昔の花火大会、ゆかた姿はなかった 「制服化」のなぜ伊藤元重 矢嶋孝敏 共著「きもの文化と日本」(1)

伊藤 そうなんですか! 僕は静岡育ちなんで、当時の東京はよく知らないけど、いつの間にか花火大会とゆかたをセットで考えてました。だって、いま夏場に電車でものすごく見かけますよね、ゆかたを着た若い子たちを。

矢嶋 花火大会とゆかたがセットになったのは、むしろ最近なんです。いまでは半分以上がゆかたを着ている。特に若い女性の8割がたは着てるんじゃないかな。

伊藤 成人式の振袖や卒業式の袴と同じで、制服化・記号化が起きてるんでしょうね。花火大会イコールゆかたという。

メンズゆかた(Martin Holtkamp 撮影)

矢嶋 まったく同じ現象だと思う。面白いのは、この3~4年、若い男の子のゆかたが増えてる。3割ぐらいには上がってきたんじゃないかな。彼女がゆかたでキメてるときに、彼氏がTシャツ・ジーパンじゃあねえ。

伊藤 見劣りしますよねえ(笑)。花火大会のゆかた比率が高いのは、全国的に見られる現象ですか?

矢嶋 東京の花火大会が、いちばんゆかた比率が高いと思う。

伊藤 特に東京でそういう現象が起きているというのは、ファッションのひとつとして、ゆかたをとらえてるんでしょうね。何かイベントがあるときに、普段だと着られないようなものを着るという。

矢嶋 日本人はシーズンイベントが好きだからね。ハロウィンもバレンタインデーも、世界でいちばん盛り上がってるでしょう。ハロウィンなんてアメリカじゃ子供がやるもんで、大人はやりませんよ。そうしたシーズンイベントのひとつとして、花火大会とゆかたの組み合わせができたんだと思う。

伊藤 いまの若い子が好むゆかたの柄(がら)って、昔と違うんでしょうか?

矢嶋 意外に、半分ぐらいはクラシックな草花模様なんです。残りの半分も、古典的な幾何学模様。市松(いちまつ)模様とか格子(こうし)みたいなやつね。モダンな柄は、全体の4分の1しかない。

伊藤 デザインに関しても記号化されてるのかもしれませんね。花火大会で着るゆかたというのは、こういう感じの柄だと決まってる。だとすれば、テレビや雑誌でよく見かけるような、古典的なデザインを選んでいくことになる。自分で工夫するというより、世間の記号に乗っかっていく。

矢嶋 たしかに、そういうことなのかもしれない。

矢嶋孝敏氏(左)と伊藤元重氏
伊藤元重
東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授。1951年静岡県生まれ。東大経済学部卒業。ロチェスター大学ph.d。専門は国際経済学。政府の経済財政諮問会議民間議員などを兼務。
矢嶋孝敏
やまと会長。1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政治経済学部卒業。88年きもの小売「やまと」の社長に就任、2010年より現職。17年に創業100周年を迎える同社できもの改革に取り組む。

第2回「きものを世界遺産に?『死んだ文化』では生き残れない」では、 きもの文化が生き残るための道についての討論をご紹介します。

「きもの文化と日本」記事一覧

きもの文化と日本 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 矢嶋 孝敏, 伊藤 元重
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 940円 (税込み)

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