N
出世ナビ
スタンフォード 最強の授業

2017/4/16

スタンフォード 最強の授業

佐藤:2011年といえば、すでにシュラム先生はスタンフォードで人気講師になっていたころですよね。教育者としての評判に傷がつかないだろうか、学生や教員から色眼鏡で見られないだろうか、と不安に思いませんでしたか。

シュラム:ものすごく怖かったです。不安で仕方がありませんでした「どんな顔をして学生にコミュニケーションを教えればいいのだろう」と。ちょうどそのころ、スタンフォード大学との5年間の契約更新も控えていましたから、「ビデオを見た上司が、契約を更新しないと言ってきたらどうしよう」と悶々と悩みました。さらに「お世話になったニューヨーク大学のブランドにも傷をつけてしまうのではないか」とも考えました。私が自殺未遂をしたのは、ニューヨーク大で働いていたときだったからです。

こうした不安に押しつぶされそうになりながらも、私はビデオを公開することを決めました。私の講演ビデオを見て、一人でも自殺を思いとどまってくれたら、それでいいのです。どれだけ色眼鏡で見られようが、自分のキャリアに影響があろうが、たった一人でも救えれば、それだけで十分価値があることだ、と思いました。

書き込みチェックの特別チームも用意

佐藤:TEDトークの公開後、どのような反響がありましたか。

シュラム:それが驚くほど好意的だったのです。

TED側はとても心配して、私の講演ページに書き込まれるコメントをチェックする特別チームをつくってくれました。もし「自殺しようと思う」とか、「もう死にたい、助けてください」といったコメントが書き込まれたら、すぐに返事をして自殺を思いとどまるよう説得するためです。結果的にその心配は杞憂に終わり、私が知る限り、そういう危機的なコメントが書き込まれたことはありませんでした。

しかし残念なニュースもありました。私の講演ビデオを見たのに、自殺してしまった若者の話です。彼は亡くなる1カ月前、フェイスブックの自分のページに私のビデオをアップしていました。それが「助けてください」というサインだったのです。それなのに誰も助けてあげられなかった……。これは私にとってあまりにも悲しくてつらい出来事でした。私の講演ビデオを見ても、自殺をしてしまう人がいる。こういう事実を知るたびに、自分の無力さを感じ、ただただ悲しくなります。それでも、私は、できるかぎり多くの人に、「自殺などするな」と呼びかけたい。だからこそ、私は今、自殺予防にとりくむ団体を支援したり、全米で講演を行ったりしているのです。

J・D・シュラム J.D.Schramm
スタンフォード大学経営大学院講師。教育学博士。専門は組織行動学(コミュニケーション)。2007年より同校のコミュニケーション部門で中心的な役割を果たし、数多くのコミュニケーション科目を創設。現在、MBAプログラムで選択科目「戦略的コミュニケーション」「レピュテーション・マネジメント」を教えている。授業では積極的にTEDトークを活用し、「TED ×Stanford」のアドバイザーも務めている。
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら