メルセデスに聞く 新型コンパクトに勝利の方程式
2011年から6年連続でグローバル販売過去最高を記録し、2016年には年間200万台の大台を突破したメルセデス・ベンツ。なかでも好成績をけん引するのは2012年に生まれ、現在までに累計200万台を突破した新世代FFコンパクトカーシリーズ。ブダペストで行われた末っ子SUVの「GLA」のフェイスリフト試乗会で、小沢コージは担当エンジニアと広報担当を直撃した。
FFメルセデスは三代目にしてなぜ成功できたのか?
小沢コージ(以下、小沢) 「Aクラス」に始まり「Bクラス」「CLA」「CLAシューティングブレーク」、そして今回のGLAと続く新コンパクトシリーズ。2012年から世界累計販売台数が200万台を超えたということですが、なぜ今回は成功できたんでしょう。正直、前の世代はそこまでじゃなかったように思うのですが。
ラルフ・ドルデ(以下、ドルデ) やはりデザイン、そこが決定的な要素の一つでしょう。お客様がいちばん最初に接触して印象が作られる部分はそこですし、それからもう一つはメルセデス・ベンツというブランドイメージです。
小沢 世界で最初にクルマを作ったメルセデス・ブランドの強さは圧倒的だと。
ドルデ もう一つは技術。メルセデスの魅力の一つの柱として安全性があると思います。
小沢 ただし、それは前のAクラスも同じだったと思うんですよ。
マルクス・ナスト(以下、ナスト) 確かにその通りです。メルセデスはこのセグメントにおける安全の先駆者といってよく、今回も多くの技術革新が行われました。例えばBクラスはこのセグメントにおいて初めて衝突回避アシストを搭載し、それによって追突の事故数が大きく減らせたわけです。
小沢 その通りでしょうね。ただ、今回の成功のポイントはやはりスタイルと質感、そのあたりに特化した戦略がポイントに思えるし、そのやり方を知りたいのです。正直、前のはずんぐりむっくりで、安全だったかもしれないけど、スタイルは決して良くなかった。
ナスト われわれはそれを失敗とは言えませんが、今回はとにかく最初からメルセデスというブランドを若返らせるということが大きな狙いでした(旧型購入層は50代)。若年層にもっとアピールしたかったし、若いうちにできるだけブランドとのつながりを作ってもらいたかった。
デザインパワーをどうやって引き出したのか?
小沢 若者マーケティングですね。具体的にはどのような活動を指示したのですか。
ドルデ お客様の反応です。寄せられた要望を吸い上げてまして、例えばスマートフォンに接続するためのApple「CarPlay」や「Android Auto」の採用はお客様の要望があってのことです。
小沢 より綿密なマーケティングということですね。それはいつからですか。
ナスト 2012年のCES(北米ラスベガスで行われる家電見本市)でCEOのディーター・ツェッチェはネットワーク化に大きく舵を切ると発言しました。
小沢 ちなみにデザイン改革はいつから?
ナスト 現行世代からです。デザイン部門のトップにゴードン・ワグナーが就任し、ブランド全体のデザイン表現言語を整え、決定づけました。
小沢 前とはどう変わったんでしょう。以前は今のA、B、CLA、CLAシューティングブレーク、GLAという流れほど統一されていなかったとか? 前よりデザインのプライオリティーが上がったと言えませんか?
ドルデ それを言い切るのは難しいですが、確かにデザイン表現、言語は大きな決定的要因です。ただ技術も忘れてはなりません。
小沢 とにかく前よりも分かりやすくカッコいいデザインになったと思うんです。そのためにどういう指示、戦略が打ち出されたのか。
ナスト 若年層をこのブランドに取り入れ、関係づくりに力を入れるためにデザイン言語を見直し、先行させましたが、決してデザインだけを一新させたわけではありません。あくまでもデザインはキーファクトの一つであって、技術とブランドの存在も見なければならないのです。
メルセデスがモビリティプロバイダーになる! ってホント?
