と北井さんは話す。
副業の時間ができた背景には同社の働き方の改革がある。15年に会社外での勤務を認める制度を導入。北井さんは会議以外の出社の必要がなくなり、通勤時間分など「1日2、3時間の自由な時間を捻出できるようになった」。
かつて社内にはビジネスアイデアを温め、起業を目指す人が多かったが、減り始めていた。ネット電話会議など社外にいても働ける環境が整ったことで「業務の負荷が減り、空いた時間を副業や新規事業の考案、家族の時間など、社外の活動に振り向けるようになった」と経営管理部の田中信義部長は説明する。副業を持つ人は1月時点で51人と15年7月から18人増えた。新規事業の提案は改革着手前の14年度の20件から、16年度は213件と10倍になった。
名産品プロデュース企業の社長を兼ねる ソニーの正能茉優さん
「やりたいことをあきらめずに家族も友達も仕事も、バランスの取れた生き方をしたい」。ソニーのTS事業準備室コンスーマーエクスペリエンスプロデューサーの正能茉優さん(25)は地方の名産品をプロデュースする企業ハピキラFACTORY(東京・荒川)社長でもある。
長野県小布施町のまちづくりインターンをした経験から、地方の名産品を広めたいと大学3年生だった13年に起業。大手広告会社にも入社したが制約があった。ソニーには副業の禁止はなく、昨年10月に中途入社した。同社では年10~15件ほど副業申請があり、少し増えてきたという。
正能さんは社内外から人材を発掘する人事部直轄の「ビジネスクリエーター室」に所属し、午前9時半~午後5時半はその仕事に没頭する。「映画を見るのに壁や床、ベッドに映せるような新商品開発ができないか」。知りたいことがあればハピキラ人脈をフル活用していく。「結婚や出産など女性のキャリアは流動的。パラレルキャリアは実践しやすいと思う」と話す。
正社員が起業、副業を持つ働き方は着実に社会に広がり始めている。
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新たな職 生む機会に~取材を終えて~
収入を得る手段を複数持てるのは大事だ。結婚や育児、夫の転勤など仕事を続けるのが難しくなる転換点が多い女性にとって、副業を持つことは経済面の大きな支えになっているのだろうと、取材に着手した。
しかし、「終身雇用から抜け出しきれない従来の慣習に沿って、苦しみながら泳ぎ方を考えるのはもったいない。女性ならではのやり方で世の中を変える仕事ができれば日本は元気になる」という北井さんの言葉にハッとした。
「複数の顔を持つことは、創造的な仕事を生み出すチャンスにつながる」と立教大学の萩原なつ子教授は話す。「子育てや介護、地域活動が起業の種につながることがある。社会には3万近い仕事があるが、組み合わせれば新たな職を生むはず」
副業を認める場合、企業は自社と競合しないか、社員が働き過ぎないかなど、しっかりチェックしているようだ。
(畑中麻里)
[日本経済新聞朝刊2017年4月17日付]