2017/5/16

飼育箱が明るいことは母親マウスにとってはストレスだし、行動量が減少するなど母胎にさまざまな影響が現れるが、それらよりも母親マウスから胎児に昼夜サイクルの情報が伝わらないことが問題らしい。

というのも、飼育箱が一日中明るいままだと夜間(暗期)に高まるはずのメラトニンの分泌が抑えられるのだが、明暗サイクル下で飼育した時と同じ分泌パターンになるように人工合成のメラトニンを母親マウスに注射すると胎児マウスは正常に成長するからである。

成長が遅れる詳しいメカニズムは分かっていないが、細胞の一つ一つに時計遺伝子が存在し、ほぼ全ての細胞や臓器の活動にリズム性があることを考えれば、体が形作られる胎生期に細胞や臓器の時刻(リズム位相)を整えることが成長にとって重要な意味を持つことは想像に難くない。

そのほかにも、妊娠中の母ザルが24時間明るい環境で飼育されると新生児の子ザルのコルチゾールの濃度が非常に高くなることも分かっている。コルチゾールはストレスを受けた際に大量に分泌され、血糖を維持したり免疫系の過剰反応を抑えたりする役割をするが、逆に長期間にわたりコルチゾールが高止まりすると気分調節や認知機能に悪影響を及ぼす。

人でも妊婦の生体リズム異常が胎児の発達に悪影響を与えるのではないかと危惧されている。妊娠中に夜勤や時差ぼけを経験する職種、例えば看護師や国際線の客室乗務員では出産児の体重減少や、早産や流産の頻度が高いなどの報告があるからである。

今回ご紹介したように、体内時計が十分に働いていない胎児でも母親の助けを借りながら必死に体のリズムを整えているのである。妊婦さんやそのご家族には、禁煙や禁酒だけではなく生活リズムを整えることも健やかな胎児の成長にとって大事であることを知っていただきたい。

三島和夫
 1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2017年4月13日付の記事を再構成]

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