小沢 一方、商品構成は明らかに豊富になりましたね。シューティングブレークなんてオシャレなクルマは昔なら絶対に作ってこなかっただろうし、ああいう戦略こそが今のメルセデスのすごさだと思うんですけど。
ドルデ 確かに多様性は生まれました。お客様の反響も同じで、デザインは間違いなく大きな購入動機の一つになっています。特にインテリアは相当細かいところまで作り込んでますし、パッと見て分からないところまで気を配っています。例えばEクラスと同じレベルの操作パネルの触り心地の良さなど、気づきにくい部分かもしれませんが、使いやすさやデザインという分かりやすい部分だけでなく、機能性や作り込みも常に意識しています。エクステリアも、ヘッドライトやテールライトにメルセデス・ベンツのロゴが入っているなど細部にもこだわってデザインを良くすると同時に、エアロダイナミクスも向上させているんです。
小沢 カッコだけの改良はやらないと。それはCEOの方針ですか? それともそういう全社的スローガンが生まれたとか?
ナスト 個人の特定はできませんが、会社全体でお客様からの反響を受け止めると同時に、時代の流れに応えようとしています。
小沢 新しいメルセデス流の顧客対応が生まれているんでしょうか?
ナスト 特にコンパクトカーについては時代が変わってきてることも把握して、それにデザインで応えるようにしています。
小沢 どの世界でも老舗ブランドの若返りってかなり難しいものなんですよね。
ドルデ その決意は間違いなくあって、実際に欧州でAクラスは購入者年齢が13歳くらい下がってます。
小沢 それから2015年のフランクフルトショーでツェッチェCEOが言った「メルセデスはモビリティサービスプロバイダーになる」という宣言は本気なんですか? 頭の硬い古いメルセデス・ファンからすると、今のAクラスのカッコよさですら今ひとつ理解し切れてないうえ、さらにピンときていないと思うんです(苦笑)。
ナスト あれは地域によって反響もまちまちですが、要はクルマだけでなく、カーシェアリングやその他を含めて、メルセデスが移動手段を提供しようということなんです。モビリティが欲しくなったときに、第一にメルセデス・ベンツに声をかけてほしいという。
小沢 それがモビリティサービスプロバイダーなわけだ。ちなみにコンパクトクラスにこそ今後コネクティビティサービスを積極導入していくつもりなんですか。
ナスト 違います。特定のカテゴリーに限らず、幅広く展開して行きます。つまりとある地域でいろんなメルセデスが選べるだけでなく、ある地域から別の地域に移動するときに、いつもなじんでいるメルセデスのクルマが使える、そういうモビリティサービスを提供したいと考えています。
小沢 なるほど。世界のどこへ行ってもなじんだ自分好みのメルセデスが乗れる! それが新しい移動サービスの目標なんですね。
ナスト そうすることでグローバルの中でメルセデス・ワールドを感じていただきたい。
小沢 別にメルセデスがAppleやGoogleになるわけではなく、全世界で新世代のメルセデス流モビリティサービスを提供していく。そういうことですね。
ナスト メルセデス・ベンツは別に検索エンジンを作りたいわけではありませんから(笑)。
ラルフ・ドルデ(Ralf Dolde) 写真中央:1997年現ダイムラーAG入社。コンパクトカー車両開発プロジェクトに携わり、初代「Aクラス」のフェイスリフト、「Bクラス」のフェイスリフトを経て、現在は「GLA」のフェイスリフトの責任者。49歳。前職はボッシュ。
マルクス・ナスト(Markus Nast) 写真右:1991年現ダイムラーAG入社。開発部隊に所属し、安全性や品質管理を担当。営業を経て、現在のコミュニケーション担当に。なんと祖父、父と親子3世代にわたってダイムラーで働いてきた生粋のメルセデスマン。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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